戦闘少女とティーブレイク【ワンガル雑談】#1[後編]
「はい。ではまず、アリシアちゃんへの質問です」
誰への質問か星が言ったとき画面内に座るよう、戦闘少女たちには先に指示をしてある。自己紹介を終えたモニカと交替し、アリシアが椅子に腰を下ろした。
「趣味はありますか?」
《 はい! 私はクロスワードパズルを解くのが趣味です。頭の柔軟をして、戦闘中の不測の事態にも対応できるよう鍛えています! 》
***
[頭良さそうだもんな〜]
[秒で解きそう]
[良い趣味だ]
***
「はい。お次はポニーちゃんへの質問です」
《 はい! 》
「ポニーテールにこだわりを持っているそうですが、髪を結ぶリボンにもこだわりがあるのでしょうか?」
《 リボンは特にこだわっていません! なんなら輪ゴムで結びます! ただ、他のみんなが綺麗なリボンをいっぱいくれるので、それは大事に使ってます! 》
***
[ちょっとお馬鹿さんが入ってるんだな]
[輪ゴムで結ばせない対策だな]
[みんな優しいな〜]
[こだわりはポニーテールだけなんだな]
***
「はい。それではリトちゃんへの質問です」
《 はあ〜い 》
「本気を出すのはどんなときですか?」
《 モニカが割れ物で手を滑らせたとき 》
《 ちょっ……リトちゃん…… 》
***
[キリッとしとる……]
[本気【マジ】の顔だ……]
[割れたら大変だもんな]
[モニカちゃん実はドジっ子かな?]
***
「はい。では、エーミィちゃんへの質問です」
《 ええ 》
「……あれ? これ弾いた質問だよな……」
『私がすり替えておきました』
「な、なぜ……。これはやめておきましょう」
『え〜気になるのにい……』
***
[レディさんお茶目だな]
[どんな質問か気になるな〜]
[レディさん暇でずっとピッケ食べてたもんな]
[異世界女神の口にも合うピッケ]
***
「エーミィ、お待たせ。では質問です。武器にルーンアックスを選んだ理由を教えてください」
《 自分の特性に合う武器の中で一番強いと思ったからよ。魔装加工があれば簡単な魔法は弾けるわ。あたしの攻撃力を一番に活かせるのがルーンアックスだったの 》
《 ボクとそんなに体型が変わらないのにこの腕力の差だよ〜 》
《 リトの腕だったら折れますね! 》
《 そもそも持ち上がらないんだから折れようがないけどねえ〜 》
***
[小柄で力持ちは推せる]
[エーミィちゃんの戦う姿は美しいよな〜]
[ポニーちゃんは他の子には敬語なんだね]
[みんな仲良しだな〜]
***
「はい。それでは、モニカちゃんに質問です」
《 はい 》
「100メートル走何秒ですか?」
《 10秒です 》
***
[ボルト並みやん……]
[さすモニ]
[身体能力の高い眼鏡っ子たまらん……]
[アリシアちゃんは何秒なんだろう?]
***
「アリシア、100メートル走何秒?」
《 10.23秒です。悔しいです…… 》
***
[ボルト並みがふたりいる]
[そもそも女子やで?]
[女子だとしても世界記録より速いよ]
***
「はい。ではモニカちゃんにもうひとつ質問です。強い精神力を持つにはどうしたらいいですか?」
《 はい。誇りを持つことだと思います。誇りは人それぞれです。これだけは譲れないと思うものが誇りです。誰にも譲れぬ誇りを胸に、気高く戦うこと……。私はそうやって精神力を保ち、仲間の助けになれたらと思って生きています 》
***
[深い……]
[誇りなんて考えたこともなかったな]
[さすモニ]
[だからモニカちゃんは強いんだなあ]
***
「はい。実はレディさんにも質問が来ています」
『あらっ、なんでしょう?』
「美を保つ秘訣を教えてください」
『魔法で〜す』
「はい、ありがとうございます」
***
[月輔! はいじゃねえだろ!]
