第5話 軽々と想像を越えてきて驚いてるよ
「どういった料理を出すのか決めていこうと思うんだが、なにか考えてることはあるのか?」
俺はミツキを事務室に呼びメニュー考案を打診していた。
元の世界の話題ができるのは彼だけであり、混乱を避けるため他のメンバーはあえて呼んでいない。
「オレ達の知ってる料理をこっち流にアレンジすればいいんじゃない? 絶対目新しいしバズるはずだよ!」
「SNSはここにはねえよ。それはおいといて興味深いな。こっちには卵の代替品もあるようだし、あのすき焼きとかいいかもしれないぞ?」
「あとはクレハの好きなものとか、もう一回食べたいものを教えてくれればなんとかできるかもなー」
「俺のでいいなら、ぱっと思いつくのはカレーにハンバーガーにオムレツってところだな。いや、でもな……材料と香辛料からしてそもそも違うんだが本当にできるのか?」
「もちろん。オレの舌を舐めてもらっちゃ困るよ!」
ミツキは張り切って調理場に消えていき、ほどなくしていい香りがここまで漂ってきた。
数十分後自信満々に出てきたのは、カレーによく似た具沢山の『灼熱煮込みスパイシー風』に、こんがりと焼けた肉汁滴る『スモーキーバーガー』、そしてひき肉と芋をホーホー鳥の卵でとじた『テーブルオムレット』だ。
試食なら問題はないか。
ちょうど呼びに行ったところ、フェリスとアリスフィアがなにかの会話をしていた。
そんなわけで二人にも味を見てもらおう。
「これまでのものと比べて一回りも二回りもランクが上と見るべきね。これはお酒にもかならず合うわ。合うはずよ?」
アリスフィアが目線で酒を要求してくるが見て見ぬ振りをする。
「おいふぃいでふ!」
全身全霊でかきこみ、頬をリスのように頬を膨らませたフェリスはすでに一皿目を完食した。
俺も二人の感想を聞きながら次々と口に運んでいく。
すると、どれもこれも懐かしい味をよく再現できていてなおかつ抜群に美味い。
空腹ではなかったはずなのだが思わずすべて平らげてしまっていた。
「軽々と想像を越えてきて驚いてるよ。よし、これなら間違いなく客足は伸び続けるはずだ」
二人が去ったあとOKを出すとミツキは不敵に笑った。
「待って、喜ぶのはまだ早いよ。今回最低でも十二品はできるようにしたいんだよね!」
「おいおい、そんなにか?」
「最終的には三十はいきたいと思ってるけどね。だから、材料の仕入れなんかは今後頑張ってもらうことなりそうだけど大丈夫?」
「とりあえずはその十二品分の手配をしておこう。ところで俺の酒ってどんな味なんだ? 一応ミツキの評価を聞いておこうと思ってな」
一杯分を飲んでもらうと彼はうーんと天井を見上げた。
「えーっと……最初飲んだ時は日本酒みたいなんだけど、段々と味が変わっていくんだよね」
「例えばどんな風にだ?」
「まろやかな
えらく具体的な感想が返ってきた。
あのアリスフィアやジラルドを始めとした酒好きが認めるだけのことはありそうだな。
今のところ酒の方はこれ一本でやっていけるのかもしれない。
「ていうかクレハは飲めないの? それともあえて飲まない理由がある感じ?」
気づけばミツキが俺を見ていた。
「表向きは飲めないと言ってるが実際はある程度なら飲めるんだ。ただ、家庭絡みの問題で出来るだけ酒には触れたくなくてな」
「でもここにきて酒スキルをもらっちゃったってわけね。オレだったら酒場のマスターやろうってならないかも……」
「最初はどうにかなりそうだったよ。それでも店に関してはここまで成長してきてるし今では感謝してるくらいだ」
「クレハも
話がまとまると俺は店内に戻り、今後のために食器やグラスの在庫数を確認している。
食材のこともあわせてジラルドには発注をお願いしなければいけないな。
メモを取りつつ作業を進めていると、ふと誰かの視線を感じた。
「店長、少し伺っておきたいんですけどいいですか?」
やや離れた場所にはスゥが忍ぶように立っていて、やはり彼女には無愛想という言葉がよく似合う。
「ああ。作業しながらでも構わないか?」
「お姉様に聞きました。一緒にここで暮らしてるのは本当なんです?」
「あいつとは部屋も別々だし問題はないだろう。それがどうしたんだ?」
「なんと羨ましい。スゥと一度変わって貰えませんか?」
すっと近づいてきた彼女とは、加入以来初めて目が合ったのだが少し寒気を覚える。
「なにを言い出すかと思えば……本当なに言ってんだ!」
「冗談です」
彼女は足音もなく立ち去ってしまった。
あれはどうみても本気のトーンだったけどな。
フェリスにご執心なのはわからなくもないが、変な方向に突き進ませるのはまずい。
そのあたりはきっちり釘を刺しておくとしよう。
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