003 ドアの先の地獄と強敵?

 こうしてダンジョン攻略を進める俺だが、当然この光景は生放送されている。


 今も俺を見ているプレイヤーたちが、何人もいることだろう。


 しかしだとしても、俺が何かパフォーマンスをすることは無い。


 何故なら俺は、自分の生放送を無いものと思って活動しているからだ。


 コメント欄など、アンチであふれていて見るにえない。


 その中でも過去に俺とパーティを組んだ人物たちの中には、俺を恨んでいるのかあることないことを言いふらしている。


 また祭りだと便乗したり、内容を鵜呑うのみにした人たちが後に続いた結果、俺のアンチはかなり多い。


 心の安寧あんねいのためにも、コメント欄は見ないことにしている。


 ちなみに応援してくれたり投げ銭してくれる人もいるのだが、その人たちについては申し訳ないばかりだ。


 そんなことを考えつつダンジョン内を進むと、俺は木製のドアを発見した。


 これは幸先が良い。


 ダンジョン内に現れるドアの先では、宝箱を見つけられることがある。


 宝箱にはダンジョン名に関連したアイテムや、装備品がランダムに入っていることが多い。


 稀にだが、トラップや何も入っていない事もある。


 どちらにしても数少ない貴重品が手に入る場所なので、入らないという選択肢はない。


 けれども、俺には少々不安がある。


 ソロなので戦力面というのもあるが、これまでの宝箱の中身が特殊過ぎだった。


 何だかんだでパーティでは、酷い目に遭ったからか所有権を放棄するのだ。


 今回一度使用した激臭の水鉄砲など、手に入れたダンジョンで散々ヘドロの沼に落ちたことで誰も欲しがらず、俺に押し付けてきたほどである。


 ちなみにダンジョン内で手に入れた物は、基本誰かに売ったり譲渡することは出来ない。


 そうした理由や嫌な記憶が蘇ることもあり、尚更なおさらいらないのだろう。


 けれどもそんな物でもダンジョン内に限りだが、仲間に対しては一時的に貸すことは可能だったりする。


 まあだとしても、誰も使いたがらない訳だが……。


 しかしそれでも使えば有用ということもあり、俺は手に入れることを選ぶ。


 そういう訳で激臭の水鉄砲を取り出して手に持つと、ゆっくりと俺はドアを開けた。


「ごぶぶ~!」

「ごっぶ! ごっぶ!」

「ぐぶぶぶぶぶぶ!」

「ぐぶぐぶば!!!」


 目の前の光景を見た俺は、ドアをゆっくりと閉じる。


 うん、無理だ。


 こういう場合は諦めよう。


 俺は何も見ていない。


 ぬるぬる空間で男色ゴブリンのたちがフィーバーしていたのなんて、見ていない。見ていないったら見ていないんだ!!!


 俺は顔を青ざめながら、逃げ出した。



 ソロでダンジョンを攻略するならば、無理をしてはいけない。


 モンスターに捕らえられたら、一巻の終わりだ。


 すぐさま自害する必要がある。


 特にこの男色ゴブリンのいるダンジョンでは、下手に生かされ続けたら地獄よりも酷い目に遭う。


 それにダンジョン内で死亡しても、本当に死ぬわけではない。


 もし仮に死亡しても、巨大なガチャガチャがあった場所に戻されるだけである。


 まあだからといって、安易に死亡はできない。


 当然死亡にはデメリットもあり、ランダムにポニカ・アイテム・装備品などが失われる。


 大金を出して買った装備やアイテムが、一瞬のミスで死亡して失われる事もあるわけだ。


 レベルの無い世界ということもあり、装備品やアイテムが強さを示す。


 それが失われるのは、避けなければいけない。


 だからこそ俺は、爆竹と泥棒の森で泥棒リスに装備品やアイテムを盗まれたことを、今でも思い出す。


 ようやく買えた鉄の剣も、そこで失われてしまった。


 生活費をやりくりしながら武器を買うのは、意外と大変だったのに……。


 思わず溜息を吐いてしまう。


 しかしここで、挫けるわけにもいかない。


 俺は男色ゴブリンを出来るだけ回避しながら、再び先へと進む。

 

