第110話 水浴び中にキラさんたちが来た



 朝。


 ピカーンと主張する明るい太陽に起こされた。

 おでこに手を当てて、熱が下がっていることを確認する。下がっているのかわからないけど、体はずいぶん軽くなった。


 留美に魔力とかあるんやろうか。あるならMP不足で不調になったっていう線もあるけど……。スキルで魔力が減る……?

 スキル使うときに、そんな注意事項言われんかったしなぁ。言ってくれる保証もないけど。



「ふぅ」


 キラさんに昨日のこと、覚えていないふりをすべきか、謝りにいくべきか……。憂鬱だ。

 留美って意識がぼんやりすると、あんなに攻撃的になるんやな。悪意が近くにあったせいかな? なんにしろ、気をつけないと。まさか、自分の体調管理もできてないなんて、情けない。


「最近気を張ってたから、仕方ないって部分もあるかもしれんけどさ」


 私は柔軟をした後、ポーチとナイフを持って井戸へ向かう。

 水を飲んだ後、忘れないうちに水袋を洗って水を入れておく。


 みんなはどこへ行ったんやろ? 今は十一時か。寝た時間を考えると、よく寝たって感じ。



「体流そ」


 髪を梳かす。

 タオルを取り出して、たらいを持ってきて、服を脱いで、洗う。洗った服を、絞って、紐にぶら下げて放置する。

 それから、体も流す。


「冷たっ」


 下着は元の履いていたものを除くと、これしかない。

 元着ていた服を綺麗なままに残しておきたいという思いが勝り、いつも通り全裸で体が乾くのを待つ。

 一応タオルを腰に巻いておく。


 この天気なら、早く乾きそう。

 服を乾かしている間に、靴の汚れも落としておく。やはり裸足で歩くのが楽でいい。



 井戸水ゴクゴク。

 靴の汚れを落としたあと、毒薬(マヒ)をぺろりと舐めてみる。毒薬(麻痺(強))より劣るが、どの程度のものなのか気になった。


「お、おお。こ、れは」


 舐めただけやのに、この痺れ……。体が思うように動かん。

 一応立てるけど、走るのは厳しいか。次第に毒が抜けていった。


 毒耐性とかつかんかな? ……いま毒薬を消費してまで、優先するべきことじゃないな。

 身体が思うように動かない現象が面白くて、毒薬(マヒ)を飲み干してしまった。


 あらら。もったいない。


 服が乾いてきた。

 遊んでいて汚れたところを、もう一度流していく。


「誰も帰ってこおへんな」




『音聞き』ん? 『空間』んん?? 何か知っている人の声が聞こえたと思ったら、お馴染なじみの人数が頭の中に見えた。


「ちょっとキラさん今行くのはダメですって!」


「守備範囲外だから、大丈夫だ」

「いやいや、何が大丈夫なんですか! ダメですよ! ね! カムロさん」

「そ、そうだな。わざと覗くのはダメだろ。な、ジェス?」


「俺は別に……そうだな。ダメだ」

「ほらキラさん、水浴びが終わるまであっち向いてましょう!」


「パニク顔真っ赤にしてやんの」


「なっ、違っ。これは太陽に当てられただけです!」


 私は声のした方へ目をやる。

 もう誰がいるのか、分かってんだけどさ。この会話は……。ねぇ?


「…………」


 見た先には向かいの、そのまた向こうの屋根の上に、キラさん達が後ろを向いて座っている。

 屋根の上から覗かれることがあるとは思っていなかったので、ある意味勉強になった。


 集中すれば、この距離で心臓の音が聞き取れる。留美も普通じゃないな。それとも、これがこの世界での常識?

 あ。耳栓とか用意しとかなあかんな。もし鼓膜破れたら……欠損ポーション飲めばいいか。

 でも、ポーションに頼りすぎってのもな……。とまぁ、それは置いといて。


 あの四人。何しにきたんやろう? 留美に用ってなんやろう? 心配してきてくれた? いやいや、そんな人たちじゃなさそうやし。

 そもそも、ただ見に来ただけなら四人でくる必要ない。



 目的は聞かなわからんから置いといて。

 さっきの会話からするに。ワザとではなく偶然に、留美が水浴びをしている所に来てしまったと。


 それともワザとやってるのか……。どっちにしろ、覗かれたってことで針投げとくか。これはきっと正当防衛です。覗きは犯罪なんです。

 留美昨日今日でキラさんまた攻撃しようとしてるけど、許してくれるかな?


 私は服が乾いたことを確認すると、服を着る。

 そして、足のベルトから針を四本取り出すと、投げていく。同時に投げれる技量がないのが悔しいっ。



「ぃった!?」

「うおっ」

「……針?」


「キラ大丈夫か?」


 針はキラさんの肩に一つ。カムロさんとパニクさんには避けられ、ジェスさんには受け止められた。

 ジェスさん受け止めるって、どんな動体視力してんだよ。それともなんかのスキル?


 あぁー! 避けた人のバカ! 大事な針が二本どっか行っちゃったじゃないか! 投げたの留美だけど!



「どっから飛んで来た?」

「確実に僕たちを狙って来てますね」


「留美じゃないか?」


 ジェスさん正解です。にしても、一番に投げたとはいえ、キラさんだけが避けれなかったのは意外やな。


「あー、睨んでるなぁ」

「さっきの会話聞かれてたのでは?」


「俺になんか恨みでもあんのかあいつ。昨日助けてやったってのに」

「揶揄われて気分のいい奴は少ないよな」

「ですね」



 針一本いくらするんやろ?

 めちゃくちゃ自己中的な考え方してるなと思いつつ。やっぱり消えていった針は惜しいもので……。


 はぁ。後ろ向いてんねんから絶対当たると思ったのに。気づくもんなんやな……。いや、すごいよな。普通じゃないわ。

 私は睨むのをやめて、屈む。


 留美の針〜。

 チラッと見上げる。


「来ないんですか?」


『音聞き』を発動しているであろう四人に話しかける。



「ジェス、針抜いてくれ」


「ああ。……にしても安物だな」


 失礼な! ジェスさんにカムロさんとパニクさんの分、請求してやる。

 彼らの様子を聞いていると、怒った様子はない。……この楽観的に思う感じなんやろ。危ない思考やな。



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