白雪姫の継母の夫に転生したっぽいんだが妻も娘も好きすぎるんで、愛しい家族を守るためにハッピーエンドを目指します ~とりあえず魔法の鏡、まずお前をぶっ壊す~
第25話 白雪姫の七人のこびと、そうきたか‼
第25話 白雪姫の七人のこびと、そうきたか‼
ビアンカが、狭間の獣を祓う準備をするために大神殿に戻ってから、しばらく経った今現在。
俺は、エクペリオン王国内の中央を横断する山に来ていた。
ビアンカから、狭間の獣に対抗する手段が見つかったので、俺に来てほしいと頼まれたからだ。
リュミエールが邪纏いに取り憑かれていることは、大神殿以外には内緒にしているため、適当な理由をつけてここに来るのが大変だった。
最終的には、ビアンカが最近俺と一緒にいたくなさそうで、最後の思い出に一緒に出かけたいと、思春期の娘に嘆く父の演技をすることで、事なきを得たが……
ビアンカが城に戻ってすぐ大神殿に旅立ってしまったこともあってか、そのときの周囲の、ああ、そうですよねー、あれだけベタベタしてたらねー、という感じの反応ときたら……
いや、演技だからな?
あくまで演技だからな?
ビアンカと俺、滅茶苦茶仲がいいからな?
これからもずっとずっと、大人になっても仲良しだからな⁉
山の麓で合流した俺とビアンカは、城の護衛たちをその場に残すと、大神殿からやってきた神官兵を護衛として引き連れ、見渡す限り木しかない道を歩き続けた。
ちなみに俺たちを先導しているのは、大神殿から送り込まれた案内人だ。
長い時間をかけて辿り着いたのは、小さな村だった。村人たちは皆、俺たちよりも半分くらいの背丈しかない。
ここは妖精族の村だ。
妖精族と言うとエルフみたいなイメージがあるかもしれないが、この世界では違う。
まだこの地に国がなかった時代。俺たち人間よりも小さな原住民が暮らしており、彼らのことを妖精族と呼んでいる。
分かりやすく言うと、白雪姫に出てくるこびとだ。とはいえ、何か特別な力があるとかではなく、身体が小さい以外は人間と同じ。ただ、国よりも歴史が長い民なので、独自の文化を持ってて、人間とは離れた所で静かに暮らしている。
まあ最近では、妖精族と人間との混血も進んでいるから、俺たちと変わらない容姿や身体付きをしていたり、人間の街で生活をしている者もいるみたいだが、この村は伝統的な妖精族の村のようで、人間であり俺たちの訪問は一際目立った。
妖精族たちの視線が……痛い。
隣にいたビアンカが、俺だけに聞こえるように呟いた。
「お父様。この山は、私の一度目の人生のとき、お義母様に連れてこられた場所なのです。七人の妖精族に助けられた私は、この村でお世話になったのです。そのときに、この村が大神殿と繋がっていて、邪纏いを祓うための切り札を受け継いでいると偶然知ったのです」
「そうだったのか。だから頑なに、聖女の力が未熟でも他に方法があると言っていたんだな」
「はい。もうすでに大神殿から連絡が行っているはずです。まずは、村長のところに行きましょう」
ビアンカはそう言うと、案内人に村長のところに連れて行くようにお願いした。
そしてやってきた村長の家は、一際立派な建物だった。
他の家が、藁や木など、簡単な素材で作られているというのに、村長の家だけ石造りだ。
護衛たちを家の前で待機させると、俺たちは中に入った。
「よくぞ参られました。レオン陛下、ビアンカ殿下」
そういって俺たちを出迎えてくれたのは、髭の長い年取ったおじいちゃんだった。妖精族らしく、俺の背丈の半分ぐらいしかない。ビアンカの背丈と同じくらいか。白い髭は伸びに伸びていて、膝当りまである。
食べるときに邪魔にならないんだろうか。
俺なんか、髭がちょっと伸びただけで、スープとかソースがつくから嫌なんだけどな……
村長の髭を見ながら、俺たちは案内された客間のソファーに座った。
俺たちが席につくと、村長が口火を切った。
「大神殿から連絡は受けております。狭間の獣が見つかったそうですね」
「はい。しかし私の力はまだまだ未熟で、獣を祓えるかどうか分かりません。その場合の手段があると聞き、やって参りました」
「もうすでに準備は出来ております。おい、皆の者ここへ」
村長が振り向きながら呼ぶと、家の奥からゾロゾロと妖精族たちが出て来た。
妖精族にしては異様だと思える出で立ちに、思わず目を見開いた。
ビアンカが、俺にそっと耳打ちする。
「お父様。一回目の人生で私を助けてくれたのは、彼女たちです」
皆小さいが、女性だった。
それだけでなく、銀色の鎧を身につけていたのだ。
まるで女騎士だ。
それも七人いる。
村長が、どこか誇らしげに彼女たちを紹介した。
「この者たちは、聖女を守り補佐する七人の聖騎士です」
そうきたかーーーー!
