すっとこどっこい陰陽師

羽弦トリス

第1話君の名は

平安貴族は、午前3時起床だ。

丑三つ時には太鼓が鳴るので、2時には嫌でも目が覚める。

彼らの仕事は税の計算や宗教行事の遂行だ。

現代の官僚なのだ。

その日は、漢人からびとの話しを聴く為に、一条頼政は朝から忙しかった。

夕暮れになると、ある男の屋敷の門を叩いた。

間もなく、中から年頃17、8位の女が現れた。

「どうぞ、お入り下さい」

女性が余りに美人なので、

「ま、まさか、あいつの嫁さんか?」

女性はニコリと笑い、一条を部屋に上がらせ、呼んで来ます。と、言った。


『なんで、アイツみたいな男に若い女が出来るんだ?』


「よう。待たせたな」

と、男が出てきた。その男は一条と同い年の44歳。身長は高いが腹は太鼓腹だった。

「これ持ってきた」 

と、一条は酒の入れ物を男に見せた。

「いいね。肴を持ってくる」

と、言うと女が柿と梨を持ってきて、刃物で皮を剥き出した。

「よう、お前、どこでこんな嫁さんを見つけたんだ?」

「嫁さん?だれが?」

「だ、誰がって、隣の女」

女は柿と梨の皮を剥き、8等分に切り分けた。

女はどうぞと、一条に差し出した。

「じゃ、お前の仕事は終わりだ!」

と、男がフッ!と息を吹きかけると、トンボになった。

一条はアッケに取られ、

「また、いたずらか!」

「オレに、女は必要ねぇ」


2人は柿と梨で、酒を飲み始めた。

酔った一条は、

「今日な、漢人が宮中で兵法がどうたら、と抜かしおって、源博雅さんがイライラし始めてな、オレも話し分かんねぇから、屁、ぶっかけてやったわ。アハハハハ」

一条は嬉しそうに笑い、酒を飲んだ。男は、柿の種をプッ!と、庭に向かって吹き飛ばし、

「博ちゃんも、兵法とか嫌いだからね。文官に兵法なんて、屁ぶっかけて当然だぜ」

2人肴を食べ終えたので、男はその場からちょっと離れた。


男はツボを持ってきた。

箸で中のモノをツマミ出した。

「梅干しか?」

「そうだよ、嫌い?」

「い、いや。好きだよ」

2人は梅干しで酒をまた飲み出した。

「今日は、そんな事を言う為にオレん家に来たんじゃねえだろ?」

と、男は種を庭に吹き飛ばした。

「実はな。最近、川で若い女が消えるんだ。見付かった時は既に死んでるんだよな」

男は眉をピクリと動かした。

「先月は3人。今月になって5人が死んだんだ。お前、陰陽師だろ?何とかなんねえか?」

一条は男に頭を下げた。

「恐らく、河童だな」

「か、かっぱ?」

「うん。明日、オレをその川を案内してくれ」

「ありがとう。やっぱり頼りになるのは、陰陽師の安倍晴明君だな」

2人は、夜更けまで酒を飲んだ。

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