第7話(1)北方へと向かう
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「そういえばこれからどちらに向かうでござるか?」
「えっと……北の方だそうです」
ウララは自らの左隣を歩くヴァネッサに問う。ヴァネッサが丁寧に答える。
「ほう、北の方……あまり行ったことがないから気になるでござるな」
「その前に気になることがありんす……」
「うん?」
ウララが自らの右隣を歩くエリーに視線を向ける。声を上げる。
「なんでアンタがここにいるのでありんすか⁉」
「細かいことは言いっこなしでござるよ」
「いや、全然細かくないし! その言い方だとなにやらこちらにもおかしな点があるみたいになるでありんす!」
「悪徳領主も駆逐され、あの自治領で――元自治領と言った方が正しいでござるか――それがしの働き口は無くなったでござる。仕える先が無くなったわけですな……それならばいっそ、キョウ殿ご一行のように自由に生きてみようと思ったのでござる」
「それが何故、あちきらに着いてくることになるのでありんすか⁉」
「旅は道連れ、世は情けと言うではござらんか」
「そんな言葉知りんせん! 大体、魔族に情けなどという感情はありんせんし!」
「まあまあ……」
「まあまあって!」
ウララの前を歩くアヤカが苦笑交じりに呟く。
「キョウ殿だけでなく、拙者らも自由に見えるのか……」
「ええ、それはもう……自分たちが雇われていた領主を敵に突き出したようなものでござるからな……自由奔放と言ってもまったく過言ではないでござる」
「報酬ももらえませんでしたしね……」
「ヴァネッサよ、報酬は確かに失ったが、キョウ殿の名誉は守られたぞ」
「はあ……」
ヴァネッサはアヤカの言葉に頷く。ほぼ全裸の俺が今さら守らなければならない名誉など果たしてどれほどあるのだろうか。
「まあ、それは良いけどさ。いくつか気になることがある……」
「む?」
ウララは自らの真後ろを歩くオリビアに視線を向ける。
「まず、ニンジャなのかい? クノイチなのかい?」
「どちらでもいいでござるが……まあ、昨今の風潮ならニンジャとかシノビとかと呼称した方が色々と余計な波風が立たないでござるよ」
なんだよ、昨今の風潮って……。ゲームの世界も結構うるさくなってきているのか? 俺は首を捻る。オリビアがうんうんと頷きながら話を続ける。
「なるほどね……聞きづらいのだけれど……」
「? なんでござるか?」
「……そのふくよかな体型はシノビとして良いのかい?」
「ああ、これでも軽やかに動けるでござるからな」
「も、もう少し、スリムになった方が、より軽やかに動けるんじゃないのかい?」
「それがしは暗殺を請け負うことも多々ありました。暗殺においては一撃必殺が基本……少し重みを付けた方が、攻撃の威力もそれだけ増すのでござる」
「なるほど、合理的だね……」
オリビア、納得しちゃったよ。合理的か? っていうか、ナチュラルに暗殺ってフレーズが出てきたな、やっぱり忍者怖い……。エリーが口を開く。
「合理的って……」
「うん? なんでござろう?」
「この彩り豊かな装束はなんでありんすか⁉」
エリーがウララの装束を掴んで引っ張る。そう、ウララの忍装束が黒から、ショッキングピンクになっているのだ。ウララが微笑みながら答える。
「お褒めに預かり大変光栄でござる」
「皮肉でありんすよ!」
「皮肉で返したでござる」
「む……」
「特に理由などはないでござる」
「はあ?」
「強いて言うのならば気分でござる」
「き、気分って……」
「不味いでござるか?」
「マ、マズいでありんすよ! このやたらと目立つカラーリングでどうやって忍び込むつもりでありんすか⁉」
「逆にありかなと……」
「なしでありんす!」
「まあまあ、心配はご無用……」
ウララは装束をチラッとめくってみせる。内側が黒い装束だ。なるほど、リバーシブル忍装束ってわけか……。それを確認したアヤカが頷く。
「……それならば問題はないな」
「ご理解を頂いて、非常に嬉しく思うでござる」
「問題あると思いんすが……」
「各々の服装は自由だ」
「自由ねえ……」
アヤカの発言にエリーが首をすくめる。まあ、俺なんかもはや服装以前の問題だがな……。ヴァネッサがにこやかに話しかける。
「で、でも、この色合い、とってもカワイイですね」
「おっ、分かっているでござるねえ~」
「見ているだけで心が明るくなってきます」
「返り血も案外目立たないな……」
「合理的だよね」
「それについては同意でありんす」
「おっ、分かっているでござるな~」
「そ、それはちょっと分からないです……」
アヤカとオリビアとエリーとウララが思わぬところで意気投合するが、ヴァネッサが引いてしまう。それも無理もない。っていうか、さっきから俺が完全に蚊帳の外なんだが……。ウララを中心にして歩いている……まあ、別に良いんだけどさ……。俺たちは北方へと歩を進める。
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