自宅がソシャゲ世界のホームになっていたので、実況配信で世界を救済しようと思います〜案内女神の解説付き〜

加賀谷イコ

戦闘少女の危機を救う【ワンガル】#1

 アパートの階段を上りながら、鷹野たかのせいは溜め息を落とした。ネクタイを緩める反対の手には、コンビニで買って来た弁当の袋がある。星は料理ができない。だから毎日、コンビニ弁当だ。


 季節は移ろい、いつの間にか秋の終わりに差し掛かっている。コートが秋用の薄手であるため、そのうち冬用を買いに行きたいところだ。


 星が溜め息をついたのは、仕事の疲ればかりではない。今日の実況配信のネタがないのだ。

 ここ数日、仕事が忙しかったためストックが尽きかけている。

 ソシャゲ実況配信を始めてから、基本的には動画投稿で、定期的に生配信をしている。今日はその生配信の日なのだが、仕事に忙殺されてソシャゲをプレイできていない。

 大学生の頃から配信業を始めて数年。仕事を言い訳にしたくなかった。


(そういえば昨日、マリパンの新作がリリースされたよな……。初見プレイでもいいかなー……)


 などと考えつつドアの鍵を開ける。ドアを少しだけ開けたその瞬間、星は動きを止めた。


(なんで電気がいてるんだ……?)


 星の部屋は陽当たりがいい。朝は電気をつけないし、その前日の夜は消したはず。いくら忙殺されているからと言って、そこまでボケてはいないはずだ。

 スマホの「電話」のアイコンをタップしつつ、ゆっくりとドアを開放する。物音はしない。何者かが侵入していたとしても、すでに去ったあとのようだ。

 警戒しておくに越したことはないだろう、と足音を殺してリビングに向かう。星の部屋は廊下から見るとリビングが半分しか見渡せない。廊下を抜けるしかなかった。

 ようやくリビングの全貌が見えた瞬間、星は凍りつく。眼鏡がイカれたのかもしれない、とすら思った。


「あっ、おかえりなさい。お邪魔してま〜す」


 ゆったりと手を振るのは、眉目秀麗、容姿端麗、美しい銀髪に白と浅葱色のドレス、長い耳、新緑の瞳、と同じ世界に住まう存在とは思えないほどの美女だった。

 こういうとき、人間は見事に言葉を失うのだな、と星はそんなことを考えていた。


「え、えーと……どちら様でしょう……」


 やっとの思いで声を振り絞った星に、美女は優しく微笑む。


「私はレディと申します。勝手にお邪魔して申し訳ありません。お部屋、お借りしております」

「お借りしております……?」

「まあとにかく、コートを脱いで部屋着にお着替えされてはいかがですか? お話はそれからといたしましょう」

「あ、はい……そうですね……」


 問い質すべきことは山ほどあるだろうが、星の頭の中は混乱を極めていた。正気を失わなかった点は自分を褒めたい。


 美女――レディは神々しい雰囲気がある。別世界の人間と言われたら納得の容姿だ。そもそも耳が長い。この世界に、そんなファンタジーな国があっただろうか。


 もたもたと部屋着に着替えてリビングに戻ると、レディは慣れた手付きでお茶を淹れている。食後に緑茶を飲むのは、星の実家にいた頃からの習慣だ。

 星がテーブルに着くと、レディは粛々と湯呑みを置いた。


「どうぞ、粗茶ですが……」

「俺んのお茶ですけど」


 言うべきことは確実にそれではない、と星は頭の中で自分にツッコミを入れた。

 レディが星の向かい側に腰を下ろす。優雅なドレスがテーブルに不釣り合いで、裾が床についてしまっていることを星は申し訳なく思った。


「それで……」

「はい。私はこことは別の世界……つまり異世界の住人です。私の世界は『ワールドオブワンダーガールズ』と呼ばれています。私はその世界の案内女神です。このお部屋は、ワンガルのホームとなりました」

