第46話 華燭之典
その後、程なくしてデイヴィッド様の挙式が執り行われた。お相手は、アリス・ダッシュウッド子爵令嬢とか。誰?そんな人いたっけ?と思ったら
「私でございますよ、お嬢様」
ハニーブロンドのストレートヘア、緑の瞳の可憐な令嬢。その声はアンナさんだった。いつもは黒髪黒目、前下がりのボブ、切れ長の瞳の美女なんだけど、隠密の特殊メイクってすごいな。てか、この名前といい外見といい
「言ったよね。僕、ずっと君のこと諦めないって。いつでも君のこと、待ってるから」
「それ、花嫁の前で言うセリフじゃありませんよ!」
ははは、と陽気な笑い声を残し、新郎新婦は別の席へと挨拶へ向かった。
「兄上のアリス嬢への執着は、凄まじいな…」
弟のデイモン閣下が、若干引き気味に感心している。
「いつでもお嬢様と入れ替われるように、ですよね。きゃー、お嬢様、すごくないっスか?」
ブリジットは相変わらず恋愛小説脳だ。こと色恋沙汰にのみ、ポンコツっぷりを発揮する。
「絶対逃さないマンってヤツですよね。その気持ち、分かるっス。俺がデイヴィッド様でも、多分同じことするっス」
「ヒッ」
最近裕貴くんが偏執傾向を隠しもしないもんだから、エリオット
「私は一体どこで、何を間違えたんでしょうか…」
「エリオット氏、猛禽っていうのは、小動物を捕まえて食べるモンなんだよ。諦めなよ」
「そうだよぉ、ダァは後で私が美味しく頂いちゃうんだよぉ♡フフフ」
やめたまえ、他人の結婚式でそういうのは。後にしたまえよ。
その後、程良い日程を開けて、デイモン閣下とブリジットの挙式も行われた。他領からの来賓も招かれたデイヴィッド様の式とは違い、こちらは領内向けの比較的小規模なものだった。これでデイモン閣下は正式にダッシュウッド子爵となる。詳しい様子は割愛するが、この日誰よりも美しい花嫁になったブリジットを見て号泣し、私はずっと目が数字の3のようになっていた。忘れていただきたい。
更に後日、エリオット
エリオット氏は子爵家の次男。普通は、両親がどこかの貴族と縁談を結び、婿入りするように働きかけるものだが、ここの父親はちょっとアレっていうか、闇属性のエリオット氏を徹底的に冷遇して来たらしい。兄のアーネスト
セシリーをダッシュウッドの養女にしたのも、そのためだ。この婚姻は、エフィンジャー子爵家が主体となって結んだものではなくて、あくまで養女のために、ダッシュウッド家が結んだものであり、養女の配偶者として、エリオットには騎士爵が与えられることになっている。式は、城下の大聖堂ではなく、城内の小ぢんまりとした礼拝堂で執り行われたものだが、盛装したエリオット氏といい、シンプルなドレスのセシリーといい、それは眩しいほどのお似合いのカップルであった。
問題は、その後の披露パーティーで起こった。
本人たちの希望で、天気が良ければ中庭でガーデンパーティーをするということだったのだが、春うららかな花咲き乱れる美しい庭に、招かれざる客が訪れた。
「おお、エリオット。今日は皆で集まって、随分と楽しそうじゃないか。ええ?」
夫人を伴って、エフィンジャー子爵が襲来した。今日、城内でどういう催しがあるのか、知ってのことである。なお、現在の彼の勤務地は、領都から最も離れた砦の一つであり、勝手に離れて良いものではない。だが、彼は一応辺境伯軍の筆頭魔術師であるため、強引に入城してきたようだ。
「父上、母上。お久しぶりです。お元気そうで何よりです」
「ふん、平民の女を連れ込んで、ダッシュウッド家に取り入って、上手くやったものだ」
少し離れた場所に、辺境伯も夫人もいるのに、衆目の中で平気で暴言を吐く。
「あなた…」
「うるさい!お前ごときが口出しするな!…ほう、息子をたらし込むだけあって、なかなかの器量だな。どうやって咥え込んだんだ?その体でか?」
子爵が下卑た笑みでセシリーに近づこうとするが、エリオットが彼女を隠すように前に進み出る。
「何だエリオット。父に楯突くつもりか。なぁに、お前に相応しい女か、この父がじっくり味見してやろうぞ」
「エリオットちゃん、ごめんなさいね。お父様の言うとおりにして。お父様に逆らわないで…」
この数分だけで、お腹いっぱいになりそうだ。この事態に、周りもどう制止して良いか気色ばんできた、その時
「…父上、母上。
エリオット
「…おお。そうかそうか。そうだな。エスター、では帰るぞ」
「はい、あなた」
一瞬動きが止まったのち、彼らは来た時とは違い、手を繋いで仲睦まじげに帰って行った。
「皆様、お騒がせいたしました。引き続き、ご歓談をお楽しみください」
エリオット氏とセシリーは、その後お互い「大丈夫?」と声を掛け合い、そして微笑みあって、招待客の中に溶け込んで行った。
✳︎✳︎✳︎
その姿を、アーネストが眩しげに見つめていた。曲がりなりにも、父は筆頭魔術師。性格に多少問題があっても、卓越した魔力で、その座を
そんな兄の視線に気づいたのか、弟夫婦がやってきて、声を掛けた。
「兄上、この度はありがとうございます。ゆっくり楽しんで行ってください」
✳︎✳︎✳︎
私は見てしまった。エリオット
「俺のエリオットに暴言を吐くようなヤツは、存在しちゃいけないんス」
んもう、ダァは優しいんだからぁ♡だそうだ。ヤンデレ怖い。
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