宇宙でのんびりスローライフ

神楽堂

第1話 そうだ、宇宙に行こう

宇宙ステーションネオアース行きレインボーシャトル3003便は、まもなく離陸します。強いGがかかりますので、ご注意ください」


地球ともお別れだ。

憧れの宇宙に行けるのだ。

仕事のストレスや人間関係でボロボロになった俺は、会社を早期退職し、第二の人生を宇宙で過ごすことにした。

宇宙ステーションネオアースでは、俺はのんびりと農業をやろうと思っている。いわゆる、スローライフってやつだ。

俺と同期で会社をやめたやつの中には、地球オールドアースでの農業に転職してスローライフを送っているやつもいる。

俺も、地球での農業は一応考えた。

しかし、地球では気象の問題がある。

日照、気温、降水量……

地球オールドアースの気象は、未だに人類の力では制御できない。


昔は「異常気象」という言葉があった。

意味を調べてみると「気候が平均的状態から大きく偏った状態」とのこと。

気候が平均的な状態であるはずない。

気象が平均から大きく外れるのは当たり前のことなのに「異常」って言葉を使うのはおかしいのではないかということになり、地球からは「異常気象」という言葉は消えつつある。

つまり、「異常」が「日常」になってしまったのだ。

それが、地球オールドアースの気象。

目まぐるしく変わる気象の変化に絶えず対応し続ける仕事、それが地球オールドアースでの農業。

そういう理由で、地球での農業は全く「スローライフ」にはならないのだった。


スローライフとして農業するなら、地球よりも宇宙でやる方が断然有利!

天候を人間が完全に制御できるからだ。

そういう理由もあって、俺は宇宙ステーションネオアースへの農業移住を決意したのだった。


ただ、いかんせん、交通費が高い。

やっぱり、地球内を移動するのと比べて、星間移動はまだまだ運賃が高いのが難点だ。

宇宙ステーションネオアース地球オールドアースの行き来は、俺の今の経済力では頻繁にはできないだろう。


俺はシャトルの窓から外を見た。

地球オールドアースの景色が愛おしく見えてくる。

会社のストレスも人間関係も大嫌い! 出ていってやる!!

そう思って俺はこのシャトルに乗り込んだ。

しかし、いざ離れるとなると、やはり感傷的になってしまう。



今、俺が乗っているのは「レインボーシャトル」3003便。

「レインボーシャトル」という名称には、「宇宙と地球の虹の架け橋」という意味が込められている。

地球上を行き来する乗り物は「飛行機エアプレーン」と呼んでいるのだから、宇宙に行く乗り物は「スペースプレーン」と呼べばいいのではとも思えるが、あえて「シャトル」と呼称しているのには意味がある。

「シャトル」には「往復するもの」という意味があるのだ。

我々人類は、宇宙に対する畏怖の念を、いまだに捨てきれていない。

宇宙に行ったら帰ってこられなくなるのではないか、そういう不安から、宇宙に行きたがらない人も多い。

それで、「往復」を意味する「シャトル」の文字が入ったのだそうだ。

俺は地球に未練がないので、宇宙に行ったきりでもまったく構わないのだが。


ちなみに、レインボーシャトルは千の位が1の便は月行き、2の便は火星行き、3の便がネオアース行きだ。

月や火星への移住は考えなかったのかと聞かれることもあるが、月や火星は観光やビジネスの星というイメージが強く、移住先としてはまだ不人気だ。


そして、重力の問題は大きい。

月の重力は地球の6分の1、火星の重力は地球の3分の1。

最近は、月や火星の重力対策も整備されてきてはいるが、骨密度や筋力の低下は、深刻な宇宙問題となっている。

重力的に一番快適に過ごせるのは、やはり1Gの重力があるネオアースだ。

スローライフを送ることで健康を害することは、できるだけ避けたい。

月や火星で働いている知り合いの話を聞くと、やはり日々の筋トレが大変とのこと。

重力が軽い星では、筋トレを継続しないとどんどん筋力が衰えてしまうのだ。

運動が好きな人ならいいのかもしれないが、あいにく、俺はそこまで運動は好きではない。第二の人生は、ゆっくりと過ごしたい派だ。

月や火星へは移住ではなく、機会があれば観光で行くことにしよう。


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