「……なんですか、そのソシャゲみたいな……」

「こちらの世界にとってはそうでしょうね」

「……ちょっと、クーリングブレイクもらっていいですかね」

「あらら……このコートが必要な季節に……」


 クーリングブレイクと言いつつ温かいお茶を飲む。自分で言っておいておかしなことだった、と星は溜め息を落とした。

 星が緑茶を啜ってひと息つくまで、レディは穏やかに微笑みながら見守った。美女に見つめられてお茶を飲むという異常な状態に、脳がバグってしまいそうだ。

 星が湯呑みをからにすると、レディが淑やかな手付きでまた急須から注ぐ。その贅沢な光景を眺めつつ、星は口を開いた。


「まあ、ホームの件はちょっと置いといて……」

「はい」

「その……ワンガル? でしたっけ。その世界について教えてください」

「はい。ワンガルの世界はこの世界にとって異世界で、この世界とは無干渉の存在でありました」


 仕事で疲れすぎて幻覚を見ているのかな、と考えつつ星は続きを促した。


「ワンガルの世界は『戦闘少女』たちがダンジョン攻略をすることで守られています。それがワンガルの世界の均衡です。ところが、戦闘少女たちが攻略に詰まってしまい、世界の軸が歪んでしまいました。そうしてこの世界と繋がり、ホームの終着点がこのお部屋でした。綺麗なお部屋でよかったです」

「まあ……掃除は小まめにしてますからね」


 そこではない、と星は再び自分で自分にツッコミを入れる。


「こっちにとってはソシャゲの世界でも、レディさんにとっては現実世界ですよね」

「はい。その通りです」

「ホームというのは、ソシャゲの仕組みのように思いますが……」

「私が戦闘少女たちと繋がる唯一の通信方法を、こちらの世界風に『ホーム』と呼んでいます。そのほうがわかりやすいかと思いまして」

「確かにわかりやすくはありますね」


 どうやらレディは、こちらの世界についてもすでに熟知しているらしい。「案内女神」と言っていた通り女神なのだとしたら、異世界についても詳しいのかもしれない。


「ここでは何ができるんですか?」

「基本的にはメニュー操作しかできません。なんとも歯痒いことです」

「その……戦闘少女たちと会話はできるんですか?」

「こちらから呼びかけることはできませんが、あちらから通信を繋いでもらえれば会話はできるはずです」

「戦闘少女をダンジョン攻略に向かわせるための準備とかは……」

「彼女たちにも意思はありますが、基本的な指示はこちらが行います」

「じゃあ……こっちで操作したら、戦闘少女たちの手助けをできる、とか……?」

「もちろんです。案内女神の私がいるのですから」


 その途端、星の中の実況者魂が湧き立った。

 正直なところ、ネタになる、と思ったことが一番だ。次いで、自分のゲーム知識で少女たちを手助けできるという使命感のようなものを覚えた。この部屋がホームになったという事象も、なにやら縁のようなものを感じる。


「……俺に、戦闘少女に協力させてください」

「まあ! 本当ですか?」

「その代わり、そのダンジョン攻略を実況配信させてください」

「ジッキョーハイシン? なんですか、それは?」

「えーっと……映像を見せて、他の人と通信する……みたいなことかな。もしかしたら、ダンジョン攻略に有益な情報も集まるかもしれません」


 戦闘少女たちを救う手立てを見つけたように、レディの緑色の瞳がパッと輝く。


「どういうことをするのですか?」

「レディさんは解説をしてもらいたいので、必要なときにワンガルの世界の説明をしてもらえれば大丈夫です」

「なるほど。それでしたら私にもできそうですね」

「さっそく今日、これから始めましょう。ワンガルについて教えてください」

「はい」


 レディからワンガルの説明を受けつつ、配信のための道具をセッティングする。せっかく買って来たコンビニ弁当は、冷蔵庫の中で明日の朝を待つことになるだろう。







[戦闘少女の危機を救う【ワンガル】#1]







「はい、ではお時間が来たので始めていきましょう。こんばんは、月輔つきすけです」


 常連視聴者たちのコメントを見つつ、星はカメラに語りかける。レディはまだ画面外にいる。


「さて、今日は特別ゲストに来ていただいております。ワンガル案内女神のレディさんでーす」

『どうも、こんばんは〜。レディです。月輔さんのおうちに間借りして、ワンガルのホームにしてみました〜』


 星は、今日ばかりは視聴者を置いてけぼりにしてもしょうがないと思っている。案の定、コメント欄は混乱を極めている。中にはバーチャル配信者だと思っている視聴者もいるようだ。ほとんど感嘆のようなもので溢れているが、中には冷静な古参視聴者もいる。星はそんな少し古さを感じる視聴者が好きだった。



***

[【悲報】月輔、ソシャゲのやりすぎでついに脳がバグる]

[バーチャルにしてはリアルすぎん?]

