第六迷宮『ダリア』の番人代行~ケツ論から言うと少女に乞われて現代ダンジョンの番人になった話~

みやこ

プロローグ

第1話 ケツ論から言おう

 明日から予定のない夏休みが始まるのだった。ボクは約束された退屈へせめてもの細やかな反抗を企てて、ついでにとある理由も抱えて、夜半家を出た。


 死ににいくつもりはなかった。ただ買い物がしたかったのだ。


 時刻は九時。今からならギリギリ、十時閉店の本屋に駆け込める。

 十冊程度買い込んで、読書の夏にでもしようじゃないか。


 幸い貯金はある。

 いっそ分厚い幻想文学、ポーの全集なり澁澤の翻訳の集成なりを買って読み耽るのもありかもしれない。


 ついでに人の少ないこの時間帯なら日中買いに行けないある種の雑誌や漫画も買えよう。


 イカれた入れ替えアイドルオタクじゃないが、尻とタッパの大きな子が入ってるのがあれば買いたい。

 特に尻。

 尻は良い。

 胸なんぞよりよっぽど躍動していて、肉の詰まっている感がある。

 引き締まりと豊満の相反を両立させる、すなわち女体のナイアルラトホテプと言えよう。


 それを包む服もイカしてる。

 黒のパンティで包み込むのは王道だが、食い込ませて欲感を煽られるのも乙なもので、パンストで覆うのもよろしい。


 覆われているがゆえの解放への予兆。


 そういう点で言うならばパンツ・ルックのしゃがんだ瞬間こそが傑出している。出してないけど。でも形が丸分かりであり、そこにうっすらと浮き出る下着の筋でも見えようものなら。

 この傑出に出会ってしまったが最後、スカートなどという無粋には一切の興味を失った。

 あるべきは尻。見るべきは尻。布に覆われたが故に解放を感じさせる尻。意思の強い尻こそがこの世で最も神秘なのだ。


 そしてケツのデカさが映える命のあり方は高身長。高い背丈を支える脚、その付け根から尻にかけての程よい筋肉がいっそうの旨味を掻き立てる。


 もちろん柔らかな尻も良い。座った時にむにっと歪む、潰れる、そういうケツも乙なものだ。


 死ぬならケツに潰されて死にたい。

 それが結論だ。


 ───そう思っていたのだが


 認識が変わることもある。


 少なくとも、スカートという服装への反感は今のボクにはない。

 人類の至宝たる天涯、あの天鵞絨を、今のボクは受け入れようと思う。

 超高校生たるド同級生の一生一度だろう不覚に誓って───


 なんて考えてたら本屋に着いた。

 入店。

 さっさと買って帰ろう。

 真っ先に目についたのは新刊コーナーで、ジャンルごった煮のいろんな本が置いてあった。中でも最も一目を引く位置に置かれているのは、漫画でも、ましてや小説でもなかった。


『月刊ダンジョン』


 迷宮に興味のある人間でこの雑誌を買わない人間はいない(例外1)な、日本で今最も売れている書籍である。


 尤も、ボクは興味などない。

 幼なじみの大魔王(貧ケツ)に買っていってやるかと思ったが、アレは「ぬん。こんなの読む時間使って潜ればいいじゃんって愛様は思うもんに」とほざきよるに決まっている。なのでスルー。


 小説コーナーへ到着。文庫を五冊。四六判を二冊。ハードカバーを二冊。買ったのは『ポー詩集』『空亡の蝕』『名探偵が殺せない』『ホラー作家の家に行こう』『人間食べまくり菩薩』『新本格VTuber賀古ミライのバーチャル推理25』『秒針病棟』『君のための大怪獣』『シャーロック・バース ザ・ダイナミクス・オブ・マルチバース』。後はエロ本を三冊。そ知らぬ顔で会計を済ませる。


 蛍の光に背中を押されて外へ出た。

 満足。大満足である。


 さっさと帰って読もう。もちろん、一番読みたいのは『シャーロック・バース』ですが。マルチバースカヴィル家の犬の謀略によって多元世界から集められたシャーロック・ホームズが事件に挑む傑作パスティーシュですが。決して『デカケツ高校腰ガク部決起集会決定傑作選』ではありませんが。


 ……まあ、流石に、ここまで尻を主張し過ぎるのは不自然かもしれない。

 いい加減に、そろそろ述べるべきだろう。

 ボクは忘れられないのだ。

 今日の放課後に見た、あのパンツがずっと網膜に焼き付いている。どこぞの悪魔憑きの『画面潰しブラクラ』でも食らったみたいだ。そしてボクは恒温の最高速、不滅を誇る灼熱の揺り籠ではまったくないので、今を以てその映像に悩まされている。

 それを上書きするために、こうして買いに来た、という理由もあるのだ。


 いったいどうして、焼き付くようなパンツを見たのか。


 それについては次話、回想していこう。







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