第54話 薬草畑を発見
ギルド。
「クリスティーナさん。ただいま帰りました」
何か書いている彼の前で、笑顔を浮かべる。
図々しかったかなと言う不安を抱えながら、座っている彼を目が合った。
「お帰り。ってどうしたの!? 大丈夫?」
ちゃんと帰ってきた反応に安心する。クリスティーナさんもコミュ力高いよな。
背負われている体勢で申し訳ない。
「……あー、その、ちょっと、力が入らなくなって」
「しっかり休みなさいね。アンタたち三人も、あんまり留美ちゃんに無理させるんじゃないわよ?」
「はい。そのつもりです」
パパの抱える手に力がこもる。
少しの罪悪感と、ちゃんと守るってのが伝わってくる仕草。こういうことに留美は幸せを感じる。
私は小さく笑みを浮かべて、顔を埋めた。
クリスティーナさんが身を乗り出して、パパの顔を覗き見る。
「アンタよく見ると、いい男ね♡ どう? 今度一緒に食事にでも行かない?」
パパ—!! ロックオンされる前に逃げて—!!
「申し訳ありませんが、遠慮しておきます。お誘いいただいたことは嬉しく思いますが、食事は家族と取りたいもので」
一歩も引くことなく、笑顔で対応し切ったパパに称賛を送る。
さすがパパ。漬け込む隙を与えないガードの硬さ。それに、笑顔と丁寧な絶対拒否の言葉で、相手を不快にさせないようにうまく躱してる。
さて、ここで話をぶった斬るか。
「クリスティーナさん。交換お願いします」
私はパパが断ったのを聞くと、即座にクリスティーナさんに声をかけた。それを見たクリスティーナさんは、ふふっと笑うと、いつも通りのように言う。
「はいはーい。出してちょうだい」
ポーチから出すたびに雷が受け取ってくれる。
そしてゴブリン耳七個と、エリートゴブリン耳一個を取り出して机に置いた。
誰だよ耳取ったやつ! すっげー雑いじゃん。見ればわかるもん! はぁ〜。ママとパパにも耳取る練習してもらわなっ。いやでもお金ないうちは留美がやる方がいいかも。
くっそー。何で留美が血なまぐさい仕事をしなあかんねん。一番儲かるからや〜。はぁ……。
「えーと、七枚 五枚 五枚 八枚 九枚 十枚 二十九枚。プラス報酬五十枚。で、合計銀貨百二十三枚よ。全部銀貨にする? それとも金貨を入れる?」
今日は結構稼げたな。一回行ったら結構安心できる額を稼げんのか。
ちょっと危ない所もあったし、頻繁に行く必要なさそう。
「全部銀貨で」
「銀貨百二十三枚よ」
チャリン。
家族の袋を取り出だすと、母がジャラジャラと入れていく。
「ありがとうございます。また来ます」
「ええ。待ってるわ」
にこやかに手を振ってくれる彼に振り返す。
ギルドから出た。
「パパクリスティーナさんに、狙われかけたな」
「むし返さんといてくれ、背筋が冷たくなる」
「パパ乙」
「あははっ」
「ほら早く帰るよ」
「はーい」
家。広間。十五時。
「お昼ご飯食べてないから、お腹すいたー」
「俺も—」
「留美まだ動けそうもないー」
酷使した身体がプルプル震えている。あの程度でこんなに筋肉痛になるなんて……。
留美は並べた椅子をベットがわりにして寝転んでいた。
「ヒールはかけたんやけどな」
「それよりさ。銀貨百二十三枚もう使う?」
「はい、服欲しい」
「あー。服な。俺以外、一着しか持ってへんもんな」
穴あき辛い……。
「スキル覚えに行くでもいいで。でも服やろうな。ママとパパのローブボロボロやし、パパの服片腕ないし、留美の服も穴空いてるし。歯ブラシと櫛とちり紙とタオルも必要」
「まず服やろ」
「いや、ちり紙の方が優先度高いかも。尊厳は第一に守らなあかんねんで」
どちらにせよ。今日はもう動けへんわ。
あー。眠い。
「使うのは明日にしよー。留美もう動けへん。……という事で、雷運んでー」
「えー。いいけど」
よいしょと抱えられた留美は楽しそうに言う。
「きゃーっお姫様抱っこー!」
「落とすで」
「イヤよ」
ひしっと雷につかまる。
留美の部屋。
何もする事ないんよなー。
それよりなんで急に体が重くなったんか、力が入らなくなったんか。の原因を探らないと。戦闘中にこんな事が起こったら死ぬ。
最初は筋肉痛や思ったけど、なんかちゃう気がしてきた。
明日くらいに治れば、『シャドウステップ』のせいか調べてみよ。それくらいしか思いつかんし。