[そんなことより美しすぎる]

[月輔そこ代われよ]

***



「はい。どうやら僕の部屋が異世界と繋がってしまったようです。では、レディさん。解説をお願いします」

『はい。ワンガル……ワールドオブワンダーガールズは、この世界とは別の次元に存在する小さな世界です。特別な能力を持った五人の戦闘少女がダンジョン攻略をすることによって均衡を保っています』


 先ほどレディと、自分が振ったときだけコメントに返事するように、と打ち合わせをしてある。コメントは見えているが、頭はしっかり切り替えているようだ。


『では、メニュー画面をお見せしますね』


 レディが宙に手をかざすと、部屋のような背景と右側に四個のメニューが並んだ横長の液晶が表示される。これはレディの能力によって具現化しているものだ。



***

[最近のVR技術はすごいわねえ]

[見たことあるようでないな]

[月輔も凝ったことをするようになったんだなあ]

[レディさん早く解説して!]

***



『いまは繋がっていないので誰もいませんが、この基地に五人の戦闘少女が順番に現れて話しかけてくれます』

「いつか声が聞けるといいですね」

『はい。では上から、攻略、編成、修復、開発となっております。攻略はそのままですね。編成では、五人の少女の並び順を変えます。そうすることで、敵対する魔物に合わせた戦術を執れるのです。修復では、怪我をした戦闘少女を治療します。魔道具を使えば時間を短縮することも可能です。開発では、戦闘少女の武具を作ることができます。ダンジョンで必要な素材を集めて製造します。これらを上手く活用してダンジョンを攻略する……。仕組みは以上です』

「はい。シンプルでわかりやすい仕組みですね」



***

[レディさんの声が美しすぎて何も聞いてなかった]

[ワンガルどこで落とせるの?]

[異世界だから実際のゲームじゃないんじゃ?]

[月輔サポーターの冷静さが恐ろしい]

[レディさーん! 手振って〜!]

***



「あ、レディさん。手を振ってほしいそうですよ」

『は〜い。見えてますか〜?』



***

[女神降臨]

[目に焼き付けました]

[永久保存版]

[これアーカイブ残るんかな]

***



「では、視聴者さんの網膜がイカれたところで、僕の部屋が異世界と繋がってしまった理由をお聞かせください」

『はい。ワンガルの世界では、戦闘少女たちが攻略に詰まってしまいました。彼女たちのせいではありません。私の力不足によるものです。そのため、魔物が悪さをしています。戦闘少女たちが魔物を狩ることによって成り立っていた世界ですので、魔物の侵食は民に不安や恐怖を与え、そういった負の感情のエネルギーが世界の均衡を崩しました』


 星は度々、コメントを確認する。時折、横槍を入れるようなコメントも見受けられるが、多くの視聴者がレディの話に耳を傾けているようだ。


『それにより最も打撃を受けたのが、ワンガルの世界を司る女神であるわたくしです。負のエネルギーによって時空が歪み、私はワンガルの世界から放り出されてしまいました。そうしてたどり着いたのが、月輔さんのお部屋、ということになります』

「これまでの人生で一番、部屋の掃除を小まめにやっておいて良かったと思う瞬間ですね」

『とっても快適です』



***

[確かに月輔の部屋キレイだよな]

[SNSのためだけの掃除だと思ってるけど]

[お前らそこじゃなくない?]

