第36話 で〜きちゃった、ポーション♪
ポーションとは!
ゲームでよくあるHPを回復するアイテムである! それはもう不可欠と言っても過言ではないアイテムなのだぞっ。
……ふふ。この世界のポーションが、留美の頭の知識と同じものであることを祈る。
お願いしますっ。
回復アイテムであってください。名前が一緒の別のアイテムとかやめてね。回復アイテムやろ。そうだと言って。
「ソウダヨ」
よしっ。
力強く拳を握りしめた留美は、ポーチから『薬草』を取り出す。
これを……えっと? ………まずは、薬草を潰さんとあかんのやっけ。
ごますりみたいな物……。
そうやった。石拾ったんやったわ。
適当に拾った、手ごろな石を井戸で洗う。それを部屋に持って返って「乾けー」と念を送る。
効果があったかは定かではないが、数十分でサラサラな感触のする石になった。
水分は飛んだかな?
薬草を石に乗っける。それを石で潰す。
ゴリゴリ。
……ごりごり? まぁいいか。石同士の音やろう。
水分を含んでいるはずの草からは、汁などは出て来ない。潰す様に押しつぶし、適当にすり潰していく。
ゴリゴリ ガリガリ
マナを使いなーがーら〜、ガッリガッリ、けっずる〜♪
なかなか削れない草と向き合うこと数十分。集中力は高い方だ。何も考えずに削ったりするのは、何も考えなくていいから好きだ。
包丁の刃を研ぐのと似た感覚を感じる。
成功するかは別問題。
よし。これくらいかな。
薬草だったものは吹けば飛んでいきそうなほど、細かなサラサラな粉になっていた。
手で触れたふわっふわな粉を舐める。
「…………」
味は特にない。何か言うとすれば、自分の手の味がする。
この薬草の粉山を口に入れてみたい気もするけど、今はやめておこうかな。薬草も無限じゃないし。
なんとなく、粒の胡麻をひたすら粉にしたことを思い出す。あの時の、胡麻ごはん美味しかったな。
「えへへ♪」
えーっと。こっちに集中せんとな。
粉をコップに入れてと、……あ。井戸水汲んでこな。
あ。入れ物がない。
隣の雷の部屋。
「雷ー」
ノックもなしに扉を開ける。
弟はベットに寝転んでいた。特に怒ることなく、雷は起き上がる。
「なに?」
「コップ貸して」
「いいけど、返してや」
「うん。じゃ」
「じゃ」
留美の部屋。
井戸水を雷に借りたコップに入れて、戻って来た。
自分のコップには粉を入れ、水を注ぐ。ミリリットルを測れるビーカーでもあればいいのに。ここにはそんなものない。
水を三分の一程度で一旦止める。
ランプの側にコップを持って行くと、水の色が薄緑色に変化していた。
抹茶……?
『鑑定』
『欠損ポーション』
欠損してる所があっても治る。
一口で良いっぽい。
うわ。なんか凄いの出来た。
欠損ポーション? 右目治るやん。古傷とかにも効くかな?
これってどうなんやろ。運が良かったのか。異世界補正掛かってんのか。チートないって言ってたけど、十分チートあるくない?
あれ言った人どんだけすごい能力望んでたんやろう。不安にさせやがって強欲め。
留美もたいがい強欲やけど。あれ、留美は傲慢の方かな? まぁいいや、留美よりも罪深な人はいっぱいや。
大罪の名を全種類集めるのです! ででん、どんどん、ぱふぱふー。
「まぁ、チートかどうかなんて、どっちでもいいや。傷が治るポーションを作れた。それが全てや」
これ、量増やしたり出来んのかな?
取りあえず、出来た欠損ポーションを飲む。
美味しいとは言えないが、不味いとも言えない味だ。言うなれば水に数的の塩水と砂糖水を混ぜた様な味。んー、微妙に不味い。
体力削られてる時に、気力を削られる不味さじゃなかっただけマシだと思っておこう。
右目がコンタクトが外れそうになって、瞬きしている様なゴロゴロ感が襲ってきた。
驚いて傷の辺りを触るが、もちろん目から何かが出ているわけではない。
瞬きを数回すると、いきなり視野が広がった。いや戻ったと言うべきか。
本当に、傷を治せるポーションを作れたことは幸運だった。
なんとなく、元気にもなった気もする。
古傷の方はっと……消えてないか。
腕、腹、太もも、身体のあっちもこっちも確認してみるが、どこも消えていなかった。こっちに来てからの傷しか治らんのかもしれん。
手首や腕についた無数の傷跡。白く、茶色く、赤く残っている傷。
比較的新しいものに爪を立てると痛みが走る。
じゃぁきっと首も治ってないよな。ガラス越しに見ようとしてみるが、よく見えない。
「………………」
一つにつき一つの怪我しか治らん。って可能性は低いやろうし。
こっちは自己治癒か。でもこれ以上傷が増えることない。切ってもポーションで治せばいいもんな。そうすれば誰にも知られることはないし。
ちょっと勿体無い気もするけど、薄めれば問題ないやろ。……薄めたら、効果の弱いポーションになるよな?
そうや。ママとパパに口答えしたこと、暴言吐いた罰を付けてない。
ポーチからこの世界に来る前の鞄を取り出し、中からカッターナイフを取り出す。
刃先は錆びて切れ味はとても悪そうだ。
まるで全てが無価値であるかのように、容赦の欠片もなく、呪いを刻む。
カチカチカチ。
刃をしまいながら、小さいがぱっくりと開いた傷口からツーっと垂れてくる血を口に含む。
鉄の味。それ以上でもそれ以下でもない。
ジクジクと痛み始める切り傷を舐めて、両親からもらった体を、また無駄に自分で傷つけてしまったと後悔の念に駆られる。
何がしたいんだろうね?
