第2話 新たな戦いの予感

<王暦84年 11月23日>


……リビヤの町、どこかの外壁の上……


『あれは、人族の新兵器か!?つ、強すぎる。これはアガネイア様に報告しなくては』

一体の魔物が人族の新兵器魔導スーツと魔導魔族との初めての戦闘を見ていた。



……リビヤの町の外、魔王連合軍第45独立魔導部隊の馬車の中……


『レイブン君、君は私の命令を守ったのだ。気にすることはない。あの二人が勝手に戦闘を始めただけだ』

リビヤの町の軍事基地を偵察していた魔物に白いローブで身を隠す魔物が労いの言葉をかける。


『は、ありがとうございます!アガネイア様』


『だが、人族の新兵器が君の言うほどの性能なのかね?いささか過大評価すぎる気がするが……』

ローブの魔物は報告内容に不信感を抱く感じで少し小馬鹿にしたように笑って話す。


『お言葉ですが、自分は確かに魔法の』

『ルクス君、今すぐにカフ様に連絡したい。魔導通信を開いてくれ』

不信感を抱くその魔物に報告していた魔物は言い返そうとしたが、そのローブの魔物に遮られる。


『は!?え、わかりました。アガネイア様』

ローブの魔物の隣にいた魔物が急に命令されたの驚いたが、すぐにその魔物の命令を実行し始めた。




『昨日はお前の功績を祝って祝賀会をするつもりだったが、お前がいないせいで準備が無駄になった。ああ?どうしてくれる』

命令された魔族が布の様な魔道具を出す。そこから他の魔物とは比較にならないぐらい巨大な魔物が少し笑った様な顔で現れた。


『すみません。カフ様。ですが、人族の最新輸送車と新兵器を発見したのです』


『新兵器?……』

魔道具越しの巨大な魔物はその顔を一気に引き締める。


『はい、新兵器です。おそらく魔法関係の』


『ほう、なるほど。さすが私が見込んだだけはあるな、白き流星群のアガネイアだな、で、何か?』


『大規模作戦の後でしたので、魔導士、食料、武器が不足しています』


『ええ!? 魔導士?! 食料、武器の補給はわかるが……もしや、やられたのか!?魔導士が!?』

さっきまで落ち着いていたその巨大な魔物は声を荒げて驚いていた。


『はい、二人の魔導士はその人族の新兵器にやられました』


『うむ……まあ、いい、二人の魔導士を送ろう。その新兵器の情報はなんでもいい、必ず手に入れろ。できるならその新兵器を手に入れろ』


『わかりました。やってみます』

アガネイアがそう返事をすると布型の魔道具は停止した。


『ルクス、今すぐにも偵察に行く。写真機をくれ、それと人員を選抜しろ』

すぐさま彼は隣のルクスに命令を出す。


『は?アガネイア様、補給を待って突撃するのでは?』


『ああ、そうするよ。だが今回は偵察だ。先の戦いで情報は武器になる。そのためだ。戦闘が起き始めたら撤退する』


……リビヤの町、王立軍基地……


『住民を輸送車に乗せるんだ!急げ!火が回る前にするぞ!!』

『は!』

一人の若い将校の服を着た軍人が数少ない軍人たちに命令する。そのどの軍人も頭や肩、足などから血を流している。

町に広がった炎は町の隅にあった基地の目の前まで来ていた。


『魔導スーツ部品の輸送はどうなっている』

将校服が似合わないライトは近くを通った兵士に聞く。

『基地のほとんどの隊員が死亡し、残りは住民の避難で全く進んでいません』


『ん……ならばあのスーツを着ているやつに頼むしかないな、通信石はどこに?』


『通信石は基地の施設はもうダメなのであるとすれば新型輸送車の指揮車の中です』


『わかった』




……リビヤの町、教会……


『きゃー』

赤子を抱いた母親の真上に焼けた商店の瓦礫が落ちてきた。

(ドサ、ガラガラガラ)