[自分の部屋にレディさんは入れられないわ〜]

***



 少し論点のズレている視聴者も多いが、それでこそ「月輔サポーター」だと星は思っている。人のことを言えないからだ。


「さて、ワンガルの概要が把握できたところで、次は戦闘少女のご紹介といきましょう。レディさん、お願いします」

『はい。まずはこの子。アリシア・モーメントちゃんです』


 レディの手の液晶に、ショットガンを手に真っ直ぐ前を見据える少女が映し出される。これには視聴者も沸いていた。


「ロングストレートの金髪と大きな緑の瞳が魅力的ですね。優しそうな印象とともに芯の強さを感じられます」

『アリシアちゃんはいわゆるメインビジュアルを務める戦闘少女です。しっかり者で面倒見がよく、リーダー的な存在ですね。戦闘スタイルはショットガン。清楚系の外見とは相反した激しい武器が、アリシアちゃんにギャップ萌えをもたらしていますね』


 レディの表情が輝いている。やはり自分が指揮を執る戦闘少女たちには、強い思い入れがあるようだ。


「前衛で活躍しそうですね。ショットガンという強力な武器で、切込隊長を務めることができそうです。スキルなどはあるのでしょうか?」

『はい。アリシアちゃんの特性は斥候。感知系のスキルに恵まれています。ステータスも平均的でバランスが良い戦闘少女です。月輔さんの仰ったように、アリシアちゃんを前衛に置き、感知スキルで索敵して隙を突いて攻撃する、というスタイルが理想的ですね』

「低ランクの魔物だったら、アリシアちゃんだけで勝利できそうですね」

『低級ダンジョンであれば、それが理想的です。なので、自然とアリシアちゃんのレベルが上がっていきますね』



***

[アリシアちゃん推せるわー]

[一番使いやすいタイプの子だ]

[銃じゃなくてショットガンなんだな]

[結局こういう子が一番可愛い]

***



『さあ、お次はこの子。エーミィ・ポンドちゃんです!』


 レディの手の液晶に、つんとした表情で横目でこちらを見遣る少女が映し出される。



***

[絶対ツンデレ]

[ツンデレ確定]

[アリシアちゃんとはタイプの違う子だ]

[可愛い〜]

***



「ピンクのツインテールと童顔が相俟って、幼さすら感じられますね。気が強そうな印象です」

『はい。エーミィちゃんは一言で申し上げると、ずばり、ツンデレです!』



***

[やっぱり]

[知ってた]

[べっ、別に〜って言ってほしい]

[満点です]

***



『エーミィちゃんは小柄でありながら、戦闘スタイルはルーンアックス! ギャップ萌えの塊です』

「近接武器ですが、アリシアちゃんの斥候に続いて攻撃を仕掛ければ、一気に攻め込むことができそうですね」

『はい。エーミィちゃんは完全な特攻型。攻撃力も防御力も高い傾向にありますが、その分、スキルの系統が攻撃に限られています。ダンジョンによって陣形のどこに置くかというところを考えさせられる戦闘少女です』

「個人的には、バランスの取れたアリシアちゃんと連携を取らせたいと思いますね。アリシアちゃんの感知スキルと合わせれば、効果的な攻撃を仕掛けられそうです」

『そうですね』


 コメント欄はアリシア派とエーミィ派が現れ始めているが、他の三人を早く見せてほしいとリクエストする声が多かった。


「さて、お次はどんな子でしょうか?」

『はい。リト・ワイズマンちゃんです』


 レディの手の液晶に、気怠げな表情をする少女が映し出される。アリシアともエーミィとも違う雰囲気に、拍手まで沸き起こっていた。


「おお、短い浅葱色の髪と二重幅の大きい瞳が、気怠さを感じられますね」

『はい。リトちゃんはボクっ子で、めんどくさがり屋さんです。戦闘になると態度が一変するところがギャップ萌えですね』



***

[おお〜可愛い〜]

[ボクっ子いいね]

[負けられない戦いに強そう]

[推し決定です]

***



「おっと、ここまでの三人、全員ギャップ萌え要素がありますね」

『女の子はギャップ萌えがあってなんぼですからね』

「あ、レディさんの好みなんですね」

『ふふ、どうでしょう』


 レディが悪戯っぽい微笑みを浮かべると、もはやレディ信者とも思えるコメントが多く流れた。やはり視聴者は美女に弱いようだ。


『リトちゃんの戦闘スタイルは魔法。主に後衛での攻撃もしくは仲間の回復役として立ち回ることになります。魔法の種類が多い分、スキルはほとんど身につきません。ですが、それでも問題ないほど多くの魔法を使うことができます』