 その中でどうしても回避できない場合や、隙だらけの時は逆にこちらから仕掛ける。


 激臭の水鉄砲からの木剣コンボや、尻穴爆竹の串を使用した一撃必殺を使っていく。


 ちなみに尻穴爆竹の串は消費アイテムだが、手に入れたとき30本が一纏めにされたものだったので数については問題ない。


 まあ二度と手に入らないかもしれないので、なるべく節約していきたいところだ。


 そして俺は、ここで二つ目のドアを発見する。


 先ほどのこともあったので、嫌な気持ちになりながらもドアを開く。


 すると内部にはピンク色の槍を二本持った、少し他より筋肉質な男色ゴブリンが宝箱を守っていた。


 何というか、武人の風格がある。


 もしかしたら、真剣勝負を望むタイプかもしれない。


 普通に戦えば、まず勝てないだろう。


 俺は負けたときのことを一度考えて頭を振ると、勇気を出して部屋へと踏み込む。


 逃げることも必要だが、逃げないこともまた必要だ。


「いくぞ」


 小さく呟いて、俺は二槍男色ゴブリンに立ち向かうのであった。



 結果から言うと、勝った。


 余裕で勝った。


 激臭の水鉄砲と尻穴爆竹の串のコンボの前では、鍛えられた筋肉も意味をなさない。


「なんか……ごめんな」


 煙となって消えていく二槍男色ゴブリンに、俺はそう言った。


 けれども、勝ちは勝ちだ。


 勝てばよかろうなのだ。


 俺はそう自分を納得させると、部屋の奥にあった宝箱に少し近づく。


 そして近場の石を拾うと、宝箱にぶつける。


 うん、何も起こらないな。


 次に手拭いをポケットから取り出すと、口を覆う。


 煙系のトラップが発動した場合、無いよりはましだろう。


 最後に宝箱の背後に回ると、まず周辺の壁に穴などが無いことを確認してから、ゆっくりと開く。


「よしっ」


 どうやらトラップの類は無いらしい。


 ソロだと、こうした場面で苦労してしまう。


 現状の俺では、トラップの対策はこの程度しかできない。


 そして何が入っているのかと中を覗くと、小さなピンク色の筒が入っていた。


「なんだ、これ?」


 思わずそう声に出してしまう。


 手に取ってみると木製の手触りをしており、一部分がスライドできるようになっている。


 試しにスライドしてみると、内部にボタンのようなものが隠されていた。


 押したい気持ちはあるが、未鑑定のものは使わない方がいいんだよなぁ……。


 初めてのダンジョンの時、それで酷い目に遭った。


 まさかポーションかと思ったら、振りかけた周辺から徐々に衣服だけを溶かすとは普通思わないよな。


 なので俺はそれ以来、手に入れたアイテムや装備品は必ず鑑定してから使用することを決めている。


 そしてこんな時のために、貴重なポニカで購入したアイテムがあった。


 その名も『鑑定虫メガネ』お値段何と500ポニカ! 高い!


 日本円とポニカはほとんど同じだが、今の俺には500ポニカでもキツイ。


 しかも消耗品であり、一度使用したら消えてなくなってしまう。


 けれどもこれが有用な物であった場合、ダンジョンを攻略できる可能性が大いに上昇する。


 ソロである俺の場合、何が起きるか分からないので金を払ってでも使用したほうが良いと判断した。


 ちなみにダンジョンから出れば、無料で鑑定出来たりする。


 だからこそ、500ポニカが高く感じてしまうんだよな。


 そんなことを思いながらも、俺は右の頬袋から小さなバックを取り出すと、中から鑑定虫メガネを取り出した。


 右と左に合計六つしか入らない頬袋だが、こうした入れ物にまとめるという裏技もあったりする。


 これを見つけたときは、自分のことを天才だと思ったね。


 そしてバックを再びしまうと、俺は手に入れたピンク色の筒を鑑定するのだった。


__________


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