人魔大戦記
ライカ
第1話 戦え少年よ!
<王暦84年 11月23日>
……オリビヤ地方、リビヤの町……
『スリブス、魔法で城壁を飛び越えるぞ』
ツノの生えた黒い肌の魔物が横にいる部下である魔物に伝える。
『そうですな……』
2体の魔物が町を守る高い石造の城壁を楽々と飛び越え、そのまま空中を浮遊して街全体を見渡した。
『それなりにでかい町だが、人の気配がないな』
『あ!あったぞ!奴らの軍事施設だ行くぞ』
2体の魔族はリビヤの町の軍事施設に飛んでいく。
……リビヤの町、アルス、ルイの家……
『アルス!アルス!あ!また耳栓して!』
僕がいつものように木刀の素振りをしていると、幼馴染のイレイナが木刀と耳栓をとってきた。
『なんだよ……』
『何よ!心配してきてあげたのに、避難指示が出ているの。さ!早く基地に行くよ』
彼女は僕の手を無理やり引っ張って歩き始める。
『大丈夫だよ、自分で歩ける』
僕はイレイナの手を振り解いて彼女の前を走り去った。
いつも僕を子供あつかいしてくる。研究ばっかりしている僕の母に代わって母親ずらしてくるのが鬱陶しい。
『ねえ、何か聞いてないの?お母様から?』
『知らないよ、母さんはいつも何も教えてくれない。いつも、君には早いて……』
<アテネ、ルイ>それが母さんの名前だ、母さんは今日か昨日かに帰ると前に言っていた。もしかしたら、今回の避難指示はそれに関係しているのか?
……リビヤの町、王立軍基地……
『おお、これが最新の輸送車か、これなら奴らに勝てる……』
軍専用城門から最新の兵員輸送車が入る。隣に並ぶ馬が運ぶのと違い全体が金属で覆われていた。
『アテネ、ルイ様、到着しました』
『ありがとう。魔導スーツの収容が済んだらすぐに町を出ます。ほら!早く!』
一人の女性がその輸送車から出てきた。
『アテネ様、我々を追っていた魔族の移動車による魔導波反応が消えました』
成人したようには見えない青年軍人が彼女に報告している。
『そう……わかったわ、奴らはどういうつもりなのかしら。でも、まず最優先は魔導スーツの積み込みよ。そう、部隊長さんに伝えて』
『はい、では』
報告を終えた青年は足早に彼女から走り去ろうとした。
『あ!待って!ライトくん!』
走り去ろうとする青年を彼女は咄嗟に呼び止める。
『ライトくんは荷物の積み込みが終了しだいここで隊からは抜けなさい。死地に行くのは大人で大丈夫』
『ですが……』
『いいから、これは部隊の最高権力者の命令です。貴方は降りなさい……ほら!早く隊長に報告に行くんでしょ!ほら!行って』
(ババババババババ)
いきなり基地中に高速で撃ち落ちる石の雨が降った。
『なんで……』
幸いにも石の直撃を避けたアテナは土埃の中で空を飛ぶ2体の魔物を見ていた。
……町の教会……
(ババババババババ)
僕と幼馴染のイレが逃げ込んだ教会で何かが連続で壁に当たる音を聞いた。
『な、何?今の?え?』
イレイナは久々に聞く戦争の音に怯えていて、僕にしがみついてくる。
『少し、見てくる』
『え、な、なんで、危ないよ』
立ち上がる僕を彼女は僕のズボンを引っ張って引き止める。その目には恐怖で潤んでいる。
『大丈夫だよ。軍人の母さんに聞きに行くだけだよ』
『でも、危ないんじゃないの?』
『大丈夫だよ。あの時も生き残った僕だし』
『君、どこに行くのかね、皆の迷惑を考えたまえ』
一人の老人が教会の扉を開ける僕を止めてきた。
『母が軍人なんです。状況を聞きに行きます。戦闘が本格的に始まればここも次期に壊されます』
『子供がわかった口を聞くんじゃない。戻るんだ』
『そうじゃよ、年寄りの話を聞きなさい。それに軍人とか政府は碌なもんじゃない』
『ですけど、僕は母を信じます。では』
住民の何十人かが逃げ込んだ教会の外に出た。
外に出ると町のあちこちが火の海になっていた。
『魔族め』
僕は教会と隣接している基地の中に入った。
……王立軍基地……
基地のあちこちに小さなクレーターがある。
『おい!君はなんだ?民間人は避難所にいなさい!』
近くに走ってきた一人の軍人が僕に注意してくる。
『隊長!いました!我々の真上です!』
注意してきた軍人に別の軍人が伝えてきた。僕とその軍人に釣られるように真上を見る。
『キャキャキャ!!!』
僕たちの真上に2体の真っ黒い魔物が高らかに笑いながら空に浮いている。何やら手の周りに魔法陣を浮かばせて。
(バババババババ、ボーン)
どこかでさっきのと同じ爆音が聞こえた。
『小隊!上空の魔物2体に個々に発砲!これ以上暴れさせるな!!』
さっきまで僕を注意していた軍人は部下に命令する。
(バン!、、、バン!バン!、バン!)
