第286話 お店の物色



 この悪魔たち、留美の反応見て遊んでるんじゃないだろうな。

 私は断じて吸血鬼でも、吸血鬼の所有物でもない! 野生の人間や。


「お使い中じゃないです。もう帰るっ」


 私は子供のような言葉を吐いては、踵を返した。


「うーん、契約してないならもう用はないけどぉ。ちょっと店を見ていかない?面白い掘り出し物とかあるかもよぉ?」


 ピタッと足を止める。


「……掘り出し物? 面白いものあるんですか?」


 振り返ると二人がキョトンとした。私が止まるとは思っていなかったようだ。

 出よう帰ろうと思っていたのに、気になってしまった。この悪魔の店に何が売ってるのか見て回りたい。そんな好奇心が疼いて、ワクワクしてくる。


「あははははっ!! あぁ面白いっ」


 ドロシーがバンバンとカウンターを叩き、腹を抱えて寝転がった。そして私の方を見てはニヤニヤしたまま言う。


「適当に置いてるだけだからねぇ。もしかしたら、掘り出し物や面白いものがあるかもよぉ〜ってこと」


「品物も把握してなくて、よくお店やってられますね」


 意地悪な言葉を聞いて、ドロシーはまた笑いこけている。

 構ってたら全然進む気がしない。本当にてきとうに置いてある物たちを見渡して、私は期待のこもった眼差しで微笑んだ。


 この雑多に置かれている店内に、面白いものが眠ってるかも。なにそれ、お宝探しするようで楽しそうっ。

 足取り軽く、雑多に置かれている机を見て回る。


「クククッ、よくもまぁあれだけ帰りたそうだったのに」


「うるさいです」


マルファスバルサ町に帰るんじゃなかったの?」


「ドロシー薄情だぞ」


「悪魔族の中に、情に厚いやつなんていたっけぇ〜?」



 ……この人たち自分らが人間でないこと隠す気ないの? 留美を古代種族側やと思ってるからかな。所有物ちゃうねん。人外でもないねん。

 あと留美をおもちゃみたいに面白がるんじゃないよ。


 ま、いいや。


 私は二人を視界から外して、物色を始めた。


 ただのツボ。飾り?

 回復薬。毒々しい色をしている。

 人間の骨。怖っ。

 呪いの剣。やばい呪いや。

 命を削る水晶玉。やばい武器や。

 おもちゃの剣。おもちゃやん。

 紙束十。これは値段によって買うか。

 木の棒。その辺で拾ったん?

 亀の器。とても亀のようには見えんけど……。

 溶けない氷。冷蔵庫にできそう。でもポーチあるしな。

 剣、盾、弓、杖。武器各種って感じ。

 銀の指輪。装飾?

 岩。岩か。

 血の宝玉。なんの血? てか何するのん? でも綺麗。

 悪魔のツノ。仲間のツノを売るなよ。

 竜の鱗。竜人の鱗ってことね。

 吸血鬼の血。運悪かったら、吸血鬼もどきができてるんちゃうかったっけ?

 丸太。使えるけど、雷が切ってくれるし。

 胸当て。かっこいい、でもサイズがどう見てもあわへん。

 鍵。なんで? どこの? 売り物にしたらあかん奴やろ。

 目玉沢山。気持ち悪っ。

 カビの生えたパン。おいこんなん売るなよ!

 指。人間の指!?

 銅。銅やな。

 飴玉。食べて大丈夫なんか?

 夜カラスの矢。なんかすごい。


 鑑定しまくってものを見ていくの楽しいっ。

 怪しいお店なだけあって、ほんまいろんなもの売ってるし。次あっち行こうっ!



