白世幸音の大切

 顔は上の下、勉強はそこそこ出来る。それが私。

特にこれといって目立つような趣味があるわけではないが、同級生に恋人がいるという点では、人とかなり違っているかもしれない。

そのおかげで平穏な学生生活というものが遠のいてしまっているのだけど気にしない。

普通じゃなくても、毎日が充実している。


かつてはゼロに等しかった友人と呼べる存在が増え、同じ時間を過ごすことも多くなった。

ほんの半年前では考えられないくらい、たくさんの人とつながっている。

人と関わることは、ただそれだけで幸せを運んでくれる。

そんな当たり前のことに気付けたのも、つい最近のこと。


それでも、私にとっての唯一の存在。唯一の大切な存在は、七瀬瑞樹。その人だ。



 PIPIPIPI.

タイマーの音がなる。

朝起きたのはタイマーよりも早かったのに、切るのを忘れていたらしい。

自室まで駆けて止めに行く。


急いでよかった。

お弁当用の卵焼きが完全に固まるところだった。

余熱に切り替えるタイミングが重要。


見た目が綺麗になるようにお弁当を詰めたら制服に着替える。

軽く髪を梳かした後、玄関を出た。



教室に着くと、そこは既に活気に満ち溢れていて、其処彼処で楽し気な話し声がする。

毎日見る光景だ。


私が入ると、それに気づいて呼ぶ人がいる。


「幸音だ。おはよ。」

「おはようございます。瑞樹。」


彼女が私の恋人だ。

付き合うようになってから、ずっと一緒にいたいと思う、そんな魅力を持った人物。

私が愛してやまない人。


瑞樹のおかげで、今の私がある。

全てを知って、全てを受け止めて、そして私を好きだって言ってくれたこの人だからから、大切にしたい。



授業などそっちのけで、瑞樹をじっと観察して、時には机の下で手をつなぐ。

先生はもう黙認してくれるようになった。

言い知れぬ背徳感を感じながらも、満たされていく幸福感がある。


学校ではこうやって瑞樹とずっと一緒にいて、放課後にはどちらかの家で同じ時間を共有する。

最近は周りの人たちも、気を使って私達が離れる事が無いようにしてくれている。

優しい友達に恵まれた。


こうやって二人きりの時間を作る。

キスをするのはその時だ。

その甘みはいつまでたっても薄れず、慣れることもない。

ただただ、とろけてしまうくらい温かく、私が溶かされたその時からずっと変わらない。



大切な人、瑞樹との時間が永遠に続いてくれればいいのにと何度も思った。

何も恐れずに、ただ幸せの海に沈んでいるだけでいいなら、他には何も望まない。


でもそんなのは夢物語だということは分かっている。


だから、瑞樹と過ごす時間を何よりも優先する。

そして忘れないために、思い出を作る。

物としても、記憶としても、大切な人といる時間を残しておく。



例えば、瑞樹が初めて私にプレゼントしてくれたマグカップ。

ずっと一緒にいてくれる、その約束を形にしたもの。


例えば、お揃いの白い耳当て。

瑞樹といる今という時間を大切にしようと思うようになった時の思い出。


例えば、私が肌身離さず持っている瑞樹が贈ってくれたお守り。

瑞樹が大切な思い出と共に私に預けてくれたもの。



‥‥全部に瑞樹との時間が込められている。

これからも、この時間の宝物は色褪せないで私と共にいてくれる。



もちろん、いくら記憶に残し、物に宿したところで、大切な人がいなくなることは怖い。

今を大切にしても、いつかは必ず一人になってしまう。


限りある命だから美しいなんて言葉、私は嫌いだ。

死んでほしくなんてない。

瑞樹にだけは、無限の命を生きてほしい。



一度、そう瑞樹に零してしまったことがある。


すごく、叱られた。


初めての喧嘩だった。



後から思うと、ただの私の利己的な独りよがりだったけれど、その時は本気で瑞樹にぶつかってしまった。



その時、瑞樹はこう言っていた。


「幸音を一人にはしないし、私を一人にもしないで。」


って。

どういう意図で言ったのか分からない。

でも、どこまでも瑞樹について行こうって決めた。


他ならぬ瑞樹のお願いだったから。



‥‥‥

「ねえ瑞樹。」

「どうしたの?」

「これからもずっと一緒ですよ。」

「もちろんだよ。」

「ずっと、一生愛してます。」

「ふふ。嬉しい。じゃあ私も幸音のことを一生愛してる。」


言葉では足りなくて、瑞樹と体温を共有する。

この瞬間だけは、純粋に今の瑞樹のことだけを考えていられる。


軽くキスをしてくる瑞樹も、積極的な瑞樹も、全部が好きだ。

私の全てを捧げたいくらいに。




今日もまた陽が昇る。

新しい朝が来る。

止まっていた世界が、活動を始める。


そんな中で、私も息をして、命を燃やす。


瑞樹が私を一人にしないように、ずっと一緒に生きてくれるって言ってくれたから。

私もそれに応えたいから。

だから私は今日を生きる。

恩返しとかなんだとか、理由はどうだっていい。

明日も、明後日も、瑞樹の隣を歩き続ける。


大切な人のために。








___________________________

こんにちは。作者のノノンカです。


ここまで読んでいただきありがとうございました。

これにてこの「少し大人なクラスメイトに溶かされる」の本編は完結となります。

自分でも少し名残惜しいですが、メッセージは全て込められたかなと思います。


振り返ると毎日書いては投稿し、ということを繰り返して大変でしたが、同時に楽しい一か月間でした。

文章を書くには体力が必要という言葉の意味が分かった気がします。

それでも、こうして最後まで書ききる事が出来たのは、これを読んで下さった皆様のおかげです。

応援していただけたり、PVが増える度に、頑張ろうと思えました。

ありがとうございます。



拙い文章でしたが、少しでも皆様に楽しんでいただけたなら幸いです。


それと、コメントや星などをいただけると嬉しいです。

お気に召しましたらよろしくお願いします。



短い間でしたが、お付き合いいただき本当にありがとうございました。





(追加)

______

明日、七瀬瑞樹視点でのお話を投稿します。

本編中に七瀬視点を入れる事が出来ず申し訳ないです。

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