「アリシアちゃんの斥候とエーミィちゃんの特攻を支える役割になりそうですね」

『はい。防御力が低いため、前衛側に位置取ると危険、という弱点はありますね。ですが、魔法でしか倒せない魔物が出て来た場合、リトちゃん頼みになります。リトちゃんを前衛側で出すのであれば、そのサポート役を厚くする必要がありますね』



***

[使いづらそうだけど圧倒的に可愛い]

[こういう子を使いこなしてこそだよな〜]

[これ必ず五人全員を編成するのかな]

[陣形で戦術を変えるなら全員編成なんじゃ?]

***



「初心者には難しい選択ですね。特性を理解しきれていないうちは、後衛側でのポジショニングのほうが安全なように感じます」

『はい。五人の中で最も戦い方の難しい子かもしれませんね。さて、お次の子をご紹介いたしましょう。ポニー・ステラちゃんです』


 レディの手の液晶に、明るく笑ってウインクする少女が映し出される。これまでの三人とはまた雰囲気の違う少女に、コメント欄が賑やかだった。


「オレンジがかった茶髪のポニーテールと大きな青色の瞳が、元気っ子、という印象を与えますね。ん? ポニー……ポニーテール……」

『あっ、お気付きになられましたね? ポニーちゃんは自分の名前と同じだからと言って、幼少期の頃から髪を伸ばし、ずっとポニーテールを保っているのですよ』



***

[可愛いエピソード]

[結局、元気っ子が一番可愛いよな〜]

[他の子にもそういうエピソードあるんかな]

[推せる]

***



『彼女が負傷するとポニーテールが解けてしまいますので、注意したいところです』

「元気っ子という特性上、そういった場面ではかなり落ち込みそうですね」

『はい。積極的に回避したいですね。さて、ポニーちゃんの戦闘スタイルは遠距離攻撃! 弓や投擲、簡単な魔法も使えますよ。ただし、防御力が五人の中で最も低いので、絶対に後衛側で位置取りしたい戦闘少女です』

「間違えて前衛側に出してしまった日には……ということですね」

『はい。リトちゃんとペアでの運用が理想的かもしれません』



***

[めんどくさがり屋と元気っ子のペアいいね]

[ペアも考えられるのか〜]

[組み合わせ考えるの楽しそう]

[最後の子はどんな子だろう]

***



『魔物にも遠距離攻撃を仕掛けて来る者はいますから、攻撃を受けた際はすぐリトちゃんに回復してもらうといいでしょう。戦闘開始時に防御系の強化魔法もかけておきたいところです』

「アリシアちゃんとエーミィちゃんを前衛に、リトちゃんとポニーちゃんを後衛に、という編成が安定しそうですね」

『そうですね』

「さあ、次に最後のひとりとなりましたね」

『はい。ご紹介します。モニカ・ソードマンちゃんです!』


 レディの手の液晶に、穏やかな微笑みの流し目の少女が映し出される。最後のひとりの紹介に、視聴者たちも喜んでいるようだ。


「お、眼鏡とお下げでありながら大きい剣を振り回す、お淑やかでありながら攻撃力の高さが窺えますね」

『はい。そこがギャップ萌えです』

「やはり」



***

[優等生っぽい子が剣で戦うの好き]

[眼鏡っ子ありがてえ]

[やっぱり敬語で話すのかな]

[結局、五人全員可愛いじゃん]

[どの子を推すか迷うな〜]

***



『ただし、モニカちゃんは防御力がずば抜けて高い代わりに、攻撃力がエーミィちゃんと比べてやや低めです。しかし小回りが利きますので、狭いところでの戦闘では大活躍! 攻撃範囲も広めです』

「アリシアちゃんを先頭に、リトちゃんとポニーちゃんを後衛、エーミィちゃんとモニカちゃんを中盤に編成するのがスタンダードになりそうですね」

『はい。特殊な戦闘を除いて、その配置にするのが最も効果的かと思います。中級ダンジョンまででしたら、それを基本にして問題ありません。プリセットに登録しておきましょう』