[異世界の女神に美の秘訣なんてないんじゃないの?]
[そもそも女神は美しいって相場が決まってるからな]
***
「さて。それでは、コメントの中から質問を抜粋していきましょう」
この雰囲気でも横槍を入れたり的外れな質問をしているコメントもあるが、真剣な質問も多く集まっている。
「えー……では、リトちゃんに質問です」
《 はいよ〜 》
「たくさんの魔法を使えるそうですが、新しい魔法を覚えるための訓練などはしているのですか?」
《 してないよ〜。努力が大嫌いだからね〜 》
《 あ〜カッコつけちゃって〜! さっきのステータス表に初めて見る魔法が二個ありましたよ〜? 》
《 うるさいなあ、ポニー! たまたま魔法書を見つけたってだけ! 》
《 うひひ、じゃあそういうことにしておきましょうか! 》
***
[リトちゃん照れてる〜]
[可愛いな]
[ポニーちゃん、リトちゃんの魔法を把握してるんだな]
[みんな互いに把握してるんじゃ?]
***
「はい。では、アリシアちゃんに質問です」
《 はい! 》
「戦闘スタイルが銃全般ではなくショットガンに限定した理由を教えてください」
《 はい。これは私の師匠の影響です。師匠からは他の銃器の扱い方も教わりましたが、なんだかんだショットガンが一番強い、と口癖のように仰っていましたので、私もいつの間にかショットガンに偏っていました。他の銃器もひと通り扱えます。ダンジョンに合わせて他の銃器に変更するのもありかもしれませんね 》
***
[ショットガンは強いよな]
[銃の専門家なんだな]
[ロケランとか使ってほしい]
[ダンジョンごと吹っ飛ぶぞ]
***
「うーん……じゃあ、ポニーちゃんに質問です」
《 はい! 》
「ポニーテール以外の髪型にしたことはありますか?」
《 ありません! 強いて言うなら下ろしてるくらいですね〜。子どもの頃、母様が初めてポニーテールにしてくれたときにビビッときました! ポニーテールが最も綺麗に結える髪の長さを研究したくらいです! 》
《 あたしにもツインテールが綺麗に見える髪の長さあを提案して来るんだから、筋金入りだわ 》
《 ふふ……ポニーちゃんが熱中したときのバイタリティは、戦闘に活かしたくなるくらいですもの 》
***
[ポニーテールに熱意を持ってるんだな]
[別の髪型も見てみたい気もするけどな〜]
[別の髪型のスキンとかないのかな]
[ポニーテールだからこそポニーだろ!]
***
「はい。では、次の質問で最後とさせていただきます。えー……エーミィちゃんに質問です」
《 ええ 》
「魔物に対し、自分より強いかもしれない、と思ったことはありますか?」
《 そんなのいくらでもあるわ。魔物は年々、進化している。あたしたちももちろん強くなっているけど、魔物の進化速度があたしたちを超えることは大いにあり得るわ。でも、だから何? って感じよ。あたしたちには倒すという選択肢しかないの。あたしたちが魔物に勝って帰還すること。この世界の民のために、あたしたちは負けるわけにはいかないの。だから、新しい司令官が来くれたことは…… 》
「……ん? どうした?」
《 な、なんでもないわ! 》
「なんか俺の文句を言おうとしてなかった?」
《 なんでもないって言ってるでしょ! 》
***
[満点です]
[エーミィ! エーミィ!]
[月輔は相変わらず天然だなあ]
[エーミィちゃんが文句なんて言うわけないだろ!]
***
「はい。というわけで、質問コーナーは以上となります。たくさんのご応募、ありがとうございました」
『ありがとうございました〜』
「戦闘少女のみんなはこれでお別れです。基地との通信を一旦、切断します。アリシア、最後にご挨拶を」
《 はい! みなさんとお話しできて光栄です。とっても楽しかったです! みなさんのご期待に沿えるよう、尽力して参ります。どうぞ、応援をよろしくお願いします! ありがとうございました! 》
***
[お疲れ様ー!]
