第1話 親友の義妹

 カノジョ――苑田そのだ小織こおりちゃんとの衝撃的な出会いは、遡ること四年前。

 幼馴染で親友の苑田喜一きいちの親が再婚し、義妹として喜一の家にやってきたのが小織ちゃんだった。

 衝撃的だった。

 いつものように喜一の家でぐうたらと怠惰の限りを尽くしていたら、「あ、そうだ。昨日から妹できたから」と喜一がポテトチップスと一緒に小織ちゃんを連れてきた。

 おいーーー!? と思ったものだ。

 なに、その片手間な感じ? そんなふうに新しい家族紹介する人いる? しかも、超可愛いじゃん!? なんでいきなりそんな可愛い妹できてんの!? 俺の年子の妹なんて「は? 死ねよ」しか言わない呪われたインコと化してんのよ!?

 ――とまあ、思春期真っ盛りだった俺の繊細な心は、この世の不条理にかき乱されたわけだが。

 もちろん、義理とはいえ親友の妹。しかも、二つ年下で当時はまだ中一だった小織ちゃんに不埒な想いなど抱くわけもない。そのときは「遠間とおま宗弥そうやです。よろしくね」と必死に平静を装って、頼れそうな年上のお兄さん風を装った。


 それが功を奏した、と言うと腹黒い感じに聞こえるが。

 とりあえず、第一印象とは侮れないものである。そして、なかなか信用できないものだ、と経験から言わせてもらう。


 学校では女子の視界に入ることもないであろう俺。教室の隅で粛々と学校生活を送っているような地縛霊的存在だった。

 たまに女子が話しかけてくるとしたら喜一に用があるとき、と相場が決まっていた。

 バレンタインなんて、俺の机はもはや受付代わり。

 中学時代なんてスポーツ万能(主に球技)の長身脚長ボーイが覇権を争う時代である。そんな中、サッカー部で目立っていた喜一はそりゃあ、おモテあそばされたわけだ。


 だからこそ、小織ちゃんが転校してきたときはちょっとした騒ぎになった。


 スラリと長い手足に、お人形のような白い肌。頬はふっくらとして、雪に朱をポトリと落としたように色づき、肩より少し長い髪は歩くたびにサラサラと心地よい音でも奏でるように靡いて輝いていた。

 まさに天使というにふさわしい可憐な容姿。彼女が微笑むたび、遥か彼方のツンドラ地帯で一輪の花が咲き誇る奇跡が起きているのではないか、とすら思わせた。


 そんな小織ちゃんが喜一の義妹いもうとと分かるや、そりゃあ周りは盛り上がった。


 美男美女の義兄妹である。様々な良からぬ邪推が飛び交い、瞬く間に学校中の妄想の種となった。

 喜一はそうなることを分かっていたんだろう。

 学校では小織ちゃんに全く関わろうとはしなかった。その名を口にするのも俺は聞いたことがない。

 根っからのスポーツマンとでもいえばいいのか。ストイックな奴は、学校でボロを出すまい、と家でも同じような態度を取っていたようだ。本当は小織ちゃんを(もちろん妹として)可愛く思っていたくせに、そっけない態度を取って……おかげで小織ちゃんはすっかり不安になってしまっていた。

 お兄ちゃんに嫌われている、と思い込んでしまった小織ちゃん。

 そんな小織ちゃんが頼った先は――。


「遠間先輩……相談があるんですけど」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る