第26話 プライドの殴り合い
さて、残り消化試合のようになった学園生活はつつがなくこなしつつ、あれよあれよと舞踏会の日を迎えてしまった。学園生活の方は、取れるスキルを取れるだけ取って、レポートや定期考査などは片手間で終わらせる。ゲームの内容を隅々まで思い出した私に死角はない。全学年の一学期、二学期、三学期、中間考査も期末考査も、どんな問題が出て何が正解なのか、全部知っている。特待生の在学資格を奪うわけにはいかないので、全教科96点くらいに調整。結果、特待生以外の1位から4位を閣下、エリオット氏、私、ブリジットの順で占めることとなった。まあ私以外の3人は、最初から努力家で優秀であり、そう大した順位の変動はない。二年の九月から、なぜか私だけ成績が爆上がりしたことに、担任教師が首を
舞踏会の日は、朝から辺境伯のタウンハウスに缶詰になり、体の隅々まで磨き抜かれた。
「はへぇ、いつもは施術する側っスけど、エステって気持ち良いモンっスねぇ☆」
ブリジットは肝が据わっている。メイドさんに「それどこのオイルっスか」「なるほど、指の腹を使って」などと話しかけ、ちゃっかり技術を盗むつもりだ。これから冒険者として稼ぐなら、エステの技術など必要ないと思うんだが、「何が飯の種になるか分かんないっスよ」だそうだ。この子はどこででも逞しく生きて行ける。
「女子って、こんな感じなんスね…」
デイモン閣下やエリオット
困るのが、このコルセットというヤツだ。窒息するかってくらい、ぎゅうぎゅうに締め上げられる。腕輪で「
そうして一同、辺境伯家の馬車に乗り込む。王宮はそう遠くないものの、コルセットで
会場には、身分の低い者から入場する。公爵家は王家と共に入場、当主が心神耗弱している筆頭侯爵家のギャラガー家は欠席のため、今回はダッシュウッド辺境伯家が最後の入場になった。後から合流したデイモン閣下の父上と、グロリア様のペア。その後ろに、晒し者になりながらぞろぞろと入場する。会場からはヒソヒソと、「あれは誰」という声と、学園生の「なんであの子が」みたいな声が聞こえる。コルセットが苦しくて愛想笑いが持たない。誰か助けて。
やがてファンファーレが鳴り響き、王家一族のおなり。開会の挨拶ののち、王太子と婚約者の公爵令嬢のファーストダンス。それが済むと、今度は上位貴族より王家に挨拶に参上する運びになる。
「お
王を押し退けて、王妃がまず口火を切る。戦いのゴングである。
「王妃様におかれましてはご機嫌よろしゅう。我ら一同、精一杯の盛装にて参上致した」
グロリア様が応戦する。貴族はプライドの生き物、売られた喧嘩は買わなくてはならない。彼女が目配せをすると、一同合わせて「
水の女神と
「なっ…!」
王妃様はワナワナしている。王家には風の革鎧と風の剣があると聞くが、私たちの装備が何なのか、なんとなく理解したのだろう。
「いつも田舎臭いだの流行遅れだの厳しいお言葉を頂くのでな、一張羅で
グロリア様が扇で口元を隠しながら、優雅にマウントを取る。今や会場全体の視線が私たちに集まり、王太子と公爵令嬢のお披露目パーティーのはずであった舞踏会が、もはや王妃対義姉のプライドの殴り合い、しかも義姉圧勝のシーンに釘付けであった。
その後は極度の緊張や混乱で、どんなやりとりが行われたのか詳しくは覚えていない。ただ、王妃の一言だけが記憶に残っている。
「よろしい、ならば
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