第73話 怪獣大乱闘?
「ところで、これから学校もお休みですし、私たちは何をすべきなんでしょうか」
「そうだね、まだ主人公も攻略対象も分かんないし、やっぱダンジョン周回かなぁ…」
「あ、そのことなんですけども」
「はい、セシリーくん」
「ノートを見る限り、悪役令嬢には、第一皇女ユリアーナ様と女騎士のユーディト様が入ってるんだよね?」
議長モードで指名したのに、華麗にスルーされた。
「そうだね、彼女らは固定だね」
「その、ユリアーナ様とユーディト様が、今朝、あの騒ぎを起こしたわけだけど」
そうだ。あのコロッセオで、ユリアーナとユーディトが、ジュリアンを巡って、ゼニ
「ということは、逆算すると…」
アレか。主人公がゼニ
「え、でも、攻略対象は、ほぼ皇族だったと思うんだけど…」
「まあ、皇族の皆さん、みんな割とアレだったよ…?」
ダンジョンから避難するのに、その女を寄越せとか。うわぁ、ないわぁ。
つまり、私たちが思ったより早く魔王を倒し、なおかつ王妃や王太子などが失脚して流れが変わってしまったせいか、あのタイミングで皇国入りしたジュリアンが、攻略対象へスライド登板したんじゃないか。そして、彼と同時期に留学にやってきたジュリエット公女が、主人公ポストに収まったんじゃないかという。私たちの推理は、そのようになった。
その推理が本当に正しいかどうかは分からないが、とりあえず彼らから当たってみることにする。早速皇宮にアポを取り、翌日皇妃殿下と対策会議を行うこととなった。
「そのことなのですが、グロリア」
到着早々、皇妃殿下は浮かない顔だ。百聞は一件に如かずということで、皇宮の客間に案内される。
「ええい、忌々しい
「ほほほ、いやですわ。こんなチビっ子よりも、女の魅力に溢れるこの
「さあジュリアン、私を選べ。私とて皇族のはしくれ、お前を養うことくらい訳ないぞ」
まだやってた。三人に囲まれて、ジュリアンは涙目。目元にはすんごいクマが浮かんでいる。昨日あれから、ずっとこの調子なのだそうだ。
ちなみにこの悪役令嬢の皇族ペア、どのルートを選んでも、度を越したツンデレもしくは有無を言わせぬ強引さで、撃沈するようになっている。そしてジュリエット公女については、そのアプローチでは不正解。無印の彼は、控えめに応援してくれる選択肢になびく。追ってはならない、追わせなければ。
「あー、えーと、皆様ご機嫌麗しゅう」
とりあえず、話を進めるために、割り込ませてもらった。
「あっ、アリス・アクロイド!助けてくれ!」
「誰かと思えばオーネではありませんか」
「オーネの留学生よ。今妾は取り込み中じゃ。邪魔するでない!」
「早々に出ていかれよ」
くっそコイツら、オーネオーネやかましい。
「皆の者、静粛に。かの者は、お前たちに預言をもたらしに来た預言者じゃ」
皇妃様が助け舟を出してくださった。そうです、私が変な預言者です。
「というわけで、ジュリアン様と、彼と最も親密なお相手が、皇国を救う鍵となるわけで…」
ゲームのことを一から説明していたら時間がないので、手っ取り早くかいつまんで説明する。ぶっちゃけ、彼らにはあの中央制御室の開錠だけしていただければいいので、お相手は誰だって構わない。
「あい分かった。ならば共に行こうぞ、ジュリアン」
「馬鹿おっしゃい。
「無論私で決まりだ。いいな、ジュリアン」
「助けてくれ…」
誰と一緒に行くかで揉めだしたので、「扉を開いたペアが真実のパートナー」と焚き付けて、全員を連れ出すことにした。今日扉が開けば儲けもの、開かなければ、誰でもいいから彼女たちには攻略を頑張ってもらわねば。なんせ残り一ヶ月、スチルもクソもない。
「なんだかオーネの口車に乗せられてる気がしなくもないですが、まあいいですわ」
ジュリエットは憎々しそうに吠えたが、お前その態度だと攻略応援してやんねぇぞ?
(アリス、オーネとは)
「うおっ」
ヴィンちゃんからいきなり思念が送られてくる。未だ慣れない。変な声出ちゃったじゃないか。
(オーネっていうのはね、契約する
「アリスには我がおるではないか」
「「「うわっ(きゃっ)」」」
「おい、いきなり出て来んなし!!!」
皇国組は誰もいないところから急に現れた青年に度肝を抜かれ、王国組は「おいコラ待て」と慌てている。違うよ!私が出したんじゃないよ!
「
皇妃様の腹心さんが素早く暗器を構える。うん、
「す、すいません。コイツ、昨日契約した
「ヴィンちゃんだ」
「嘘を申すな!そのような竜など見たことがないわ!」
「アリスよ。この者のトカゲが、先ほどから我の脚をガブガブと」
ヴィンちゃんは、足元から黒い大トカゲを捕まえて、プラプラとさせた。
「何っ…」
結構な大きさの竜だ。影から潜ませて、気付かないうちに相手を刺すタイプ。闇属性の怖いヤツである。
「そなた、勇猛果敢なのは良いが、相手を良く見なくてはならんぞ?」
ヴィンちゃんは、竜の目を見据えて、額をちょんと
「ちょっ…何なんですの?!人の姿をして竜などと、認められませんわ!」
ジュリエットがヴィンちゃんを指差して叫ぶ。だが肩のゼニ
「ねえ、ヴィンちゃんさあ。もっと小さくなって、あんな肩に乗るような形になんないかなぁ?」
「む。我はこれで精一杯の小ささぞ。これ以上縮むことはできん」
「なら、せめて龍の形で一番小さいのとか」
「うむ…ならば」
ヴィンちゃんはふわりと浮かぶと、そのままバルコニーまで飛んで行った。
「「「飛んだ!」」」
いや、まあ。人間だって、
「龍の姿で一番小さいといえば、これくらいか」
皇都の上空を覆い尽くす、巨大な龍に変化した。東洋型の龍で、ぐるりとトグロを巻き、うねうねと体をくねらせている。契約者の私には、(ほら、こんなに小さくなったよ?褒めて?)という思念が伝わってくるが、
「ちょっ、ヴィンちゃん、ハウス!!!」
「む…」
ヴィンちゃんは瞬時にかき消えた。(何が気に召さぬのか、解せぬ)という思念が伝わってくる。ダメだ、飼い慣らす自信がない。
「え、えっと…ヴィンちゃんでした…」
時既に遅し。宮中から怒号と悲鳴が飛び交っている。そのうち衛兵が駆け込んで来て、「皆様方!お逃げください!」と血相を変えている。
みんなの視線が痛い。痛いよ。
その日の皇都とその周辺では、上空に巨大な竜が現れたと、大パニックだった。ホントごめん。
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