[みんなと話せてよかった!]
[楽しかった〜]
[ずっと応援してるよ〜!]
[次の作戦も期待してる!]
***
レディが液晶を消す。戦闘少女たちとの通信が切られたことを確認すると、星は居住まいを正した。
「はい。みなさん、ここまでお付き合いありがとうございます。今回、こうして戦闘少女たちとの雑談回を設けたのは、みなさんに戦闘少女たちのことをもっと知っていただきたかったこともありますが、戦闘少女たちが異世界で生きるひとりの少女だと知っていただきたかったのが真の目的です」
視聴者の多くが、ワンガルの世界をソシャゲだと思っているだろう、と星は考えている。異世界と繋がるという話は現実性が薄い。こうして直接に話せば、多少なりとも信憑性が上がるのではと考えたのだ。
「SNSでいくつかの助言をいただきました。参考になるものもありましたが、戦闘少女の負傷が重くなる可能性がある戦術も多くありました。僕とレディさんの目的はダンジョン攻略です。しかしそれは戦闘少女たちに頼るしかありません。僕の役割は、戦闘少女たちを無事に帰還させる戦術を練ることです」
説教臭くなるのは承知の上だが、視聴者たちには知っておいてもらわなければならないことだ。
「僕は司令官として未熟です。これから、みなさんのお力を頼ることがあると思います。その際、戦闘少女たちも傷付けば命が危険に晒されることを、どうか頭の片隅にでも入れておいてください」
『私たちは、戦闘少女を傷付けてまでダンジョン攻略しようとは思っておりません。ですが、私たちの世界の存続は、彼女たちにかかっています。その方法を模索している最中です。どうぞ、お力添えをお願いします』
「よろしくお願いします」
***
[了解!]
[戦闘少女たちのステータスは把握できたからな]
[とにかく戦闘少女たちの安全が一番!]
[レディさん、さっきまでピッケ食ってたとは思えない神々しさだな]
***
「はい。ちょっと真面目な話で締め括りとなってしまいましたが、ご視聴ありがとうございました。ダンジョン攻略は戦闘少女たちのコンディションに合わせて進めていきますので、次回以降の配信はSNSでご確認ください。それではまた次回にお会いしましょう。お疲れ様でした」
『お疲れ様でした〜』
***
[おつー]
[さっそく戦術練るわ]
[戦闘少女たちもありがとう〜]
[楽しかった!]
***
配信を終了すると、星は小さく息をつく。横槍を入れたり揶揄ったりするコメントは流したが、今回の配信でどれくらいの視聴者が戦闘少女たちを生きた人間だと認識してくれたかはわからない。
「お疲れ様でした。レディさんの出番があまりなくてすみません」
「いいえ。戦闘少女たちの魅力をお伝えできたなら充分です」
「じゃあ、苺大福を食べて休憩したら、次のダンジョンの戦略を練りましょう」
「はい!」
ソファから立ち上がったところで、星のスマホが鳴った。惣田から電話がかかって来ている。
「はい」
『鷹野、配信お疲れ。探査機を作る当てができたぞ』
「本当か?」
『ああ。可能であれば、ダンジョンの構造や地形を教えてもらえないか? それに合わせる必要があるだろ?』
「ああ、そうだな。わかった。レディさんに資料を作ってもらうよ。メールで送る」
『頼むよ。詳しいことはメッセージで話そう』
「わかった」
星が電話を切ると、すでにレディがノートパソコンを起動していた。資料を作る準備は整っているようだ。
「レディさんはひとりで休みなくこんなに働いていたんですね」
「案内女神に体調という概念はありません。いくらでも働けます」
「それは羨ましいですね……」
「星さんはご無理をなさらないでくださいね。お休みをご所望でしたらいつでも仰ってください」
「ありがとうございます」
それからお茶を淹れ直し、苺大福に舌鼓を打つ。視聴者に突っ込まれるくらいピッケを食べていたというのに、案内女神には胃袋という概念もないようだ、と星はそんなことを思った。
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