重さなのか、連続使用の可能性もあるし、もしかしたら精神的な問題かもしれん。
暇、暇。と時間が流れて、いつの間にか眠っていた。
朝。
パチリと目が覚めるとゆっくりと起き上がる。
何かの力が働いたのか、痛みもなければ、力もちゃんと入るし。異様な重さもなくなっていた。
普段と同じように動く。そういうもんなんやろう。
私は思考を放棄した。
手櫛で髪の毛を整えて、伸びをする。窓の外は暗く、いまだ夜の
靴に手を伸ばして、靴下を履く。
ゆっくりゆっくりと柔軟をするのは怪我をしないため。地面に座った時に汚れるのは仕方ないと割り切っていた。
気になったら座る場所だけは
井戸。
街の中ならどこからでも見える時計塔が、五時あたりを指しているような気がする。
「そりゃ、早起きにもなるよな」
ゴブ殺しに行くか。六時には戻ってこよ。……やっぱ止めた。薬草取りに行こっと。
ポーチとナイフをちゃんと持っていることを確認して、家の近くにある森へ行く。
「んー。朝から新鮮な空気ー。君たちのおかげだねー、ありがと〜」
返答を見込めない木に話しかける。
すると、風で木が揺れて言葉を返してくれてる気がした。
『雑草』『雑草』『雑草』『薬草』『雑草』『雑草』『雑草』『雑草』『雑草』『雑草』『雑草』『雑草』『雑草』『雑草』『雑草』『雑草』『雑草』『雑草』『雑草』『雑草』『雑草』『雑草』『雑草』『雑草』『薬草』『雑草』『雑草』『雑草』『雑草』『雑草』『雑草』『雑草』『雑草』『雑草』————はぁ。
この辺、『雑草』しかないし……。
目がバグってくる。ゲシュタルト崩壊が始まってしまうよ。もうなってるかも。
場所を移動して、『鑑定』『鑑定』。
『薬草』『薬草』『薬草』『薬草』『薬草』『毒草』『薬草』……うん? あれ? おっ?
一つ目。二つ目、三つ目ってこの辺全部、薬草やん!? あわわわっ。いつからや……。留美の目が節穴になってたんはいつからなんやっ。
やーば。ひらがな表示にしてほしい〜。『やくそう』『ざっそう』『どくそう』って。優しい世界……。いやそれはそれで頭おかしくなりそう。
そういえば薬草ってなんやろ。雑草の変異種?
成分だけ変わんのも変な感じやし、正反対の毒草も出来てるしな。
不思議に思っても答えはでず、かなり大量にあったので、四十本くらい採取できた。留美はウハウハのニコニコである。
薬草を包むのが面倒になり、そのままポーチに突っ込んだ。
どうせ時間止まるし。
留美の部屋。
部屋に帰ると、石を引っ張り出してポーションを作り始める。
私は戦いの前に回復薬とかはMAXで持っていくタイプだ。MAX値が大きい時はとりあえずきりのいい百くらいあればいいかなって思える。なので、現実でも多ければ多い程いい。
十八本使って、欠損ポーションの方の瓶(大)が満タンになる。
八本使って、ヒールポーションの方も、あと小瓶の二つも入れれば満タンだ。
なんか頭痛い……。
身体が怠い……、筋肉痛がぶり返してきた。……風邪じゃないんやから。
明るくなっていた部屋を見渡して、伸びをする。
二つの瓶(大)をポーチにしまうと、広間へ降りていった。
時計の針は今十四時。…………十四時!?
広間には誰もいなかった。
家の中をウロウロして探し回る。いない!
そのうち帰ってくるだろうと、椅子に座ってお金の数を数えていると、ドアが開いた。
「ただいま」
「あ。留美や」
雷たちが帰って来た。
どこに行ってたんやろ?
「おかえり。どこ行ってたん?」
「ご飯」
「なんか真剣にやっとったけど、もう体大丈夫なん?」
「大丈夫。筋肉痛に苦しんでるだけ」
雷が机に倒れ込んできた。死んだ魚のように直立していて、足までピーンと伸びている。絶対しんどいやろ。
目の前の弟を無視して私はお金を数える。
ふと思った。
「お金は?」
「前に預かったお金がまだあったからな」
「なるほど。もうちょっと渡しとく?」
「もらう」
銀貨十五枚を机に置き、残りはジャラジャラと銀貨を袋へ。立ち上がった留美は、倒れている雷のお尻を叩いて歩き出す。
「ご飯行くん?」
「うん。さみしく一人ご飯行ってくるわ。あっ、雷二回目のお昼行っとく?」
机から降りた雷がシラーッと井戸の方へ。
「行ってらー」
「あ〜、さみしいっ。いってきま〜」
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