白雪姫の七人のこびと、そうきたかーーーーーー‼
心の中で、やられた! と思っていると、一人の聖騎士が、一振りの剣をテーブルの上に置いた。
柄には複雑な装飾が彫られている。美麗だと言えるそれだが、素直にそう思えないのは、剣から感じられる清浄すぎる空気感のせいだろう。
見ているだけで、無意識のうちに背筋が伸びる。
「そして狭間の獣を祓う武器――聖剣を、どうぞお納めください」
村長の言葉に、ビアンカは大きく頷いた。
ビアンカの話しによると、この村は大神殿と繋がりがあり、聖剣を守り、狭間の獣に対抗する聖女を助ける聖騎士を代々送り出しているらしい。
聖騎士の役目は聖女を守るだけでなく、必要であれば自身の力を聖女に分け与える補給艦の役目も兼ねている。つまり、ビアンカの力が足りない部分を、聖騎士たちの力で補うことで、狭間の獣を祓うのだ。
そして聖剣は、狭間の獣を祓うための補助武器だ。
未熟な聖女の力を増幅させ、さらに不思議なことに、邪纏いのみを傷つけるため、獣の宿主を生かし、獣だけを祓うためには必須の道具なのだという。
聖女を守る聖騎士。
狭間の獣を祓う聖剣。
ビアンカの力。
この三つが揃うことで、聖女が未熟であっても狭間の獣を祓うことが出来るのだという。ちなみに、聖女修行を終えていれば、彼女たちや剣がなくても、バーン! と一発でやれるらしい。
方法が確立しているのなら、チート能力を使うまでもないかもしれないな。
そんなことを考えていると、聖騎士の一人がビアンカに訊ねた。
「聖女様。聖剣は、あなた様がお使いになられるのですか?」
「ビアンカが聖剣を使う? どういうことだ、それは」
訊ね返したのは俺。
俺の質問を聞いたビアンカの表情が、みるみるうちに厳しいものへと変わった。
「未熟な聖女が、狭間の獣に取り憑かれた人間を救う方法は、聖法で狭間の獣の動きをとめ、聖剣で貫くことなんです」
「つまり、お前がこの剣で狭間の獣と戦うってことか⁉」
「はい」
いや、危険すぎじゃない?
そんな危険なことを、ビアンカにさせるわけなくない?
いや、そもそも聖剣持てなくない?
俺の心の声が届いたのか、ビアンカが俺の様子を伺うように顔を覗き込んできた。
「やはり反対され……ますよね?」
「当たり前だろ! こんな危険なことを、お前にさせられるか!」
俺の言葉に頷いたのは、意外にも聖騎士たちと村長。
聖騎士の一人が前に進み出る。
「私たちも、陛下のご意見に同意です。狭間の獣とは私が戦いましょう。どうか当日、私に聖女の刻印をお与えください」
「そう……なりますよね……」
ビアンカは諦めたように溜息をついた。
そして、知らない単語の説明はよ、と思いっきり顔に出している俺に、分かってますよと言わんばかりに苦笑いすると説明してくれた。
「本来であれば聖女自身が戦うのですが、聖女の刻印を与えた者が代わりに聖剣を使い、戦うことが出来るのです」
「つまり、お前の代わりに戦えるってことか?」
「はい。聖女が幼かったり、戦えないような状態だった場合の措置だそうです」
なるほどな。
身代わりを申し出てくれた聖騎士の腕っ節は強そうだ。恐らく、このときのために、日々鍛錬を積んできたのだろう。身体も滅茶苦茶鍛えられているし。
しかし、俺の心は決まっていた。
「その役目は、俺が引き受けよう」
俺にはチート能力がある。
いざとなればそれで、狭間の獣を倒せるからだ。
だがこちらの思惑を知らないビアンカが、驚き叫ぶ。
「お、お父様は国王じゃないですか! 国の主がそんな危険なことを――」
「国存亡の危機に、俺の身を心配しても意味が無い。それに、俺だって剣術には自信がある」
これでも俺の剣術はかなりの腕前だ。
実戦経験だってある。
目の前の聖騎士たちにも劣らないはずだ。
ビアンカは納得出来ていない様子だった。だからもう一押しと言葉を続ける。
「聖騎士たちを信用していないわけじゃない。俺の手で――リュミエールを救いたいんだ」
「……分かりました。ですがお父様、くれぐれも気をつけてください。絶対に無茶はしないで……」
俺の真剣な言葉に、ビアンカの心が動いたようだ。
これでビアンカを危険な目に遭わせることはないし、いざとなれば、チート能力で倒すことができる。
間違いなく、リュミエールを救える――
そう思ったとき、
ワンワンワンッ!
