第44話 サナギ運搬業

「だから、サナギを運搬してただけなのに」


「どこからどう見てもラブラブおデートだが」


 デイモン閣下がすかさずツッコミを入れる。こないだラブラブおデートと言って冷やかしたのを、相当根に持っているらしい。いいじゃないか、君ら上手くまとまったんだから。


「散々私たちのことをバカップルとおっしゃってましたが…」


 エリオットうじの視線が冷たい。だって事実だし。


「お嬢様もやるじゃないですか〜」


 ブリジットがニヤニヤしている。やかましいわ。お前こないだ白馬で弾丸デートしてプロポーズされてたろ。


「…でもちょっと分かるっス。なんていうかこう…土のローブで包んだら、コクー的な?」


「そうそう!分かってるね裕貴くん!どっちかっていうと、風のドレスでトラセル的な?」


「何言ってんスか…」


 また訳の分からないネタで盛り上がり始めた前世組。


「フェリックスうじフェリックスうじ、ブビィー、ブゴッって言ってみて?」


「違うっスよアリスさん、ブールルガウガウっスよ」


「そして得意技は?」


「「かたくなる」」


 それな。あーっはっはっはっ。


「…あなたたちは、馬鹿ですか?」


 滅多なことで嫌悪感を表に出さないエリオットうじが、ついに毒を吐いた。


「何となく馬鹿にされてんのは分かる。まあ、不甲斐ない俺が悪いんだから仕方ねぇ」


 あ、フェリックス氏がスネちゃった。


「違うんだよぉフェリックス氏、チョウチョポケモがサナギになったんだよぉ。トラセル可愛いよトラセル」


「お嬢様、チョウがサナギになるんじゃなくて、サナギがチョウになるのでは」


「いや、やっぱスピーの方が格好イイっスて!男は黙ってスピーっス」


「デバフ舐めんな」


「バタリーと違ってもう一回進化するっスぅ〜」


 しょうもない言い争いをしているうちに、いつの間にかフェリックス氏はいなくなっていた。


「アリス嬢。照れ隠しはいいが、あれではフェリックスが立つ瀬がないぞ」


「お嬢様、後で謝っといた方がいいんじゃないっスか?」


「ユウキ、あなたも悪ノリし過ぎです。分かりますね?」


「「ごめんなさい」」




 デイモン閣下の執務室をしおしおと退出し、裕貴くんと二人してフェリックスうじに謝りに行こうとしたが、その日はフェリックス氏は捕まらなかった。彼は隠密筆頭、仕事中はどこで何をしているのかは教えてもらえない。


 翌朝、いつも通り朝食を摂って、今日こそごめんなさいしようと思っていたところ、執事さんに呼ばれて、デイヴィッド様の執務室に案内された。正面の立派な机越しに、デイヴィッド様が、満面の笑みでこう切り出した。


「アリスちゃん、結婚式はいつにしようか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る