僕は間一髪で瓦礫を受け止める。

『大丈夫ですか?』

僕は今、幼馴染と避難した教会にいた人たちの避難支援をしていた。


『その、声、アルス!?、アルスなの!?』

彼女は目の前にある3メートル越えの黒いスーツから僕の声がしたことに驚いている。


『イレイナ!早く!早く基地の輸送車に乗るんだ!ここもすぐに瓦礫と火の海になる!』


『アルスは、アルスはどうするのよ!』

イレイアは恐怖と悲しみで目を潤わせて聞いてくる。


『僕はまだ、他の人の誘導を』


『嫌よ!あなたまで居なくなるなんて』

彼女はその場で泣き膝から崩れ落ちた。


『イレイナ!』

(シューゴサ)『痛!』

彼女の方へと行こうと意識するといきなりスーツが開き叩き落とされた。


『イレイナ!』

僕は地面で座る彼女を抱きしめる。


『僕は、大丈夫だよ、さっきだってこのスーツで魔物を2体も倒したんだ。大丈夫だよ』


『そうじゃ、そうじゃ!ないの!』


『イレイナ……立つんだ』

僕は座る彼女を無理やり立たせる。


『イレイナ、僕は死なないよ。あ、これ預けるよ』

僕は首にかけていた何の宝石かわからない父からの形見を彼女に渡した。


『全てが終わった時に僕は君に返してもらうよ。それまで預かってくれ』

『え……わからないよ……』

幼馴染は普段絶対見せない涙目で困惑している。


『行くんだ』

僕は彼女の肩を押して無理やり歩かせた。

少し歩いたところで僕は彼女を押す手を離しスーツの方へと戻る。


ヨレヨレと歩くイレイナの背中を見ながら僕はまたスーツの中に入った。


『おい!おい!スーツに乗っている君!聞こえるか!?』

スーツの中に入って早々に誰か男性の声が聞いこえる。


『え!?』


『やっとか、なぜ何回も呼んでいるのに応答しないんだ!?……うん、まあそれはいい、いいか魔導スーツに入っている君に命令だ。今すぐに基地の研究室からスーツの予備部品を運び出すのを手伝いにこい!いいな!』

何の挨拶もなく音声だけの男は僕に命令してくる。


『え、でも、みんなの避難が……』


『みんな?……住民の避難なら他の奴らに任せろ!最優先は魔導スーツの部品を輸送車に載せることだ!今すぐ行け!』


『でも……』


『口答えするのか!?今すぐいけ!軍法会議に出すぞ!』


『軍法会議?!……わ、わかりました!』

僕は何も言えずにその男の言うとうりにすることしかできない。




……リビヤの町、王立軍基地……


『おーい!こっちだ!早く!!』

基地の中に入り比較的崩壊していいない建物に近づくと血だらけの軍人が僕を呼び止める。


『ライト閣下から聞いています。早くこの部品たちをあそこの輸送車に運んでください!』


『わ、わかりました』

僕は返事をして建物の中を覗く。

中にはたくさんの部品が並んでいる。どれも僕が今入っているスーツの一部分みたいなのが多い。


(ガシャ)

僕はその内のいくつかを抱える様な形で持ち始めた。


(輸送モード、無重力システム起動、対象物を指定してください)

またスーツの中で女性のアナウンス?が聞いこえた。

『え?』

(対象一つ……二つ、三つ、四つ)

僕の意識に連動して運ぶ予定だった部品に赤い点が表示されていった。


(指定限界量を超えました。起動します)

大量にあった部品の3分の2がフワフワと浮き始めた。

『うぎゃ!なんだ!急に!?』

近くにいた軍人が飛び跳ねるほどに驚いた。



『ここからどうしたら?』

浮かせたはいいけどこれからどうやって移動したらいいのかわからない。

ひとまず、手元にある部品をさっきの軍人が言っていた輸送車の方に運び始める。


(ゴン!)

後ろで何か大きもの同士がぶつかった様な音がしたので後ろを振り向く。


『わ』

さっき浮かした部品が一列になって僕の後ろに並んでいた。




『おお、きたきた。ここだよ!早くその部品をこの中に!』

後ろの浮いている部品たちには気にせずに輸送車の近くまで行くと、また別の軍人が僕に話しかける。


案内された輸送車の中は明らかに外で並んでいる部品の半分ぐらいしか入るスペースがない。

『あの、場所が足りない様な気がするのですが……』


『ああ、いいんだ。まずは住民の避難が大事だから残りの後ろの連結車部分は全てその人達用だと、ライト閣下に言われている。そんなことはいいから早くしてくれ』


『あ、はいわかりました』

僕は持っていた部品を輸送車に詰めていく。

なぜか持っていた部品を入れ終わると一人でに一列に並んで浮いていた部品が一つづつ僕に近寄ってくる。おかげで手際良く詰められる。



(警告!警告!高魔導反応!!)

急にスーツ内で警告音が聞こえた。

それと同時に何やら大きな立体的な赤色の矢印が右斜め上を指した。


『あれは?魔物?いや、何だ?』

白いローブを被った何かが空に浮いている。


『ん?』

空にいるそいつはローブから写真機を持ち出した。

何となくそのレンズが僕の方に向いているのがわかった。


『白き流星群のアガネイアだ!!!迎撃しろ!今すぐに!!』

急にさっき僕に命令してきた男の声がスーツ内に響いた。


『え!?』


『いいから早く!早くやってくれ!』


『あ、はい、わかりました』

僕は何なのかわからないが、あれは僕たちの敵で倒さなくてはいけないのはわかる。さっきみたいにやればいいのだ。


(戦闘モード、空中浮遊開始)

僕は持っていた部品を捨ててスーツは空にいた白いローブを着た何かと同じぐらいの高度まで一気に行った。


『な、逃げていく?』

同じぐらいの高度になるとその白いローブのやつは僕から逃げるように空を飛び始めた。


『待てよ、逃げるな!』

僕はそいつに追いつこうと意識するとスーツはまた一気に加速した。


『喰らえ!!』

あっという間に追いつき地面に叩きつけるつもりで思いっきり殴った。


『よし……え』

地面へ落ちていったそのローブのやつは地面スレスレの所で止まりそのまままた逃げ始めた。


『待てーー!!』

地面スレスレを飛ぶそいつを追いかける。火と瓦礫の間をスルスルと綺麗にやつは飛んでいる。


(警告!魔力不足!警告!魔力不足!)