部屋の奥から犬の鳴き声がしたかと思うと、一頭の白い犬が部屋に飛び込んできたのだ。俺の腕に抱えられるぐらいの大きさだろうか。
村長に飛びつこうとした犬を聖騎士の一人が慌てて抱き上げると、犬は遊んでいると思ったのか、ブンブンと尻尾を振りながら、抱き上げた聖騎士の顔を舐めようと鼻を擦り寄せた。
かなり人なつっこい犬だ。
正直、俺は勘弁だが、ビアンカの瞳が輝いた。大人びた様子は影を潜め、十歳の少女らしい顔に戻っている。
「わあ、可愛い! お名前、何て言うんですか?」
「ルイルイです。よくある名前でしょう?」
「そうですね、ふふっ」
聖騎士とビアンカが、犬の名前で盛り上がっている。
ルイルイかぁ。
ほんっと、よくある名前だなあ。
前世の記憶で言うと、ポチと同じぐらいのよくある度――……あれ?
ふと何かが引っかかった。
この世界では、ありきたりな犬の名前といえばルイルイだ。猫はウォル。
両方とも前世の世界で言えば、犬はポチで、猫はタマ、みたいな感じだ。
何を言いたいのかというと、この世界では犬の名前にポチはつけない。いや、世界中を探せばいるかもしれないが、少なくとも一般的じゃない。
ほらビアンカだって、鏡の名前をポチだと紹介したとき言ってたじゃないか。
”それにしてもポチだなんて、変わったお名前ですね”
って。
何だ、この違和感は。
一体何が引っかかって……そうだ。
”ぽち……って酷すぎませんか⁉”
”ひぃぃっ! 今日から私めの名前はポチです! あなた様の忠実なる犬でございます! だから王杓を振り上げないでください――‼ いくらでもワンワン鳴きますからぁぁ~……”
何故あいつは、ポチという単語を聞いて、
犬の名前だと思ったのか――
ポチを犬の名前だと紐付けるには少なくとも、井上拓真の世界の知識がなければ出てこないはずだ。思い返せば、俺が前世の世界でしかない話をしても、あいつ、普通に受け入れていた。
ポチはもしかして俺と同じように、井上拓真の世界から来た存在なのか?
転生したら鏡だった、というオチか?
そんなラノベ展開も捨てがたいが……もっと真実は単純だ。
あのとき、あいつは何て言った?
あの女は俺の問いに、何と答えた?
”お前、さっきコンビニって言ってたよな。ってことは、俺がいた世界の知識があるようだな?”
”え? あーまあ……ほどほどには。私はあの世界の副管理者ですので”
俺が知っている、井上拓真の世界を知る人物。
そして鏡が、拓真の世界の知識を持っているという事実。
それらから導きだされる答えは――
ビアンカとともに城に戻った俺は、リュミエールを偽の用件で呼び出して寝室に近づけないようにすると、ポチの本体――魔法の鏡と対峙した。
紫の布を荒々しく剥がし、自分の顔が映る鏡に向かって低い声で問いかける。
「いるんだろ、答えろポチ――いや……」
目を伏せると、今までの記憶がもの凄いスピードで流れて消えていった。
ゆっくりと目を開け、名とも呼べぬ名を呼んだ。
「ファナードの女神」
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