第3話

「何でも無いんだって」

「いいえイサネ様が弱音を吐くまで私は帰りませんよ!」

「なんだよ弱音って学生の、しかもエミリー嬢さんに弱音なんて吐くわけないでしょ。それに今朝のことは解決の目処が立ったから」

 そう言うと頬を膨らませながら拗ねたように「つまらない」と言ってきた。


 何故私は可愛い仕草を見せつけられているのだ?


「それなら私から相談があるのですが」

「何かなエミリー嬢さん」

「ご友人が研究室を見学したいと」

「ええ!もちろん大歓迎だよ今週末以外はいつでも来て良いよ!」

「食いぎみですね……まあ真にイサネ様の研究を理解できるのは私だけですけどね」

「何で張り合ってるんだよ……」

 それにしてもウチに興味があるとは物好きはエミリー嬢さんだけじゃ無いのか。


「明日には来るかもしれませんので部屋は片付けておいてくださいね」

「うっ……夜にやっておくよ」




 といっても一階リビングの研究室にあるゴミを二階の寝室に持って上がるだけなのだから楽なものだ。魔石や水晶の鉱石、小説に解図と石ころから空瓶まで様々な物が床と机に散らかっている。


 段ボールに鉱石、本、ゴミと別けて入れていると養成所時代の指南書まで出てきた。


 いつの間にか、机に放置されていた黒糖栄養棒を食いながら指南書を読みながら養成所時代に思い耽っていた。


 時計を見るとゼロ時を過ぎていた。続きは明日読もうと、本棚の上に置いておく。段ボールでの分別を再開して満載になった段ボールを二階に持って上がる。



 目を覚ませばベッドの上で着替えもせずに横になっていた。「やっば」すぐに風呂場に向かいシャワーを浴びる。



 

「失礼します」

ガチャとドアの開く音と共に見知らぬ声が聞こえてきた。

「そんなに畏まらなくて大丈夫だよ」

リビングのドア越しに私がそう声をかける。

 

 本来なら私がここまで案内するところをエミリーが案内してきてくれた。

 「こちらが今回見学をしに来ましたサラです」エミリーが隣の健康的な薄い小麦色の肌をした女性を紹介すると「よろしくお願いします」と私から目線を逸らさずにジッと何かを確かめるような顔で挨拶された。

「早速ですが今回は宇治教授と二人で話したいと考えています」

「サラ?」

「少しの時間だけだし、大したことじゃないよ」

「わかった取り敢えず着替えてくるよ。エミリー嬢さんは客間に移動しといてね」


 朝から昼の講義が終ってすぐに来るとは思わなかったから何も用意できていない。それに今回見学に来たサラという女性は、不安や疑心の心で私を見ていた。私は本来交渉相手にする装備を用意してサラとの対話に挑むことにしよう。

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