第32話 広瀬と宇野のお仕事08

「この子の父親はいません。

 正確に言うと逃げました……」


「逃げた?」


「私は、元々は人間ですわ

 愛しき人の子を授かって数ヶ月後

 私は、キメラ研究所に誘拐され……

 そして、気付けばこのような体に……」


「え……」


宇野は、どんな事を言えばいいかわからなかった。


「私は、この子と平穏に暮らす事も許されなくて?」


メドゥサは、一筋の涙を流した。


「でも、チャームは良くないよ?

 そんな場合は、ギルド組合に逃げ込めばなんとかなったはず……

 どうして、それをしなかったのですか?」


広瀬は、少し強めの口調で言った。


「その前に、沢山の人が私の命を狙ってきました!

 だから、こんな山奥の山荘に逃げたんです!

 それでも、賞金稼ぎの人が沢山来ました……

 私は、この子を守るために、チャームを使いました!

 それが罪になる事もわかっています。

 それでも私は、この子と暮らしたい……

 賞金稼ぎさんお願いです。

 せめてこの子が生まれるまで、私の確保を待ってくれませんか?」


「それは、出来ません……」


六花は、首を横に振った。


「私達が、YOUの事を見逃したとしても……

 他の強豪達が、貴方を捕まえに来るでしょう……」


「そんな……

 私は、勝手にキメラにされて……

 そして、私は……私は……」


メドゥサは、大粒の涙を流して、その場に倒れこんだ。


「そう言う事情があるのなら……

 私のギルドが、Youを保護します!」


広瀬は、そう言ってニッコリと笑った。

すると、メドゥサは、驚いた表情で広瀬を見た。


「私は、こう見えてもアゴヒゲライオンのギルド長です。

 私から、この事情をギルド組合に報告して貴女の賞金を取り消して貰います!

 だから、安心してもいいですよ」


広瀬は、そう言ってメドゥサの手を握った。


「本当ですか?」


「大丈夫!

 任せてください!」

 

「ありがとうございます」


メドゥサは、深々く頭を下げて広瀬達にお礼を言った。


「ただ、チャームにあった人達や石化した人達を元に戻してください」


「あの…… 

 チャームは使いましたが、石化はさせていないですよ?

 私には、そこまでの力はありません」


「噂で、捻じ曲げられちゃったのね……」


宇野が、ため息をついた。


「とりあえずチャームに関しては、今解除しました」


すると、傍に居たV5のメンバーが、メドゥサに襲いかかろうとしたが宇野がそれを静止。

また次から次へと襲いかかってくる賞金稼ぎ達を広瀬達が倒した。


「これで、終わりかな?

 とりあえず、今からギルド組合に電話するね」


広瀬は、そう言って携帯を取り出した。


「ヴィジョン」


広瀬は、呪文を唱えると携帯から組合長の姿が現れた。


「どうしたんだね?」


ギルド長が、低い声で言った。

そして、広瀬は、メドゥサの事情を説明した。


「ふぅ……

 組合長に全部話したよ。

 これで、Youの賞金は取り消されたよ」


「ありがとうございます。

 なんてお礼を言ったら言えばいいか……」


メドゥサは、広瀬に頭を下げた。


「和哉しつもーん」


宇野が、手をあげて和哉に質問を投げかけた。


「メドゥサさんと和哉の関係はなんですか?」


「先輩の娘さんだよ。

 組合から指示を受けて、来てみればメドゥサだったんでびっくりしたよ。

 それで事情を聞いて俺は、メドゥサを守る事にしたんだ」


「そうだったんですか……」


宇野は、ほっと胸をなでおろした。


「さて私達は帰るけどYou達は、どうします?

 先程使っていたモシャスの魔法が使えるのなら街でも暮らせると思うのだけど……」


広瀬が、そう言ってメドゥサの方を見た。


「この子が、生まれるまではこの場所で、ひっそりと暮らします」


メドゥサは、自分のお腹を撫でながらそう言った。

宇野は、その視線をゆっくりと和哉に向けた。


「俺は、ここに残る」


「え?」


「先輩には、お世話になったからね。

 メドゥサの事は命に代えても守る!」


和哉がそう言うとメドゥサは、顔を赤らめた。


「じゃ、私達は帰りますね」


広瀬達は、そう言い残すと手を振った後、メドゥサの館から出た。


「さて、私は、記事を書かなければいけないので、一足先に帰りますね」


六花は、そう言うとウイングの魔法で飛び立った。


「編集者さんは、大変だね」


「六花さんは、記事も書いてますしね。

 明日の朝刊にでも、賞金の取り消しの記事が載るんじゃないでしょうか?」


宇野が、そう言うと広瀬は、ニッコリと笑い頷いた。


「じゃ、私も他に行く所があるから……」


宇野は、広瀬に手を振った。


「私もこの後行く所があるんだ。

 じゃ、またいつもの喫茶店で!」


広瀬と宇野は、ウイングの魔法で同じ方向に飛んだ。


「あら、宇野さん。

 私の同じ方向かしらん?」


広瀬が、嬉しそうに言った。


「はい、キメラ研究所に向かってます」


「あははん♪

 ビンゴ、私も同じ方向よ」


「今回のは、ちょっと許せないよね」


「女として人として許せませんね!

 生きて捕獲させるだって、たぶん子供が目当てなんだよね?」


「そうだろうねぇ~~」


「今回の件。

 私、相当に頭に来ました」


宇野は、不機嫌そうにそう言った。


「それは、私も一緒」


広瀬の声が、低くなる。


「この辺りですね」


宇野は、そう言って地面に足をつけた。


「さて、特攻しますか」


宇野は、毒牙爪を装備し、広瀬は、光の剣を抜いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る