魔王討伐して帰ってきたら魔王の娘が許嫁になっていた

シャクガン

1魔王の娘が許嫁になっていた

深い森の中を数十日歩いてやっと森から抜け出した。遠くには高い城壁に囲まれた王国も見えてきている。


私が生まれ育った街は近隣の街より栄えていて王族も住んでいるような所だ。だからと言って私は裕福な家庭で育った訳では無く、母1人子1人と毎日の食事にも苦労をして育った。


腰には左右に一つずつの剣と肩には大きな布袋。

肩に担いだ重たい荷物を背負い直す。ガシャリと大きな音が鳴りずしりと重さが伝わってくる。


この重い荷物は所謂、戦利品というやつだ。

これで母にめいいっぱい美味しい物を食べさせてあげられる。贅沢はしない。毎日美味しい物が食べられればそれで良い。


私は魔王との勝負に勝ち、戦利品と共に帰還中というわけだ。


当然1人で魔王との勝負に行った訳ではない。途中までは4人の仲間と共に旅をし、寝食を共に過ごし魔物と出くわせば一緒に戦った。


それが何故今1人で帰還しているのかと言えば、名誉の死を遂げたという訳でもなく、みんながみんな魔王に怖気付いて逃げ出したのだ。


1人取り残された私は、負け戦で死を覚悟の上、1人魔王に立ち向かった。そしたら何故か勝ってしまったのだ。


私はルンルン気分で街の入り口に立った。


高い壁に囲まれた街は東西南北と入り口が4つあり、街に入るには検問を受ける必要がある。


大きな門の横にある検問所へ向かおうと歩き出せば、その大きな門がギギギと音を立て開こうとしていた。


通常この大きな門は王族、もしくは他国との貿易品の搬入搬出を行うためぐらいしか開かない。人や荷馬車は検問所にある通路で事足りるのだ。


今日は土の曜日。貿易品の搬入搬出は水の曜日のみなので違う。


もしかして王族の方が出られるのか?とその様子を伺っていると、開かれた門の前には見た事も無いほどの人が立ち並んでいた。


並んで立つ人々の真ん中には護衛と共に立つこのサブリオン王国の王。アレクユアン王とそのお妃のリリィタナ王妃、そして2人に挟まれるような形で、綺麗な長い銀髪の女性も立っている。


顔立ちは幼なげだが身長は多分私より高めで女性らしい体つき(いや、相当なものをお持ちになっている)王族の人の中にこんな人物は見たことがない。


そんな彼女は長い銀髪を靡かせて、恭しく腰をおり頭を下げた。

胸がたゆんと揺れる。デカい!


どこの誰にたゆんとお辞儀をしたんだと周りを見渡せば、特にそれらしい人物が見つからず頭に疑問符が浮かんだ。


ゆっくりと頭を上げた彼女は口元を緩ませる。少し距離があるが私と目が合った気がした。


「お待ちしておりました。シュース様」


シュースと言うのは私の名前だ。シュース・ストレインそれが私の本名だ。


しかし、多くの大衆に見られて、会った覚えもない彼女に名前を呼ばれ、そして何故彼女が私を待っているのか、この状況に私はすごく狼狽えた。


「待っていた。シュース・ストレイン!見事魔王討伐を成し遂げ、よく帰還した!」


隣に立つアレクユアン王が声を大きくして私を呼ぶと、周りにいる人たちから大きな歓声が上がった。


王城へ報告に行く前にどうやら魔王を討伐したという情報がいつの間にか国に伝わり、私の帰還を待っていたらしい。


近づいてきた護衛に促されるように私は3人の前に立った。


こんな近くに王様、王妃様を見るのは初めてで2人はとても美しく着飾っており、整った顔立ちですごく高そうな服なのに負けないくらいの綺麗な人たちだった。


流石王族、威厳が違うなぁ。


その2人に挟まれた長い銀髪を持つ彼女も青いドレスが髪の色とよく似合い、2人に負けないくらいの強いオーラが出ている。胸元が大きく開かれていてとてもすごいオーラが出ている!(気がする)


「長い年月悩まされていた魔王の存在がなくなり、国に平和をもたらしてくれたシュース・ストレイン。貴様には国の英雄という称号と多大な報酬を与える」


「あ、ありがとうございます………?」


周りにいる人たちの歓声を浴びつつ、ヘコヘコと頭を下げた。ただの平民育ちの私がちゃんとした挨拶もできなくても、そんな事も気にも留めない王様方の寛大さはとても有り難かった。


王様がゴホンと咳払いをすると歓声が止み、再度王様に注目が集まった。


私に近づいてきた王様が私の肩に手を置いた。


その手は何故か小刻みに震えている。


「そ、そ、それとシュース・ストレイン、き貴様は、まだ独り身だっったな」

「はぁ……」


小さな声で私に話しかけてきたアレクユアン王は声まで震えてる。


何を言っているんだと王様にやる気のない返事が不敬にあたるであろうことも気づかずに私はすぐ近くに立つアレクユアン王を見やる。


大きく頷いたアレクユアン王はゴクリと喉を鳴らし、震える手で銀髪の彼女を指し示した。


「きょ、今日からこちらの魔王の娘ウィリアが貴様の許嫁となる!!」


空気が止まった。


こんな大勢の人がいるというのに静かに風がそよぐ音が聞こえる。数瞬の出来事ですぐにざわつきの声が上がる。


そして魔王の娘ウィリアと紹介された彼女は朗らかな笑みを浮かべた。


「これからよろしくお願いいたします。シュース様」


紹介される前までは絶世の美女だった彼女の印象は一瞬で恐怖の対象へと変貌を遂げた。


背中には大量の汗が滴った。

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