出来損ない。もっと上手くできたはずやのに。意味のないこと。早く死にたい……。こんな見苦しい気持ち嫌い。醜い汚らわしい。汚い。
ぽたぽたと涙が溢れる。
涙は嫌な気持ちも、止まらない心の声も、全てを持っていってくれる。全てを流し出してくれる。
心に何もなくなって、涙が止まると私は動き始めるのだ。
*
さてと、ポーション作り再開やな。
薬草を一本すり潰していく。
三分の一水を入れる。
『鑑定』
『欠損ポーション』
欠損してる所があっても治る。
一口で良いっぽい。
続いて半分まで入れてみる。
『鑑定』
『ヒールポーション』
傷が回復する。
ポーションより、優れてるっぽい。
半分で『鑑定』の説明文が変った。
薄めると、効果も落ちるって事か。当たり前っちゃ当たり前やけど、その辺ファンタジーでなんとかしてくれてもいいのに。水を注げば増え続ける薬……。ないな。
他に変化はないかと確認して行く。色の変化は暗いからかよくわからない。匂いは特になし。味は怪我したときに調べるとして。これ昇華したら、どうなるんやろう。結晶化するんかな?
液体という存在としてしかポーションの効果が発揮しないのか、加工が可能なのか。今は道具もないので後回しにするしかない。
続いて、コップいっぱいまで、水を入れる。
『鑑定』
『ヒールポーション』
傷が回復する。
ポーションより、優れてるっぽい。
変わりなし。
もっと大きい入れ物があったらいいんやけど。今はいいか。おいおい調べよう。
これ売れば、もう戦わんでいいくらい、お金持ちになれるんちゃう!?
でも内緒。
だって、余裕が出来た時こそ、冒険したいやん。命がけのやけど。
ママとパパは絶対冒険反対やろうけど、雷は行きたそうやし、留美も行きたい。
ヒールポーションの中に、釣り潰した薬草を入れてみる。
『鑑定』
『ヒールポーション』
傷が回復する。
ポーションより、優れてるっぽい。
もう一回すり潰した薬草を『鑑定』しながら三回に分けて入れてみる。
『鑑定』
『欠損ポーション』
欠損してる所があっても治る。
一口で良いっぽい。
んー。全部入れたら変わったか。今は締め切った部屋やから粉が飛ぶことはないけど、外でやってもし数粒飛ばされただけで、欠損ポーションにならんくなるってことやろ? 次も締め切った部屋でやろう。
詰めればもっと詳細に何ミリリットルやってわかるんやろうけど面倒。今はこのコップの三分の一が、欠損ポーションになるギリギリのラインやってことで。
ヒールポーションも、もう一個下になるギリギリのラインまで近づけたいけど、入れ物がないからなぁ。
残念……。
それより、欠損ポーションより上ってあるんかな?
蘇生ポーションとか? 流石に試したくないな。人は死を避けるために日々を頑張ってるのさ。……とはいうものの、家族が死んだら絶対作れると信じて、作ろうとしてまいそう。
それが実ることがなくとも。
薬草もっと取らないと。
後は、ポーションを入れる瓶を探さんとな。デザインが違う小瓶とか売ってればいいんやけど。……町歩くの怖いな。
女の人も、男の人も、子供も歩いてるし。道端で人が死んでるし、ちょっと細い道入ろうとしたら怖そうな人が睨んでくるし。死んでんのか死んでへんのか分からん人がいっぱい座ってるし。物騒過ぎやねん。
さて、次は毒草や。……薬草を潰した石でやるんわちょっとなー。
また次でいいか。
ポーションに毒が入ったら嫌やし。……嫌やけど試してみたくもある。こらこら、ここは慎重にいくべきや留美。そうしよう。
雑草。毒にも薬にもならないと思いつつ削る。
おっ。
薬草と同じように粉になった。水を加えて『鑑定』
『雑草水』
雑草の入った水。
苦いっぽい。
苦い水っ! 罰ゲームに良さげな奴やな。でも毒がないとは言い切れんから、家族に使うんはなし。
ごくりと雑草の粉が溶けた『雑草水』を飲む。
うわぁぁああ苦い。舌がジリジリする。ジンジンする。苦い。うぅうぅぅっぅぅ。
しゅーりょー。
*
雷の部屋を軽くノックして開ける。
すでに寝る体制に入っていた雷は、入ってきた留美を見るために薄目を開く。それはもう眠そうな態度と声だ。
「何ぞ?」
「コップありがとうな」
「ああ。何に使ってたん?」
「内緒。毒は入れてへんから安心していいよ」
「別に気にしいひんし」
それは気にしろよ。
ベットから降りで伸びをする雷に手渡す。
目が覚めてしまったのか、立ち上がって出て行こうとする留美を追って来る。
「もう寝んの?」
「うん、疲れた。おやすみ」
「そっか。おやすみ」
留美の部屋。
二つの石をポーチに入れる。
洗ったゴブリンの布で包んで、薬草三十二本をポーチにしまう。
洗ったゴブリンの布で包んだ、毒草も十六本をポーチにしまう。
最初にポーチくれた、クリスティーナさんに感謝やね。
コップを机の上に置いたまま、放置。
ベットに寝転がる。
私は誰に言うわけでもなく私は呟く。
「おやすみ」
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