第114話 謎のフクロウ



 朝。

 まだ太陽が昇っておらず、月が辺りを照らしている。


「早寝早起き、しすぎたな」


 昨日寝ようと部屋に入った時間から数えて、十二時間は寝ているからちゃんと寝てはいる。

 早く寝過ぎたな。

 まぁ、やることないから仕方ない。


 ベットを降りる。

 装備をつけて井戸へ。


「ここの井戸水、美味しー」


 最初はパパに微生物が伝々でんでん脅かされたけど、本当によかった。清らかな水で今のところお腹を壊したりは、していない。

 あのゴブリン肉を食べてお腹壊さないってのも謎やけど。味はアレやけど栄養価は高い……わけないか。

 留美って結構体丈夫やな。いや、昨日熱出して倒れたわ。



 むすんでいない髪を風が揺らす。少し冷たい空気だ。

 微かに音がした。見上げると何かが飛んでいる。鳥のような……。


 あ。落ちた。


 私は鳥のような何かが落ちた場所に近づいてみる。


 見たことある形……フクロウ? 食べれるかな?

 ピクピクしている鳥を見下ろす。



「大丈夫?」


 一応話せるかもしれないので、話しかけてみる。


「クエェーー!!」


 フクロウが……クエェーって鳴いた。可愛くない。あかりが月明かりしかたいから、フクロウの全貌もよく見えないし。ただ鳴いたって事は、喋れないっぽいな。


 怪我してるみたいやし、さっさと殺してあげ……ん? 手紙がついてる。


 フクロウの足には、手紙らしきものが括り付けてあった。じたばた暴れるフクロウを押さえつけて、好奇心が疼いた私は、紙を取る。


「いてててっ、おいコラ突くな」



 中を覗こうとしたが、ぴたりと動きを止める。するとフクロウの動きも止まった。

 何を考えているのかわらないが、まぁ今はいい。


 開いていない手紙を月明かりに照らして見る。


「待てよ……未開封の手紙。……これは読んだらダメなやつでは? 読んだだけで捕まったり、殺されたりせんよな? ただの恋文とかならいいねんけど、それはそれで興味ないな。なにこの模様、かっこいぃ〜」


 独りごちる私をフクロウが凝視している。怖っ、なんか怖っ。

 視線が泳いで動物相手にとりつくろう。


 好奇心は猫をも殺すって言うし。読まないでおこう。うん。にしても、ポーションは動物にも効くんやろか?



