第4話 チートないって、そんなバカな


 いかんいかん。警戒を忘れるな留美。


「クリスティーナさん。あの、確認です。迷い人って事は、何かの為に呼ばれたわけじゃないんですよね?」


「ええ、呼んでないわ」


 それはそれで、辛いやつなんだよなぁ。

 バッと後ろを振り返ったら、3人とも会話を聞いているようだった。


 留美が忘れても大丈夫そう。


「来たばかりで右も左も分からないでしょ? だ・か・らぁ♪ 最初くらいサポートしてあげる。でもそれ以外は自力で生き残りなさいってのが、ここの方針よ」


 ここ以外にも表れる場所はあるってことか。


 あぁー。頼むからチート能力あってくれー! あっ、ステータスオープン! ……何もでねぇ! ちょっと期待してたのにっ。

 オロオロと家族の顔を見たい気持ちを抑えて、相手の顔を真っ直ぐ見据える。


「サポートって具体的に、何をしてくれるんですか?」


 丁寧に、でも下から過ぎず、出来るだけ多くの物を奪い取る気で。気圧されるな。

 クリスティーナさんは頬に手を当てて、もう片方の手で指を立てる。



「取りあえず、住む家でしょ。少しのお金。解体用のナイフ。スキルを一つ、回収された武器と防具の譲渡。あとは何か知りたいことがあれば、いつでも聞いてちょうだい。できるだけ答えるから」


 うわ。マジで最初だけやん。でもめっちゃありがたい。


 家とかお金とかありがたい。

 武器と防具ってことはやっぱ魔物みたいなのがいるってこと。相手人間ちゃうよな? そこだけは頼むで? というか、生き物を殺してもいいんかな? じゃぁ別に人殺しても……ってそんなこと考えてる場合ちゃう。


 生きていけるか心配で、心臓が痛いぃ……。


 振り返ると、両親は不安しかないという表情だった。

 頑張れ留美。質問なんか…………おもい……つぅぅいた!


「ここから来る人って、チート能力……めっちゃ強かったりします?」


「さぁ? 生き残ってる人は強くなってると思うけど、寿命で死んだ数よりも、町を出てからの行方不明や死者の方が明らかに多いと思うわ」


 絶句。


「え」

「マジか……」


 クリスティーナさんが思い出すように顎を撫でた。


「あぁ、そうだわ。随分前にきた迷い人からの伝言よ。死ぬ気で生きろ、チートはない。だそうよ」


 チートなし。

 あーあ。留美たち 摘んだんじゃない? 詰んだー。あーあ。……あーあ!! 死んだ死んだ! さよなら、ばいばい、来世に期待〜。


 諦めの境地に達しかけていると、留美と同じように絶句していた雷が、声を絞り出したのが聞こえた。


「なん、だと……」


 あ、雷も結構衝撃受けてる。

 さっきまで、はしゃいでたもんな。でも雷はなんだかんだでやってけそう。要領いいし。溶け込むん早いし。世渡りうまいし。留美とは大違い。


 銅像のように突っ立ってる母と父はどんどん顔色が悪くなってる。


 大丈夫やろうか。大丈夫やんな。二人のことやし色々考えてるだけやろう。


 とりあえず、留美は先を見るより、今の現状を受け入れる方が先かな。明日のことより今日のことー! ……はは、死ぬか。無理やろ。



「大丈夫?」


 不安で死にそう!!

 誰も答えられず、クリスティーナさんは腕を組んで重心を傾けた。大きさのせいで威圧されているように感じる。


 ぐるぐる回りだした考えを、とりあえず置いておく。

 私は静かな背後を振り返った。


「なぁ、もう進めていい?」


「かもん」


 落ち込んでいた雷が復活していた。両親も頷いたように見えた……気がする。

 


「クリスティーナさん、続きをお願いします」


「もういいの?」


「とりあえずは」


 なんも大丈夫ちゃうから、置いとくしかないよねってことやで。

 少し低くなった声と張り詰めたような表情を自覚しながら、足を肩幅に開く。


「チートってモノはそんなに大事なモノかしら」


「かなり大事ですね。生死を分けるくらいには」


「そうなのね……」


 今まで来た人が、いっぱいやらかしてたらいいのに。せめて、日本に近い食事とか寝床とか、その他もろもろ……。

 知識チートの人ら頼む!


 元気が目に見えてなくなった私たちを見ても、クリスティーナさんは変わらない。きっと今までの人たちもそうだったのだろう。

 そうでなくとも、馴れ馴れしくしないタイプなのかも。どうせすぐ死ぬから。


「それ、次来た人にも伝えてあげてください」


「そのつもりよ。……あ、そうそう。これは私からの重要なアドバイスよ」


 重要とまで言うなら、そんな軽い言葉で言おうとしないで欲しい。きっと私の家族も同じ心境のはずだ。

 私と雷がほぼ同時に、ゴクリと喉を鳴らす。

 緊張した面持ちを見せた私たちを見て、クリスティーナさんはにこやかに笑った。


「迷い人は、行きたい場所に行くこと」



「…………それが、重要なアドバイスです?」


「そうよ〜。はい、お金」


 ど、どう言う意味? 行きたい場所に行け? 自由にしろってこと? やんわりこの町から出て行けって言われてる? 言葉そのままの意味?

 脈が早くなっていき、体温が上がってくる感覚がした。じっとりと嫌な汗が滲んでくる。


 やーば。

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