「プリセットがあるんですね」

『最適な編成を導き出すのも、司令官の大事な役目ですよ』

「なるほど。そのための研究が欠かせないようですね」


 星はちらりと卓上時計を見る。そろそろ切り上げても良い頃合いだ。夜は進んだが、コメント欄にはいまだ多くの視聴者がいる。レディや戦闘少女たちのことをもっと知りたいようだ。だが、適当なところで切り上げてベッドに入らなければ、明日の朝に起きるのが辛くなってしまう。


「さて、今回は説明だけになってしまいましたが、次回から実際にダンジョン攻略の準備をしていこうと思います。僕もまだどういった戦闘になるのかは分かりませんが、レディさんがきっと熟知しているはず。次回から、僕、月輔の実況に、レディさんに解説を入れていただこうと思います。レディさん、ありがとうございました」

『はい。ありがとうございました』

「それではみなさん、また次回にお会いしましょう。おやすみなさ―い」

『おやすみなさ〜い』



***

[おつ]

[次回は明日?]

[おやすみ〜]

[月輔もレディさんもお疲れ様〜]

[次回も期待してるよ〜]

[月輔の部屋がホームになったってことは、レディさんは月輔の部屋で寝泊まりするのかな]

***



 収録をすべて切ると、星はそのままソファに深くもたれた。いつもはひとり気ままに配信しているため、人と話しながら配信をするのは久しぶりだ。仕事の疲れもあるが、勝手の違う収録に、少しだけ疲労を感じてしまった。

 その様子を見ていたレディが、くすりと小さく笑う。


「私も緊張しちゃいました。上手く話せていましたか?」

「めちゃくちゃ流暢でしたよ。プロかと思いました」

「みなさんに戦闘少女を可愛いと仰っていただけたのは嬉しいものですね」

「みんな、テンション上がってましたね。ああ、もうこんな時間か……。そろそろ風呂に、入……って……」


 星の脳裏に、最後に見たコメントが流れた。



[月輔の部屋がホームになったってことは、レディさんは月輔の部屋で寝泊まりするのかな]



 何も考えていなかった。野郎の部屋に美女を寝泊まりさせるという点は抜きにしても、この部屋にはリビングと星の寝室しかない。このままでは、レディをソファもしくは星のベッドで就寝させることになる。


「あ、あの……レディさん。ここがホームってことは、ここに寝泊まりするってことですよね……」

「ええ。ですが、どうぞお構いなく。私は寝食の必要はありません」

「あ、そうなんですか……」

「星さんはお気になさらず、ゆっくりお休みになってください。人間の身体が疲労と睡眠不足に弱いことを私は知っています」

「俺が寝ているあいだはどうするんですか?」

「戦闘少女たちと交信したり、彼女たちの特性を深く知り戦術を練ります。私がダンジョンの攻略法をあらかじめ考えておけば、あとは星さんの助言を取り込むだけで済むでしょう?」

「そうですか……」


 心苦しさを感じるが、気にしないように、とレディは優しく微笑む。ここは女神の心遣いに甘えたほうがよさそうだ。


「ちなみに、ダンジョンってどれくらいあるんですか?」

「現時点で確認されているのは大小含め四十六個です」

「四十六個をたった五人で攻略しようとしてるんですか!?」


 声が裏返るほど驚く星に、レディはあくまで穏やかに言う。


「世界の均衡が崩れたことで魔物が復活し、初めからやり直しになってしまいました。ですが、異世界でこうしてご助力くださるお方に出会えたのですから、私は幸運です」


 静かに立ち上がったレディが、胸元に手を当て星に辞儀をした。


「星、私の世界の命運をあなたに懸けます。どうか、私たちの世界を救ってください」


 このとき星は、軽々しく配信してネタにしようなどと思っていたことを後悔した。

 星にとってはゲームのような話でも、レディや戦闘少女たちにとっては、世界の存続を懸けた戦いだ。命懸けなのである。

 星には、力強く頷くことしかできなかった。


「どこまで力になれるかわかりませんが、全力を尽くします」

「はい」


 レディは優しく微笑む。まさに女神といった美しさに見惚れそうになった星は「オフロガ、ワキマシタ」というアナウンスで我に返るのだった。





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