第5話
そういえばサラさんを支配下に置いたからといって全ての問題が解決される訳ではない。一つだけ重大な問題が残されているのだった。
私がエミリー嬢さんをさっさと支配し協力者に仕立て上げなかった理由と同じだ。我々の支配技術は彼らの異常技術、魔術でバレる可能性がある。
もしバレれでもしたらモグラ狩りが始まってしまうだろう。それだけは避けなくてはいけない。
一応バレないで支配下に置く方法を考えてはいるが上手くいくか……。
思案に耽っていても仕方ない。
サラさんに着けていたヘッドセットを外し、サラさんの表情を確認する。表情筋は働いておらず、目は上の空を向いている。深度は六ってところか……干渉グローブをコートから取り出し自分の右手に装着する。サラさんの後頭部にグローブを装着した右手を乗せる。
「サラさんは私の言葉に疑いを持たず、私からの御褒美が欲しくてどんな命令でも聞いてくれる私の従者なのでしょ?」
「違う……」
「なら奴隷?」
「ちが……」
私の言葉を否定すると生理的であいまいな不快感を感じるように脳の反応を弄っているからサラさんは今途轍もなく生きた心地がしないだろう。青ざめ、今にも吐きそうな顔をしているのがいい証拠だ。
「今、とても気持ちが悪いでしょう?私の言葉を肯定すればすぐにこの不快感から解放されるよ。大丈夫、肯定するだけであなたが心の底から肯定する必要は無い。試しに言ってみるだけ……わかった?」
「はいぃぃ!」
「ふふ、大丈夫よこの建物は防音だから声を気にする必要はないわ。わかった?」
「ンッッッ」
「そう、そんなに首を縦に振らなくて大丈夫よ」
少し遊び過ぎたかな?まあいいか。
「それじゃサラさんは私の奴隷?」
「はいぃ」と力の無い返事が返された。
「そう、それじゃあ今から私の言葉を止めて良いよと言うまで復唱してね。私は宇治イサネ様の奴隷であり、どんな命令でも従います。イサネ様と二人きりの時はご主人様とお呼びします。ほら言ってみて」
私がそう指示すると、まるで人形かのように抑揚の無い声で私の言葉を復唱し始めた。
いけないな復唱している様子を眺めていると興奮してきてしまった。だけど仕方のないことだサラさんはその健康的な小麦色の肌に、虚空を見つめる桃色の眼、焦茶髪に短いポニーテールが私には美しく蠱惑的にみえて余計興奮してしまう。
いけないいけない、危うく浮気してしまうところだった。
三回ほど復唱したのを確認したところで「止めて良いよ」と合図する。
携帯を切り、サラさんの後頭部から右手を退ける。平板化した表情に曇りの表情が出てきた。
「おはようサラさん。取り敢えず椅子から立ってくれる?」
「え、う、うん……それより」
「良くできました」
サラさんの質問を遮り、起動してある干渉グローブを着けた右手で頭を撫でる。
「ふあぁぁ?」と間抜けな声をあげている。今、自分に何が起きているのか疑問を持っているようだ。
「次は床に膝をつきなさい」
私はサラさん……いや呼び捨てで良いか。サラの座っていた椅子に座り、床についたサラの頭を撫でる。抵抗しようと睨んでいた眼は頭を撫でることでトロ目に変わってしまった。
「それじゃあ足を舐めなさい」
「はいぃぃ」
足を舐めているサラを見て、完全に私の支配下に置かれたことを確認した私は頭を撫でた後。自分の中指に着けていた指輪を外し、サラの右手人差し指に着けさせて宿舎に返した。
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