兵士達は個々に単発のマスケット銃を撃つ。
だけど、どうにも空の上にいる魔物には効いてる感じがしない。
『あ』
空に浮かぶ彼らが僕たちに顔を向けた。
(ババババババババ)
また、高速の石の雨が降る。
一気に当たりはまた土ぼこりに囲まれた。
『うわーー!!!!』
『ああああーーーーー』
周りにいた軍人達から悲鳴が上がる。
『いた!!』
僕の耳に激痛が走る。
慌てて耳を押さえると濡れる感じがする。押さえつけた手を見るとドップリと赤く染まっていた。
後ろを振り向くと僕の血塗られた耳が落ちていた。
僕は痛むなくなった耳があったところを抑えながら土埃の外に出る。
あたりにはたくさんのぐしゃぐしゃになった屍が転がっている。
(ババババババババボン!)
少し遠くに見える2階建ての建物が石の雨で土埃をたてながら崩れた。
その上で2体の魔物が浮いている。
(バン!)
城壁の上から大砲の発砲音がして黒いここからでも分かる丸い砲弾が複数個魔物に向かって飛ぶ。
『あ、当たる』
砲弾の一つが運よく魔物の一体にあたりそうになる。
『え』
その砲弾はその魔物の目の前で停止して。そのまま真下に落ちて行った。
建物から数人の軍人が大きな台車に乗せた4メートルぐらいの人型の何かを運んでいるのが見えた。
『母さん……』
その軍人達の中にひと気は目立つ赤色の長い髪をした女性がいる。
紛れもない僕の母親だった。
僕は母の方へ走る。
『母さん!!』
『え?アルス?!なんで?!』
母さんが僕の声に気付き僕の方を向いた。
『なんで!?こんな所に来たの!?』
僕は母さんに連れられて建物中で二人っきりで話し始めた。
建物の外では軍人達がまたあの大きな人型の何かを運び始める。
『母さんあれは?』
『あれは、貴方に関係ないの!早く、早く、避難所に戻って!』
『もう、この町は終わりだよ!もう、町のほとんどが火の海に飲まれている!』
『え』
母は予想外の事だったのか固まってしまった。
『ねえ!軍の車あるんでしょ!そこに町の人達を乗せてこの町からでられないの?!このままじゃみんな死んじゃうよ!』
『そんな……』
(ババババババババ、ガッシャーン!)
またさっきの石の雨が降る音、それと同時に目の前で母さんを巻き込みながら天井が崩れた。
『母さん!!』
目を開ければ天井の瓦礫の下敷きになった母がいた。
『アルス、ここから離れるのよ。貴方まで動けなく、う!』
母は腰から下は全て瓦礫の下敷きになっている。とても苦しそう。
『母さん!母さんは僕が!』
僕は必死に彼女の体の上に乗っかる瓦礫をどかそうと持ち上げる。
『やめなさい!アルス!あんたは逃げるの!!』
『うおおおーーーーー』
(ギギギ、ガタ)
なんとか瓦礫全体を母が這い出れるぐらい持ち上げた。
『母さん……はや、く』
母さんはそれでも動かない。
『ダメよ、左足が折れたの、もう』
母の左足はありえない方向に曲がっていた。
『なら!上がれーー!!』
僕はさらに瓦礫を持ち上げる。
(ガシャン!)
