地獄の定義/楽園の条件 ーザラリとする後味の捻れた1分間 1話完結ショートショートー
@nanashi_nazy
「永遠」の耐久年数
生きるのにはカネがかかる。
そう思っていた自分に
「生身の体なんてもう時代遅れですよ」
とセールスマンが言った。
「いまはもうロボティクスの時代です」
饒舌にしゃべりながらパンフレットを見せてくる。
「昔はケガや病気、先天的な事情でなくなったり使えなくなった体の部分を置き換えるだけでした。が、いまは可能な限り
そして、続ける
「なんせ永遠に生きられる時代ですから」
科学技術が進歩し、医療が発展し、人間の寿命を伸ばした。
それも爆発的に。
単に延命させるだけではなく、様々な技術発展により、より健康的に、より快適に生きることが可能となった。
1世紀を生きてもなお、何不自由なく暮らすことが可能になった。
が、その恩恵を生きる全ての人が受けられるわけではなかった。
その理由は単純に、
生きるにはカネがかかる
からだ。
生きようと思えば1世紀でもなんなく生きられるようになった。
だが生きながらえるためには多大なカネがかかるのだ。
生身は病気になる。
生身はケガをする。
生身は食事がいる。
生身は休息がいる。
そもそも長く生きるということは単純にそれだけ生活費がかかるのだ。
「残念ながら長らく生きていると体はダメになっていきます。それを直すことはできますがそれはタダではありません。機械化された体も当然、故障することもありますが、繊細な生身と違って簡単に交換が可能です。なんせ大量生産品ですからね。費用はオートクチュールな生身への処置との費用は雲泥の差。これだけでライフコストが劇的に下がりますよ」
そういいつつ、セールスマンはこのままでいる時と機械化した時のコスト比較のグラフを見せてくる。
「錆びた部品を交換するように、生身の臓器を変えることは出来ないでしょう?」
思案する自分に、男は最後の一押しをしてきた。
「費用はご心配なく。ダメになる前の身体は生体部品として買取をさせていただけます。その対価でロボティクス手術の代金はペイできますよ。なんなら老後の資金の足しにもできますよ」
それならば、と契約書にサインをした。
「これで老後の心配はなくなりますよ」
――――――――――――――――――――――――――
そう決断したのが10年前だ。
「あー…この型式はもう製造中止されているんですよね」
医者ではなく修理受付のスタッフが言った。
「もうロボティクスの身体を直せるところはほとんどないんですよね。いや、製造終了後5年間は法律で部品を確保しているんですが、それを超えた場合は保証外でして…すみません。
ちなみにいまはナノニュートラルボディという半生体機械パーツの新型が出てますよ。これは機械化しながらも生身とほとんど変わらない感覚で暮らすことが出来ますからね。
どうします? 新しいボディに変えますか? 手持ちがないようでしたら、ローンも可能ですが―――」
ああ――――
生きるのにはカネがかかる。
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