第7話(2)北方へ来た目的とは
「……ここが目的の街です」
「うん……」
アヤカの言葉に俺は頷く。エリーが問う。
「キョウ様、一応お尋ねしんすが……」
「うん? なんだ?」
「この街に来た理由は? 風の吹くままですか?」
「いや、理由はちゃんとあるぞ」
「! へえ……」
エリーが俺の答えに対して意外そうな表情を浮かべる。俺は説明する。
「この街の近くにはかなり険しいダンジョンがあるらしい」
「ダンジョンですか? そのような建物は見当たりんせんが……」
「いや、すまん。便宜上そう言ったまでだ……険しい山道や長い洞窟、それらを取り囲むような大森林が広がっているそうだ」
「ふむ……モンスターともそれなりに遭遇すると……」
「そういうことだ」
俺が頷く。アヤカが顎に手を当てて呟く。
「……この辺はいまだに人の手が入っていない場所が多いですからね」
「そうだ、その為か、色々な噂が流れている……」
「う、噂ですか?」
ヴァネッサが首を傾げる。
「ああ、その噂を先の街で聞いてな、興味を持ったんだ」
「そ、それは一体どんな噂なんですか?」
「なんだと思う?」
「え、こ、ここでミニクイズ? ちょっとウザいですね……」
「ウ、ウザい⁉」
ヴァネッサの素直過ぎる反応に俺は思わず面食らってしまう。
「それはアタイも小耳に挟んだことがある。エルフの耳は長いけどね」
「それも別に面白くないです」
「! は、はっきりと言ってくれるね、ははっ……」
ヴァネッサの言葉にオリビアが思わず苦笑する。アヤカが問う。
「……どういう噂なんだ?」
「う~ん、なんというか……」
「まあ、言いたくないということで、かえって察しがついた」
「ええっ⁉」
「なあ?」
アヤカがエリーに問う。エリーが笑みを浮かべて頷く。
「貴女のような人が言いたくないということ……それがそのまま答えでありんす」
「ま、まさか、導き出したと言うのかい?」
「ええ……」
エリーが自信たっぷりに頷く。オリビアが戸惑う。
「そ、そんな馬鹿な……」
「まあ、もっと確定させる情報が欲しいのが本音でありんす……」
「あ、ああ……」
「そこでニンジャの出番でありんす!」
エリーがウララの両肩を優しく押し出す。ウララが得意気に呟く。
「諜報活動などもお任せください!」
「この街、さらに周辺で、『金』の匂いのする情報を片っ端から集めてきてくださいんすようお願いいたします……」
「かしこまりました!」
「それでは……!」
「ま、待て! 白状するよ! 噂についてさ!」
オリビアがエリーとウララを止める。
「……伺いましょうか?」
「……やっぱり、キョウから話した方が良いんじゃないの?」
「ええ……?」
「いや、ええ……?じゃなくてさ。方針をみんなに示してくれないと……」
オリビアが俺を促してくる。全員の視線が集中する。俺は口を開く。
「えっと……この街の近辺には『財宝』が眠っているらしい」
「財宝?」
「ああ、それを求めて、トレジャーハンターやら冒険者たちやらが大挙して押し寄せてきているらしいんだ」
「そのような噂は初めて聞いたような……」
「噂自体が大いに広まったのは、比較的最近なんだそうだ」
俺は腕を組んで考え込むアヤカに告げる。アヤカが納得したように頷く。
「ほう……道理で」
「その財宝に目がくらんだでありんすか?」
「目がくらんだって……まあ、興味を持ったんだよ。金というものはあればあるに越したことはないだろう?」
「まあ、それはその通りでありんすね……」
エリーも俺の話に頷く。ウララが俺に尋ねてくる。
「それでは、その財宝を探し出すというのがこの街に来た目的でござるね?」
「うん、結局はそういうことになるのかな……」
「どうすれば?」
「山道への入口というものがあるようだ。そこに行ってみよう」
「分かったでござる」
ウララが首を縦に振る。
「財宝……本当にあるのでしょうか?」
「あったら素敵だよね」
ヴァネッサの呟きにオリビアがウインクする。俺たちは山道への入口に向かう。
「……! お、おい、あいつら!」
「最近何かと話題の……!」
俺たちが山道への入口に着くと、そこにたむろしていた連中からざわつきが起こる。どうやらトレジャーハンターのチームや冒険者のパーティーのようだ。
「あ、あれは、『剣術小町』のアヤカ! 剣技はこの国でも有数らしいぞ!」
「……」
「横の女は『はぐれ魔族』のエリー! 数多のモンスターを使役するとか……」
「ふふん……」
平静なアヤカとは対照的にエリーはどこか得意気にしている。
「あのエルフは、『千年スナイパー』のオリビア!」
「へへっ……」
「横の女は『ぽっちゃり系忍者』のウララ!」
「て、照れるでござるな……」
オリビアが鼻の頭を擦り、ウララがショッキングピンクの頭巾で覆った頭を抑える。おい、どちらもその異名で本当に良いのか。というか、狙撃手と忍者の異名が知られているということ事態、結構マズくはないのだろうか。
「後ろにいるのは……『バイオレンスゴブリン』のヴァネッサだ!」
「ええっ⁉ バ、バイオレンス⁉」
ヴァネッサが自身の異名に愕然とする。まあ、わりと似合っているのかなとは思うが、ここは黙っておくことにする。
「そして、中央にいるのは……」
「『全裸変態』!」
「ええっ⁉」
俺は思わず間抜け声を上げてしまう。まさしく異名じゃないか……。まあ、否定出来ないのが現状なのだが……。俺たちは山道へと進む。
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