持ち上げた瓦礫を背で抑え、開いた手で母を押し出した。
『アルス……』
ただただ母は僕を見つめている。
『母さん……』
『アルス、貴方にお願いが、う、あるわ……あの……魔導スーツのところまで行って』
そう言ってさっきの人型の何かの方を指差す。
『母さん、あと少しだから』
『ええ』
僕は母に肩を貸してゆっくりとあの人型の何かの方へ向かう。
『着いたよ!母さん!次は、次は何を!?』
『う、はーはーLMS-16-2、起動、所有者をアルス、ルイに変更。神経、接続を開始……』
(了解いたしました。アテネ、ルイ様、所有者変更、神経接続を開始)
『行って』
『え?』
目の前の人型の腹が開くと同時に母に不意に押されその腹の中に入ってしまった。
……魔導スーツ内部……
中は真っ暗で何もわからない。
(こんにちは、アルス、ルイ様、私はLMS-16-2です。これより、神経接続を行います)
『痛!』
どこからか、女性の声が聞こえたと思ったら急に体全身が針に刺される感覚がした。
『なんだこれ』
痛みが少し和らぎ、目を開けるように意識する。
目の前には何人もの屍と視界の端に魔力量、刀の残数、など色々書いてある。
『え』
目でもおかしいのかと思い、目を擦ろうと手を動かすと自分の目が緑色の金属の手で覆われた。
『アルス……』
(ガシャ、ガシャ)
後ろから母の声がした。
体がなんだか大きくなったのかただ振り向くだけなのに時間がかかる。
『アルス、貴方は、今、魔導スーツの中にいるの。そのスーツで上空の魔物を倒して。やり方はスーツが教えてくれる』
『意味わからないよ!!』
『ごめんね、アルス、ちゃんと、もっと……いいえ、アルス、このスーツを託します。貴方の大切なものを守るために使いなさい。戦いなさい。貴方のために……』
(警告!警告!高魔導反応!!)
急に目の前に赤い高魔力反応の文字が現れ、耳を覆いたくなるような警告音が響く
(ババババババババ)
すぐにまた石の雨が降り注ぐ。
『母さん……』
何もできずに母さんが目の前で落ちてくる石にミンチされた。
『よくも、よくも……』
怒りがゴボゴボと溢れる
『よくも母さんを!!!』
(戦闘モード、空中浮遊開始……ゴト)
女性の声と同時に視界が徐々に目を動かしていないのに上昇していく。
(警告!警告!高魔導反応!!)
また前に赤い高魔力反応の文字が現れ耳を覆いたくなるような警告音が響く。
(ババババババババ)
また、石の雨がくる。
(カンカンカンカン!!)
体に何か当たる感覚と石が跳ね返る音が聞こえる。
『いた!お前だな!!!殺してやる!!』
真上を向くと母を殺した2体の魔族がいた。
(ターゲットロックオン)
また同じ女性の声がする。
『わ!!』
急に上昇スピードが上がる。右にいる魔族めがけて体が飛んで行った。
『死ね!』
僕はそのまま拳を握り、真上にいる魔族を思いっきり殴った。
『うああああーー!!!』
殴られた魔物は悲鳴をあげて真上に飛び、そしてそのまま地面まで落ちていった。
『お前!よくも!スリブスを!!喰らえ!!』
片方の魔物が横にいる僕に矢を大量に魔法で向かわせてくる。
(バキバキバキバキバキバキ)
また、体に物が当たる感覚があるがそれだけで、向かってきた矢は全てへし折れる、か跳弾してた。
『なぜだ!、あああああ!!!』
矢が効かなっかたのを知ったのかその魔族は僕に剣で攻撃してきた。
(カーン!!!)
魔物の振った剣は壁に当たったかのような音を出した。
『死ね!』
(ズボ)
剣が弾かれて体制を崩した魔族の体を手刀で突き刺した。
『なぜだ……これが、下等生物の新兵器……』
魔物はそう言って地面へ落ちて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます