第11話(3)弓脚のジロー

                  ♢


「イチローめ、まんまと油断したな、分かってはいたが馬鹿な奴め……」


「『弓脚のジロー』さんだ!」


「相手を鋭く射抜くぞ!」




 ジローが前にゆっくりと進み出る。それを見て、兵士たちが声を上げる。




「まあ、まとめて倒すまでだ……」


「くっ……」




 アヤカが身構える。そこにオリビアが声をかける。




「ちょい待ち、ちょい待ち……」


「むっ……」


「アンタの相手はアタイだってば」


「エルフか……」


「ちょっと下がっていて……」


「拙者はまだやれる……」


「いやいや、結構消耗しているでしょ? 肩が小刻みに震えているよ」


「! 気付いていたのか……」


「スナイパーは観察眼が命だからね~」




 オリビアがウインクする。アヤカが下がる。




「任せたぞ……」


「任された~♪」


「ふん、誰が相手でも構わん……」


「言ってくれるじゃないの、おチビちゃん♪」


「……そういう安い挑発をしても無駄だ……」


「ちっ……」




 ジローの冷静な反応を見て、オリビアは舌打ちしながら距離を取る。




「……撃ち合いがご希望か?」


「そりゃあ、スナイパーとアーチャーなら、自然とそうなるでしょう」


「早撃ちを競っても無意味だぞ? 先の戦いでよく分かっているだろう」


「う~ん、まあねえ……」


「やる気か……本当に無意味な争いだな……」


「やってみなくちゃあ……分からないでしょ!」


「!」


「……がはっ⁉」




 拳銃を取り出そうとしたオリビアの左脇腹にジローの足から放たれた矢が刺さる。




「心臓を狙ったが、わずかに外したか……」


「ぐっ……」


「次は外さん……」


「‼」


「! なっ……!」




 銃声が響く。ジローの右膝が撃ち抜かれ、ジローが片膝をつく。オリビアが笑みを浮かべながら呟く。




「ふふっ……次がなに? なんか言ったかな?」


「ど、どうやった⁉」


「ん?」


「どうやった⁉」


「んん?」


「ど、どうやって撃ったと聞いている⁉」


「だから見せてんじゃん……」




 オリビアが長い耳をピクピクと動かす。耳には拳銃が引っかかっている。ジローが驚愕した表情を浮かべる。




「み、耳で撃っただと? そんなふざけたことが……」


「出来ちゃうんだな~これが。伊達に長生きはしてないんだよね~」


「くっ……」


「一発で仕留められなかったのが、そっちのミスだね。結果論と言ってしまえばそれまでなんだけどさ……」


「……早撃ちでは敵わないと判断して、最初の一発は捨てたのか⁉」


「まあ、そんな感じだね~」


「な、なんという博打を……信じられん……」


「命を張った博打で生き抜いてきたんだ、舐めてもらっちゃあ困るね……」


「くっ!」


「! まだ動けるか!」




 耳から拳銃を取ったオリビアが連射する。ジローがそれをことごとくかわす。




「的が小さいから当てにくいねえ!」


「ほざけ!」


「どっちが! その右足では満足に踏ん張れないから、左足を振れないだろう!」


「むっ……」


「図星だろう! 両足の矢は防いだ! 勝負ありだよ!」


「……ふん!」


「……なっ⁉」




 ジローが左足で踏ん張り、くるりと回転する。回し蹴りの要領で、右足のかかと部分から矢を放った。その矢がオリビアの右腕に刺さる。ジローが呟く。




「まんまと油断したな……まだやりようはあるぞ……!」


「それはこっちのセリフだよ……」


「その右腕では銃を扱えないだろう……!」


「いやいや、言いたかったのはそこじゃないよ……」


「なに?」


「油断したね……」


「そ、それっ!」


「がはあっ⁉」




 オリビアに気を取られたジローの隙を突いて、懐に入り込んだヴァネッサの強烈なパンチを顎に食らったジローが豪快に吹っ飛ぶ。ヴァネッサが慌てる。




「あ! し、死んじゃいましたか? わたしったら、なんてことを……!」


「それも経験だと思うけど……まあいいや、汚れ役はお姉さんが担ってあげよう……!」


「……!」




 左手に拳銃を持ち替えたオリビアが発砲し、ジローの眉間を正確に射抜く。




「一丁上がり……」

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