第5話 助けられなかった話/それは俺の誓い
ダンジョン、それはいわば魔境。そこでは外の世界のルールなど全くの無意味だ
俺は独りダンジョンに入り、あたりの散策を開始する。
ダンジョンは基本的に外とレベルが違うため、基本複数人で挑むことになっている。
勿論、例外として、一定ランク以上の冒険者にはその制限がない。
俺はその制限をこっそり突破しており、一応ギルドの内部情報ではかなりの強さの人認定されている。
まあ肝心の俺のいつもの姿が情けなさすぎてほかの冒険者は信じてくれないだろうが
ちなみに、あのギルドのお姉さんは実は俺が助けた人であり……まぁそれが決め手となって俺のランク制限が撤廃されてるんだが……
俺はダンジョンの中を軽く進み、あえてモンスターが沢山いる方に進む。理由は単純、そんな危ないところに挑む殊勝なやつは滅多にいないからだ
当然な話だが、ダンジョンはほかの冒険者達も潜っている。そいつらと鉢合わせた時、俺に間違ってでも殺意を抱いてしまわれた時
……俺は大量殺人犯になってしまう。
だから俺はとりあえず、人があまり行きたいと思わない方向に進んでいく事にした
「ビンゴ」
ダンジョンの中にある大量のモンスター部屋、通称モンスターハウス。
そこは普通の冒険者にとって”死”を意味するレベルの危険地帯。
しかし俺から言わせてもらうと”ただのカモ”と言うか”宝石箱”みたいなものだ。
人が寄り付かず、人が来てもモンスターハウスかよ……引き上げるか〜ってな感じで来ないでくれる。
だから俺はモンスターハウスが好きだ
「はいはいーお邪魔しますよっと〜」
俺はいつもと同じようにモンスターハウスに入る。
はぁ……いつもと変わらない、この大量の殺意。
俺はそれらを片っ端から殲滅していく。
久しぶりに本気で叩きのめせて居るからか、心なし【迎撃】も楽しそうだった
────そんな時、俺の目の前にあったダンジョンの一角が壊れた。
俺はてっきり、何かレア部屋でも引いたか?と思って興味本意で中を覗く。
「…………え?」
中には、宝物は無かった。ただ少女が1人眠っていた。
このときを境に俺の物語は……本格的に幕を開ける事となる
俺は眠っていた少女を見て、過去のトラウマがフラッシュバックしてしまった。
──救えなかった、2人の冒険者についての
◇◇
「ちょっと!〜リド〜滅茶苦茶アイテムが美味しいんだけど?!」
ロファがそう、叫びはしゃぐ子供のようにダンジョンのアイテムを眺める
「おい!ダンジョンの中で騒ぐと危ねぇぞ?!」
リドはそう言いながらも、先程倒したモンスターから手に入れた槍を眺めてニマニマしていた
俺たちは、あれからしばらく冒険を続け、冒険者としてのランクもかなり上がったことで今回、初めてダンジョンに潜っていた
このダンジョンは比較的安全で、敵のレベルもかなり低いし……何よりいざとなればすぐに助けが来れるぐらいには沢山の人が通ったいわば通過儀礼のようなダンジョンだ
実際、このダンジョンに来てからも大した敵は出てこなかった。
そう、だから皆油断しきっていたのかもしれない
「いよっしゃ!ボスの部屋だー」
ダンジョンから出る方法は主に2つ。
ひとつが、脱出アイテムを使うこと
ふたつめが、一定間隔ごとにいるボスと呼ばれる強力な個体を倒すこと
とはいえ、ここは初心者用ダンジョン、はっきりいって雑魚しか出てこない
…………筈だった
「ロファ?!……急に走り出したら危ないぞ!」
「分かってるって……リド……!」
ふたりが他愛もない話をしながらボス部屋を開けた時、そこには……本来いるはずの無いヤツ……多分擬態した魔族がいた
「……?!2人とも逃げろ!」
俺のスキルが全力で反応した。
まずい、こいつは明確な殺意を持っている。
そいつは見た目こそ普通の女の子のような奇抜な格好をしている魔物だった
だから2人は油断して駆け寄ってしまった。お人好しだから、そいつの張った罠に気がつけなかった
「大丈夫で……ぐぁ?!」
「ひ、り……リド??あれ?私……あ、レ?」
その少女型の魔物はにやりと笑い、こちらを向き指を指す
その途端、2人の体がぐりん。とこちらを向く。その目は何か幻を見ているかのような恍惚な表情で、口からはだらだらとヨダレが垂れていた
『ターゲットロック』
「ま、待て!」
『【迎撃】を開始します』
俺は慌ててスキルを止めようとする。しかしスキルは止めることが出来ない
あの魔族を倒せば止まるか?俺はそう考えたが
……どうやってあいつらに当てることなく魔族を倒せと言うんだ?
俺は自分のスキルを恨む
そうこうしている間にも、2人はゆっくりと俺に近づいてくる。
──やめろ、来るな
2人はにっこりとした、いつもとは違う狂った笑顔を見せてこちらに向かってくる。
スキルはもう発射される寸前だった。
「ああ待ってくれよ、待ってくれ!頼むから……なあ!」
そう言っても魔族はニヤニヤと笑うだけで状況は変わらない。
そして、ついにその時が訪れた
『……【迎撃】開始 』
千を超える矢が2人を俺の目の前で串刺しにしていく。
所詮、ただの人間な2人は一瞬で力尽き、その場に崩れる。
俺は慌てて駆け寄る。スキルはどうやら彼等にもう敵意がないと判断したのか、今度はあの魔族目掛けて矢を放ち始めた
俺は震える手で2人を起こす。2人はまだかろうじて息が残っていたが、矢が地面と体を縫い付けてしまっているのか、なかなか外れない。
涙目になりながら俺が2人を見ていることに気がついたのか、リドは掠れた声で
「…………ははは……すま、ねえ……な」
そう言ってにっこりと、いつもと変わらない笑顔で笑いながら力尽きた
「あ……あな、……ただけ……でも……に げ て ……」
優しく、俺を助けてくれた時と何ら変わりない顔でロファは息絶えた
俺は自分のスキルが怨めしい。
どうしてこんなスキルを手にしてしまったんだ、と自分の浅はかな考えを悔いる
───結局、2人の亡骸をダンジョンに埋めたあと俺は独りゆっくりと出てくる
「……は?……そんな……うそ……だ」
街に帰ってギルドにその事を伝えた時、俺は信じられない話を聞くことになる
「だから、魔族に魅了させられた人はその場で気絶させて教会で治してもらうことができますが?……何故あなたはそれをしなかったんですか?」
俺は答えることが出来なかった。”彼等に敵意があったから”……なんて、死んでも言えるわけが無い
つまるところ俺は救えるはずの命を、スキルのせいで殺してしまった……と言うこと……か
「ふざけるな!ふざけるんじゃねえ!なんで……なんでこんなスキルを俺は貰ってしまったんだ!……ちくしょう……ちくしょう!……うぁぁああ!!!」
俺の悲しい叫びは夕闇に消えて行った
◇◇
俺はその時のトラウマを呼び起こされて、体が強ばる。
しかし、前と違い敵意を感じなかったことを信じて俺はその女の子に触る
「……んにゃ?誰ですか?」
……喋った?!
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