目の前に警告音と魔力量5パーセントと表示される。

それと同時に徐々に高度が下がり始めた。


『やばい!このままじゃ!』

僕は今、火と瓦礫の海の真上にいる。僕は追いかけるのを諦めて基地に戻った。




……王立軍基地、新型輸送車の近く……


『そこの若い女性の方!?』

避難民が集まる輸送車の中に黒髪の美人な女性がイレイナに話しかける。


『え?私?』

唐突のことで彼女は驚いている。


『包帯ぐらいなら巻けるわね?手伝っていただきたいわ。来て』

黒髪の女性はイレイナの返事なく彼女の手をとり外に出た。


『私はしのぶよろしくね』


『あ、はい、私はイレイナです』


『そう……よろしく、イレイナさん……あ、あそこの人達をおねがい。じゃ私は別のところを』

そう言って彼女はイレイナを置いてどこかへいった。


『おお、来たか、君はそこの傷を止血してくれ』

来た彼女を白髪の若い軍人が早速話しかけた。


『え……』

イレイナは頼まれたとうり止血しようと、シーツを捲ると酷い損傷を受けた腹部が見えた。


『ん?本当に、白い流星群は撤退したのか?』

彼女の止血を受けている軍人は近くにいるライト副隊長と話している。


『はい、敵はまたも魔導スーツで迎撃しました。フルス大隊長、このような……』

ライトは酷い怪我を負っている大隊長を前に戸惑っている。


『そうか、う!、で、大隊の方は?』

仰向けになるだけでも苦しそうなのにフルスは続ける。


『基地の技術者、軍人は全員戦闘不能状態です。また、こちらの大隊は戦闘に耐えうる人は5名ほどです』

淡々と報告しているが、ライト副部隊長は目の視点がはっきりしていない。


『う!わかった。それでもスーツの部品の積み込みは……』


『積み込みは魔導スーツの中のパイロットに手伝わせていますので。大丈夫です』


『そうか、う!で、中のパイロットは、誰か?』


『わかりません』

彼は気まずそうに大隊長に答える。


『そ、そうか……作業が終了次第、輸送車をアステカに……』

そう答えて、フルス大隊長は目を閉じた。


『フルス大隊長!フルス大隊長!』

ライトは目を永遠に閉じた大隊長の体を揺らす。


『ダメです。この人は……うう……』

両手で顔を覆いながらイレイナは答えた。


『ライト閣下、今はあなたがこの大隊の最高将校です。早く命令を!』

隣にいた白髪の若い軍人が彼に命令を求める。


『ぶ、部品の、積み込みが完了し、次第、この町を出てアステカに向かう』

彼は絞り出すようにフルス大隊長と同じ内容の命令を出した。


『了解しまいした。ライト大隊長!』

そう言って白髪の軍人は外に出る。

ライト大隊長は下を向いたまま拳を握りしめていた。



……リビヤの町の外、魔王連合軍第45独立魔導部隊の馬車の中……


『おかえりなさいませアガネイア様』

偵察を終えたアガネイアを彼の部下が出迎える。


『ああ、ルクス、早速だが、すぐにまた攻撃に行くぞ』


『は?補給を待つのでは?』


『戦いは、いつも二手三手先を考えて行動するのだよ。敵はこの町を出るつもりらしい。準備が整う前に攻撃して移動できない様にするぞ』


『は!わかりました』



『敵は最新型の輸送車を作ったようだ。このムカデみたいに繋がった車両列がそれだ』

アガネイアは写真機から輸送車の全体像がわかる写真をテーブルに置いた。


『馬すらありませんな』

一体の悪魔が言う。


『ああ、だから、どこが動力源かは分からない。だから君たちは持っていく破壊光線魔法陣を展開して真ん中の部分から端へ攻撃してくれ』


『了解!……ですが、情報によりますと新型の兵器が……』


『ああ、だが、先ほど戦闘してみたが、スピードは速いが、格闘戦しかしてこない。おそらく、私一人で惹きつけることはできそうだ』


『なるほど』


『まずは私が先行して基地上空に現れる。するとその後で敵の新兵器がまた迎撃してくるはずだ。その後で君たちが破壊光線を輸送車に照射しろ』


『はい!わかりました!』




















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