「フクロウさん。私読んで無いからね」


「クエェー」


 フクロウがはいはい。とため息をついた。


 留美はヒールポーションを取り出す。

 なんだか警戒されているようなので、無理やり口を広げさせる。なにすんじゃわれ! とばかりに噛み付いてきた。


 歯があるこのフクロウ……。


 私はフクロウもどきだった事にちょっとだけ残念がる。

 留美は噛み傷を気にせず、口の中にヒールポーションを流し込んだ。流し込むついでに私の手の傷も治り、一石二鳥だ。よしよし。


「ごめんごめん、下がればか。あぁ治ってるやん、よかった。動物にも効くんや」

「クエェー!」


 傷が治るや否や、羽を広げて威嚇してくる。ドスドスと地団駄を踏んで、留美のことを睨みつけてきた。

 動物あるある。『君を助けたい』が伝わらない。まぁ留美のやり方も強引やったけどな。



「もしもしフクロウさん。この手紙を括り付けたいから、じっとしててね?」


 威嚇していた羽を折りたたみ、ちょこちょこ近づいてきた。

 なんか、留美の言ってる言葉がわかってるみたい。一々返事してくるし。さっきまであんなに威嚇してたのに、落ち着いてじっとしてるし。


 痛くないよな? これでよし。


「おっけい、じゃぁね。もう怪我するなよ」


 音も立てずに飛んで行ったフクロウが、月明かりに当たらず、夜の闇に溶けていった。

 き、え、た。


「元気でなー」




 流石にこの時間にジアさんの所に押しかけるのも、どうかと思うし……暇なこの時間を有効活用するにはどうするべきなのか……。

 そんなことを考えていると、誰かが階段を降りてくる音がした。


 私は砂を払うと、家に戻っていく。

 広間に入ると、階段から降りてきた母がいた。



「おはよ。熱下がった?」


 留美は親指を立てて笑う。


「おはよ。もう下がったよ。バッチリ。そういや昨日どこ行っとったん?」


「昨日はみんな自分の教官のところに行って、色々聞きに行ってたみたいやで」


 留美もスキルの続き――

「ゴホッ、ゴホッゴホッ!」


 咳込んだママの背中をすりすりする。


「大丈夫? 留美の風邪移った?」

「大丈夫やで、ちょっと咳き込んだだけやから」


 留美は心配そうに見る。


「ちょっとトイレに降りてきただけやから、あたしはもうちょっと寝るわ」


「うん……」



 庭に出て寝転がる。まだ明るい月を見ながら、ぼんやりと考え事をする。


 風邪薬……か。

 ポーションは万病に効くのか。それとも傷を治すだけなのか。

 飲みすぎると中毒になったり、体に悪影響が出る可能性はあるのか。


 実験するほど有り余ってないしなぁ。欠損やヒールが万病に効くなら、他の状態異常を治すポーションとかは、いらんって事になってしまう。そう考えたら傷だけ? そもそも腕生えるポーション謎すぎる。留美の常識で当て嵌めたらあかんやつや。


 目を閉じる。


 留美なんかが考えたところで、なんの意味もない。なにか行動できた試しがない。




「おーい」


「ん?」


「もう十一時やぞ。いい加減起きろよ」


 意識の上がった瞼の上が明るかった。そっと手を顔をの上に置きながら、目を開ける。

 私を見下ろす雷がいた。


 留美は目を細めて、起き上がる。


「寝てた……」

「風邪ぶり返すぞ」


「そう言う雷もちょっと不調?」


「あぁわかる?」

「しんどそうな顔してる」


 あと音、声がいつもより掠れてるし、顔も……。ちょっと雰囲気がしんどそう。

 絶対留美が風邪菌うつしてもうたやん。



「あぁー、俺はもう無理だ。あとは任せた……ガクッ」

「大丈夫そうやな」


 演技をして倒れた弟を無視して立ち上がる。


「留美広間に戻って――」

「俺も戻る」


 雷が地に伏した姿勢で、留美の足を掴んだ。

 その姿を見て、ピンとくる。


「ぎゃーゾンビぃー!」


 逃げようとした私の掴む手に力が入り、雷の体を引きずる。


「はなさぬぅ゙ー」


「いやー! ゾンビがぁあ! 重っも゙っ!?」


「ちょっと体重のことはいいっこなしよ」

「五キロ超えたら重いわ」

「力ごみ」



 ずるずると、広間へ。


「はぁ……はぁ……お、はよ……」


 ママとパパが談笑していた。


「なにしてんの?」

「ゾンビが……離してくれへんっ」


 二人はクスッと笑いだす。

 パッと手が離れたと思ったら、雷が留美を倒そうとしてくる。そして留美は倒れた。


「あーもうぃややー! どけじゃま! 熱いねんしばくぞテメェ!」

「ははははっ!」

「あーーーー!! もうっ! うざいぃー!」


 叫びながら弟を引き剥がす。

 あーしんどっ。雷もしんどいんちゃうんかいっ。


 匍匐前進ほふくぜんしんで近づいてくるから、留美は置いてある椅子を振り上げた。


「オイこらゾンビ。掴んだら脳天かち割るぞゴラ」

「留美、危ないからやめなさい」


「…………」


 私がママに怒られて、固まった弟がぺちゃんと地面に伏せた。

 ふぅ……。


 重かった椅子を置くと、雷を引っ張り起こす。


「はい蘇生蘇生。死者よ生き返れ〜」

「はっ。俺はなにをっ」


 よいしょと椅子に座る。

 向かい合わせで椅子に座るママとパパの間、その机に雷は伸びるように乗る。「行儀が悪い」とママに軽く叩かれているが、動こうとしない。

 今日の雷は構ってほしいようだ。



「なんか皆しんどそうやけど大丈夫?」


「いや、ちょっとしんどいな」

「あたしも寝たらスッキリするやろ思ったら、全然治ってない」

「実は俺もかなりしんどい」


 うぅ……。留美のせいで風邪菌が充満している……。

 なんとなく罪悪感のようなものを感じてしまい。私自身もまたしんどくなってきた。


 うんん、やまいからっ。よし外の空気でも吸いに行こう。


「風邪薬ないか探してこよか?」


「昨日探して回ったけど、なかったわ」


「ご飯はどうする? なんか持って帰ってこよか?」


「俺はいい。食欲ないし」

「俺もいいかな」

「あたしもいらんわ」


「なんか食べんとやばいって! ……まぁ食欲ない人に食べさせるようなもの作れへんし……。じゃぁ留美適当に食べてくるわ」


「気をつけや」


「行ってきまーす」



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