【第二十話】絶対に許しません!:秋葉実.txt

 黙っているつもりはなかったのですが、これは言っておかなければならないことがあるようですね。

 これだから都会の人は……

 それに一夏さんも春野さんも、なにか勘違いなされているようなので。

「あの、まず最初に言っておかなければならないことがあります」

「は、はい! なんですか?」

 春野さんは何でこんなに目を輝かせているんでしょうか?

「私、その、既に人妻なんです。この春に結婚してから、上京してきたんです。この春から秋葉という名字になったんですよ」

 は、ですよ。ば、ではなくて!

 ここ、重要です!

 ついでに旧名は菊月って言いますよ。

「え?」

「でも、指輪とか…… してないですよね?」

 一夏さんは鋭いですね。指輪、まあ、そうですよね。

 目印になるって言いますもんね。

 確かに、それは私が悪いですね。

「あっ、それは、その。私、何かあるとおはぎをたくさん作って、それを全部食べちゃう癖があって、それで慌ててダイエットするので、指のサイズまで割と変わってしまうので……」

 指輪、よく落としちゃうんですよね。

 特にダイエット終わったときは、私、ガリガリになるので。

 大切な指輪をなくしていけないので、指には付けれないんですよね。

 そうでした、それは盲点でした。

「え? 指輪のサイズが変わるって相当だよ?」

 一夏さんがそう言ってますが、そうですよ、私相当痩せますし、すぐ太りますよ。

「はい、そうなんです。なので、普段は首からこうやって、ネックレスにしてるんですよ、これは結婚指輪のほうです。指だとなくしちゃうので」

 そういって、私は首からかけている指輪を見せます。

 フフ、どうですか。私の宝物ですよ!

「本当に人妻なんですか?」

 驚いた顔で春野さんがそう聞いてきます。

 まあ、そうですよね。少し早い結婚でしたが、こっちに出てくる前に身を固めておきたかったんですよ。

「はい! 新婚ホヤホヤです!」

 そうなんです! 私新婚さんなんですよ、えへへ……

「あれ? でも一人暮らしですよね?」

「はい、旦那は地元の農家ですので」

「寂しくないんです?」

「そりゃ寂しいですよ。でも、上京して大学生活の四年だけ楽しむ時間を貰いました! 私の子供の頃からの夢でしたので。でも、旦那が休みの日には来てくれてますよ? 土日とは限りませんけども」

 私がそう言うと、一夏さんが私に顔を近づけてきました。

 すごい笑顔ですね。

 そして、耳打ちするように言ってきます。

「楽しむって言うなら、いいじゃん? なんなら、女同士だけでもいいから? それなら、きっと旦那さんも許してくれるよ?」

「め、愛、なんて、なんてことを言うの?」

 その言葉を聞いた春野さんがとても驚きます。

 当たり前ですよね。

 ハァッ…… この方は何言ってるんですか?

「刺しますよ? 包丁で」

 私が愛する旦那様を裏切るわけないじゃないですか。

 そこに男女の差なんて些細なことですよ。

「あ…… 冗談だよ……」

「そんなことされたら、相手の首を取ってお詫び持して私も首を旦那に捧げます」

 私は本気ですよ。

 そのつもりで初めから上京してきているんです。

「あっ、はい、冗談でも、もうそんなこと言わないよ、はい、言いません」

 ちょっと思い違いをしていました。

 一夏さんはあまり良い方ではなかったようですね。

 もうこの方にはおはぎを作りません!

「つ、ついでにどんな方なんですか?」

 あら、春野さんは良い方ですね。流石餡子好きの方です。

 餡子好きに悪い方は居ません!

「え? えーと…… これが私の素敵な旦那様ですよ、見ます? 見ます?」

 実はのろけたかったんですよ! 自慢したかったんですよ! 私の旦那様です!

 見てくれます? 見てくれますか?

 あ、でも今のスマホの待ち受けは、私が太っている時の写真ですね。

 だって、その時の旦那様が一番ふくよかで素敵だったので……

「はい、見せてください」

 見せたら、春野さんも、少し、いえ、何とも言えない顔をなされました。

 ま、まあ、旦那様の魅力をわかるのは、私だけで良いですし!!

 ただし、一夏さんの反応は絶対に許しません!




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