第124話 パーティーに紛れる偽物



「いやー、広いねー」

「埃っぽくて嫌な場所ね〜」

「早く抜けようぜ」


 誰かの話し声を耳が拾う。

 しゃべっている向かい側から、もう一つのパーティーらしき塊も来ていた。


『空間』によれば、私のいる道の横にも道があって、壁は薄いみたい。剣で斬れば崩れるだろう。留美の手じゃ無理やけど。


 戦闘になるかもしれんから、さっさと進むべきか。……いや、あの人らがどんな結果になるのか見たい。

 かち合う所から少し離れて、見ていよう。


 敵じゃない場合、お互いが味方であることを示す何かしらがあるかもしれない。


 それが私に伝わってないとしたら、もうムカつくの一言だね。



 二つのパーティーが会ったようだ。


 結果。なにか言い合いの末に、戦闘開始。そして、一方的に片方のパーティーが殺された。

 で。私のいる隣の道まで、男が吹き飛んで来た時は驚いた。


 その男が最後の一人だったらしく、死んだか確かめるために、来たパーティーの一人と目が合う。

 それで今はちょっと、気まずい感じ。



 一方的に殺したパーティーは、細目野郎のいるパーティーだった。全く人を殺すことに躊躇がない時点で、なんというか……怖い。

 なんなんだ本当に……。変な縁を感じるが、今は敵か味方かが重要だ。


『鑑定』吹き飛んで来た男は賊ではなかった。 


『鑑定』


『カクタ クロノ』

 少し東の町にに住む人族。

 警戒してるっぽい。



「……よお」


「こ、こんにちは」


 沈黙が……つらい。

 座り込んでいる私を、細目野郎が見下ろしてくる。その後ろで彼の仲間が破壊した壁を覗き込んでいる。こっちにくるようだ。


「何してるんだクロノ」

「確認したんなら早く行きましょ」


 クロノさんは私を無視していいものか悩んでいるようだ。

 私は少しオロオロしてから立ち上がる。本物でも偽物でも気まずいから、一緒にいたくない。


「私もう行きますね」



「ちょっと貴方待ちなさい」


 弓を持つお姉さんに止められてしまった。


「何か用ですか?」

「貴方も賊の一人でしょう?」


 弓使いの女が決めつけるように言う。

 それを聞いた面々も武器を持つ手に力が入る。しかし、ローグのクロノさんだけは考えが違うようだ。


「いや、違うと思うぞ」

「なんで言い切れるのよ」


「目があった時、すげー気まずそうだったから」


 確かに。


 私は全員を『鑑定』した。

 ローグのクロノさんは白。

 クレリックのユリアさんは黒。

 魔術師のルルフェさんは白。

 弓使いのカリンさんは白。

 戦士のオルグさんは黒。

 戦士のセルジオさんは白。


 という結果だった。ちなみに黒、とは賊であると言うことだ。……はて、どうするか。

 私としては、黒だとわかったオルグさんを殺したいところ。だって、偽物でも殺せばムカムカが、スッキリするかなって思って。


「あの。私を信じて目を瞑ってもらう事って出来ます?」


「んー。無理」

「ですよね」

「逃げようったって、そうはいかないんだから」


 むぅ。違うふうに受け取ってる。……いいけど。


「なら、付いて行っていいですか?」


「おう、一緒に行こうぜ」

「私は嫌」


 黒の子だ。これ以上敵が増えるのは嫌だってことかな? どうやって性格とか似せてんのやろ? すごく気になる。仲間が気づかないって、すごくない?

 逃がさない。ついていくのもダメ。留美にどうしろと?


「えっと、なら私はどうすればいいんですか?」


「死になさい」

「やめないかカリン」


「…………」


 なぜ、死ねと言われなければならないのか。普通にひどい。弓使いのお姉さん嫌いっ。


「悪いな。少し気が立ってるようなんだ」

「ごめんね……」


 二人の謝罪で少しだけ嫌いが解消される。


 考えてみればこんな状況やもんな。疑心暗鬼になってるんやきっと。うん、きっとそうだよ。うんうん。

 さっきも身内同士でやり合ってたし。そんでもって、追い打ちをかけるように、仲間が賊と入れ替わってる。この事がわかったら、このパーティーどうなるんだろ?