「アハハっ、あんなに帰りたがってたのに、店のものに興味津々みたいだねぇ」


「表情がコロコロ変わるが、あれが何かわかってんのか?」


「触っちゃいけないものには触らないから、ヤバいものと大丈夫な物の区別はついているんだろうねぇ」


「吸血鬼の血にギョッとしてたけど大丈夫だろうな?」


「大丈夫、大丈夫。誰が赤い液体見て吸血鬼の血だって思うのさ。まぁ、吸血鬼に知り合いがいたらヤバいけど〜」


 ニヤニヤと楽しそうにしているドロシーが、トントンとカウンターに足を打ち付けている。

 何か問題が起こったとしても、それすら楽しい娯楽として享受しそうだ。


「さっき吸血鬼の所有物だと結論付けてなかったか?」


「そうなんだけどぉ〜、あの反応は本当に違うのかな〜って。血を見つけたらめっちゃ怒るの想像つくでしょ? なんでかあの人間の子使いたち、吸血鬼の血と人間の血だけは判別するし」


 マルファスバルサもカウンターに腰掛け、微笑を浮かべている。


「なんでもいいけど、俺を巻き込むなよ」


「えぇ〜、俺たち親友だろぉ?」


「ああ親友だ。だからなんだ」


「くふふっ、薄情者だねぇ〜」


「お前もだろ」



 店の中で堂々と喋られると、会話が全部入ってくる。

 レゥーリとかオルガリーフさんに、吸血鬼の血を売ってる悪魔がいたこと、話しといた方がいいかな? 人間のためにも。


 でも、少し時間時経ってからじゃないとバレるかも。うんん、早いに越した事はないか。この後すぐに行こう。

 ヴァルの宿屋やっけか。


 店内に設置されている時計を見上げながら、手に持った丸い水草の生えた水槽を机に置く。

 まだまだ物色し足りない。でもちょっと眠くなって来た。睡眠が足りてないよ。


 カツカツとカウンターの方へ戻っていく。



「あ、どうだった?」


「いろいろあり過ぎて迷います。値段が書いてないですけど、いくらなんですか?」


「そうだねぇ〜。何が欲しい?」


「針が欲しいです。持って来ますね」


 そう言って手に取りに行ったのは、爆弾ハリネズミの針というもので、刺さると針が爆発する代物らしい。

 刺さったかどうかは、先っぽに衝撃が加わったかどうかで判断される。みたいなことを鑑定さんが言っていた。


 どれくらいの威力なんか知らんけど。もしも、クラッカー程度やとしても、針やと思ったらバーン!

 不意をつけるやろ? いひひっ。びっくりオモチャや。


「はいは〜い。爆弾ハリネズミの針ねぇ。んー、じゃ十本で銀貨十枚」


「一本銀貨一枚ですか」


「……高い?」


 ニコニコしている表情からは、ふっかけられてるのか全く分からない。


「値段が高いのかどうかは判断できないです。でも、遊びで買えない金額ではないなと」


「なら、買うよねぇ?」


「はい。買います」


 私とドロシーは、二人してにっこりと笑う。

 そしてポーチから銀貨十枚を置くと、針はポーチにしまった。

 同じ針箱に入れて間違って起爆したり、投げちゃったりしたら嫌だしね。


 腕を組みながらカウンターに腰掛けるマルファスバルサが軽い口調で言う。


「町中で投げるなよ? 当たれば怪我じゃ済まないぞ」


 忠告してくるってことは結構針の威力強い?

 最高でも腕が飛ぶ程度やと思ってたのに、街で使うなって言うほどの威力? 使えないもの買っちゃった?


 うんん、最終手段ってやつや。自爆覚悟で一緒にどかーん。……あり。

 そんなことになりませんように。


「あの、さっきの針って、どれくらい威力あるんですか?」


「……道に投げたとして、建物四つくらい巻き込んでから全壊させられる程度の威力だと思ってくれたらいい」


 そこ笑うところじゃないと思う……。


「気をつけます」


 ポーチに入れた針が暴発したりしないか不安になる。時間が止まるくらいだし、大丈夫だよね?

 さすったポーチが返事をしてくれるわけもなく。

 なんかいける気がする、と謎の自信で思考放棄する。


 若干血の気が引いた私の顔を見て、悪魔たちが笑っていた。

 ほんと、悪趣味。




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