スキル『能力偽装』でメイド無双 ~没落令嬢との百合百合らいふ~
ななみん。
第1話 いざ隣国へ
「メアリ、今この時をもってあなたを解雇します」
ここは由緒正しきマリダール家の大広間です。
揺れる艶のある銀色の長い髪に、決意を秘めた琥珀色の瞳。
晴れ舞台にしか選ばない真紅のドレスに身を包み、ご令嬢であるアリーシャ様は、かしずく私に向けて聖母のような眼差しでそう告げました。
「お嬢様はお忘れですか? 私はどこまでもお供をすると言いました。すでにこの身はあなただけのものなのですよ」
私は思わず立ち上がり訴えかけます。
「そうは言うけれど、この家はもう終わりなのよ。いずれわたくしもただでは済まなくなる。その前にあなたを解放する義務がわたくしにはあるの」
アリーシャ様はわかってちょうだい、と私の肩に手を乗せました。
「今さらどこへ行けと仰るのですか。私の家はここ以外にありません。他の生き方を知らないのです。ですから、どうかお願いします」
それでも私は深々と頭を下げました。
「メアリ……」
囁くような声が聞こえてきます。
困らせてしまっているのはわかっています。それでも私だって覚悟の上なのです。譲るわけにはいきません。
アリーシャ様との睨み合いならぬ見つめ合いは続きます。
そうしているうちに外が賑やかになっていきました。
「お嬢様、ここはひとまず逃げましょう!」
「いいえ、わたくしは逃げも隠れもしませんわ。話し合いを持てば皆もきっとわかってくださいます」
「それはなりません。旦那様も奥様も行方知れずなのです。お嬢様にもしものことがあればこの家はどうなるでしょう? 今は身を潜めマリダール家再興の機会を
「わたくしにそのような力などあるはずが……」
アリーシャ様は膝を折り俯いてしまいました。ですが私だって負けていられません。同じように屈みます。
「ありますともっ! いえ、私が必ずやお力になりますから今は信じてください」
「メアリ……あなたはどこまでもわたくしのことを思っているのね。こんな不甲斐ないわたくしをどうか許してちょうだい」
常に毅然としているアリーシャ様からは涙が零れ、私がその震える手を優しく取るとゆっくりと立ち上がりました。
「この先に私達メイドが使う通用口があります。さあ、行きましょう……」
私は先導するように歩き始めますが、一つだけ心配なところに気づいてしまいました。
向き直るとアリーシャ様は小首を傾げています。
「メアリ、どうかした?」
「そのドレスでは目立ってしまいます。心苦しいのですが、私と同じものに着替えられた方がいいかもしれません」
「わたくしはすでに令嬢ではなくなった身。確かにこれでは不釣り合いだわ。案内してもらえるかしら」
「またここに返り咲く時までの辛抱です」
私達は控え室に入ります。服を着替え髪型も普段とは違うものに変えると、鏡の中のアリーシャ様はこれでお揃いねと私に微笑みました。
それがたまらなく愛おしく、思わず涙腺が緩みそうになってしまいますがぐっと堪えます。
そうして私達は雑踏に紛れ街からの脱出に成功します。
アリーシャ様はお屋敷に一度も振り返ることなく、いつもの毅然とした表情で前だけを見据えていました。
さて、一介のメイドがどうしてアリーシャ様を連れ立ったのかと言いますと。
どうやら私、メアリにはもう一つの記憶があるようなのです。朝起きると、頭の中にはいつもとは違う風景が浮かんできていて、そこでの名前は『
なんども名前を思い返しているとようやく謎が解けました。私は元はあちらの世界の人間であり、命を落としたあと転生したようなのです。
こちらでは金色の髪に青い瞳。いわゆる金髪碧眼となっております。
そして、なんといっても転生者である決め手となったのがこちらです。
ステータス
名前:メアリ
職業:メイド
レベル:999
ちから:999
まりょく:999
すばやさ:999
たいりょく:999
スキル:
『全魔法』
すべての魔法が使える
『多重詠唱』
一回の行動で複数の魔法が発動可能
『無詠唱』
唱えた魔法は即座に発動する
『ステータス偽装』
他者から見た時のステータス表記を任意のものに設定できる
こういった画面が見えていて、幸運にもチート級の能力を授かってしまっていました。それこそ一人でやっていくことや、あの恐怖の代名詞とされる魔王ですら一撃でしょう。
ですがこの力はすべてアリーシャ様のためだけに行使し、影に徹することで元のお屋敷に戻る足がかりにするつもりです。
それは言うまでなく我が君を心の底から敬愛しているから。
名前:メアリ
職業:メイド
レベル:1
ちから:5
まりょく:5
すばやさ:5
たいりょく:5
こういった具合にステータスを
「メアリ、立ち止まってどうかしたの?」
ふとアリーシャ様が振り返り私を見つめていました。
「いえ、なんでもありません。ここからはしばらく歩きますので、転ばないよう気をつけてください」
私達は手を繋いだまま逃れるように隣国へと旅立ちました。
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あとがき
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