 ヒヒヒッ。


 私は笑いそうになった口元を隠す。



「忠告します。その私の仲間に切りかかってきた男とクレリックの方、賊の仲間ですよ」


 そう笑った私から庇うように、戦士のセルジオさんがクレリックを守る位置に立つ。

 やだ怖い。


「そうやって、私たちを分散させようって算段なわけね」

「ユリアは賊の仲間なんかじゃない」

「いくらオルグに恨みがあるからって、時と場所を選べよな」


 彼らの反応に私は首を傾げる。


「気をつけてねって言いたかっただけです。正直、貴方たちの生死なんてどうでもいい。はらわたが煮えくり返りそうです」


 怒りの見えない幼い声。彼らは困惑するようにお互い顔を見合わせる。



「そういやお前、なんでここに?」


 この空気でよく聞いてこれるなと感心する。けれど、私もいがみ合いたいわけじゃないから対話に応じることにした。


「強制的にってやつです」


 その言葉を聞いて、クロノさんが少し考える素振りをした。


「まさか、あの時走って行ったのって……。誤解しないでくれよ。俺はアカ……騎士がいるって知らなかったし、あの人は喧嘩に負けて倒れてたのをユリアが治療していただけらしい」



 ジアさんに追い出された後、誰かに喧嘩ふっかけて、ボコボコにされたと……。騎士ってやっぱ弱いんかな?

 もう顔も覚えてないけど、なんとなく不憫に思えてくる。


「すみません。思い切り誤解してました。行くの嫌だから逃げてたのに、クロノさんが道連れにしようとしているのかと……」


「俺そんな奴に見える?」


「まだどんな人か分からないので、警戒してます」


 クロノさんの言い分が本当かどうか分からない。留美は嘘を見破るのが下手やし、人は平気で嘘をつく。

 見るからにこの人は食えないタイプの人間だ。もぐもぐ……。


 吹き出しそうになって、口元を隠しながらプルプル震える。


 あぁやばい、絶対変に思われてる。

 チラッと見上げると、少し不振がられていた。こほんと咳を一つ。



「あの、オルグさん」


「ん? 俺か。なんだ?」


「ちょっと前のこと謝ってもらっていいですか? 貴方の顔を見るだけで、ちょームカつくんです。うふふ……」


 オルグさん(偽物)は困惑したように見てくる。


「お、おう」

「ちょっとオルグ! そんな奴の言うこと聞かなくたっていいでしょ!」


「いや、俺も悪かったし」


「まぁ、今謝らせる? ってのはあるけど、早い方がいいよな」



 オルグは私の前に来ると、申し訳なさそうな顔を作る。


 うわぁ。よく出来てるなぁ。どうやってんのかな? どうやってこの性格とか似せてんだろう。記憶を見たとか? そういう幻覚を見せているとか?

 いずれにせよ、村人だった人達がそんなこと出来るか? 十中八九無理やろう。

 不思議だなぁ。気になるなぁ。


 オルグさんが頭を下げる。彼の顔に触れると叩かれた。


「痛い……」


「あの時はすまなかった」


 叩いたことなかったことにされた……。私は頭を下げている男を不思議そうに見下ろす。


「偽物に謝られても困ります」


 私がそう言うと、オルグさんの姿をした賊が顔を上げる。変わらず首を傾げている私は、ナイフをスッと抜き、喉元を切り裂いた。

 死ねば姿が戻ることは確認済みだ。


 スッキリしたような笑みを浮かべて、血のついたナイフを振る。対して、仲間を切られたと思っている五人は唖然として立っていた。


「な、なにして……」

「オルグッ!」

「お前ッ!!」


「何度も言わせないでくださいよ。偽物。偽物ですよ。ちゃんと見てください」



 若干息のある男が血を吐いた。

 戦士のセルジオさんが、焦りながらも指示をする。


「ユリアヒールを!」

「ダメっ間に合わないっ……」


 男を抱えて、クレリックの女性に扮している賊が、私を睨んでくる。


 村人がヒールを覚えているとは思えず。喉元を切ったのだ。たとえ『ヒール』が使えていたとしても、よほど腕が良くないと助かるまい。

 早く死んでくれへんかな? 留美の容疑が深まってしまう。



「ん。本人だったとしても、謝るなら雷本人に謝ってくださいね」


「よくもオルグを……!」


「偽物殺したくらいで、そんな怒らないでくださっ――」

 カンッ!!


 私が相手の神経を逆なでするように、ヘラヘラとしていたこともあってか。弓使いのカリンが殺気に満ちた目をしていた。彼女はナイフを持って、突っ込んでくる。


 キンッ! シャッキン!


 弓じゃないことに驚きながら『シャドウステップ』で下がる。


 よく防いだ留美! 今の食らっててもおかしくない攻撃やったで。



「待ってください」


 その一声出したと同時に、ローグのクロノさんが後ろに回っていて。視線を向ける。目の前にショートソードが振られていた。

 それをスキルで把握していた私はなんとか躱す。そして目を見開いたクロノさんに蹴りを食らわせた。


 あまりいい音がしなかったから、大したダメージにはなっていないだろうなぁ。

 タンッと地面に両足をつけると、すぐさまセルジオさんが剣を振り下ろしてきていた。


「ちょ、待って!」


 思ってたけど、躊躇ないなッ!


 世界がゆっくり動く感じ。そのうち走馬灯でも見えて来たりして……。嫌だよ!それ死ぬ直前じゃん!



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