第11話 トリック・オア・アライブ

肝試しと少年




「はぁ……」


 麻婆堂のカウンター席で、昇は何度目かも分からない溜め息を吐く。

 見かねた店長が厨房から出てきて、心配そうに声をかけた。


「どうしたんだい? 今日はいつになく落ち込んでるじゃないか」


「いやぁその、色々あって」


 真影事件のことを話すわけにもいかず、昇は曖昧な言葉で誤魔化す。

 店長は『色々』の内容を聞き出すことなく、明るい口調で昇を励ました。


「色々か。んじゃ、悩める少年に俺からの奢りだ」


 店長は大皿に料理をよそい、昇の前に差し出す。

 熱々の麻婆豆腐の中にオレンジ色のカボチャが踊る、何とも物珍しい一皿だった。


「ハロウィン限定のカボチャ麻婆、どうよ?」


「すっごく美味しそうです! いただきます!」


 昇は両手を合わせて、一際大きなカボチャを口に放り込んだ。

 敢えて甘めに味つけされた麻婆がカボチャと絶妙に調和して、スイーツのような上品さを醸し出している。

 落ちそうになる頬を押さえながら、昇が放心状態で呟いた。


「美味しい……!」


「そりゃあよかった!」


 自信作の料理を褒められ、店長の鼻が高くなる。

 昇は瞬く間にカボチャ麻婆を完食し、再び両手を合わせた。


「ごちそうさまでした!」


「はいよ、お粗末様でした。……さて」


 幸せそうに腹を撫でる昇に、店長が何事かを耳打ちする。

 昇は階下の本部に戻ると、店長からのメッセージを伝えた。


「ハロウィンパーティーの手伝い?」


 報告を受けた木原、火崎、金城が声を揃えて聞き返す。

 ズレた眼鏡の位置を直しながら、金城が口を開いた。


「確かに麻婆堂では、毎年子供たち向けにハロウィンパーティーが開かれています。しかし何故私たちが手伝いを?」


「それが、バイトさんが辞めて人手が足りなくなっちゃったみたいで」


「事情は分かったがよ、今の俺たちにそんなことしてる暇あるのか?」


 横目で仮眠室を見ながら、火崎が指摘する。

 様々な問題が山積みとなっている今、呑気にパーティーを手伝う余力があるとは言えなかった。


「月岡だって、パーティーなんかやれる気分じゃないだろう」


「俺のことは気にしないで下さい」


 仮眠室の扉が開き、月岡が姿を現す。

 幾分か落ち着いた様子の彼に、昇が駆け寄った。


「月岡さん! もう大丈夫なんですか?」


「コンディションなど関係ない。特撃班として、使命を果たすだけだ」


 昇の心配を一蹴して、月岡は淡々と言う。


「ハロウィンの日は人通りも増えて、街も賑やかになる。その騒ぎに乗じて人を襲う特危獣が出るかもしれない。警備の手は多い方がいいだろう」


「つまりシズちゃんもハロウィンしたいってことだね!」


「……もうそれでいい」


 あまりに恣意的な木原の翻訳に、月岡は訂正を諦めた。

 かくして特撃班の面々は麻婆堂のハロウィンパーティーを手伝うことを決め、それに向けての話し合いを開始する。

 そして厳正なるジャンケンの結果、金城が買い出しに出かけることとなった。


「木原さんめ、何が最初はパーですか……!」


 買い物袋を手に商店街を歩き回りながら、金城は心の中で愚痴を溢す。

 ハロウィンを間近に控えた商店街はいつになく活気づいていて、どの店にもカボチャや蝙蝠の装飾が施されていた。


「飾りは去年のものを使い回すと言っていましたし、子供たちに配るお菓子などを優先すべきでしょうか」


 金城は必要なものを最安値で買えるルートを瞬時に導き出し、眼鏡を閃かせて疾走する。

 買い出しを終えて帰り道を歩いていると、彼の耳に子供たちの声が飛び込んできた。


「やーい! タカシの弱虫!」


「弱虫弱虫ー!」


 建物の陰に隠れて様子を窺うと、ガキ大将と二人の取り巻きが眼鏡の少年から何かを取り上げているのが見える。

 見かねた金城は両者の間に割り込み、眼鏡の少年を庇って言った。


「虐めとは感心しませんね」


「虐めじゃねーよ。そいつ弱虫だから、俺たちが鍛えてやってるんだよ。な?」


「……そんなものは詭弁です。さあ、返しなさい」


 大人相手にも平気で屁理屈を振り翳すガキ大将たちに、金城は少々苛立ちを覚える。

 金城の背中に隠れるタカシにも、小声で促した。


「ほら、君からも言わないと」


 しかしタカシは脚を震わせ、何もできないまま金城にしがみつく。

 ガキ大将たちは二人を嘲笑い、タカシから奪ったものを見せびらかしながら逃げていった。


「これは『ボロ屋敷』に置いてってやるよ! 欲しけりゃ自分で取ってきな!」


 通行人たちを突き飛ばしながら、ガキ大将軍団は路地の向こうに消えていく。

 金城はタカシの背丈まで身を屈めて、啜り泣く彼に話しかけた。


「……大丈夫ですか?」


「うん。でも、取られちゃった……!」


 喪失感と悔しさが込み上げ、タカシは大粒の涙を流す。

 通行人の視線が突き刺さる中、金城は偶然ポケットに入っていたチョコレートを手渡した。


「な、泣かないで下さい! お菓子あげますから」


「ありがとう……」


 どうにか泣き止んだタカシを、金城は近くの公園に連れていく。

 二人並んでベンチに座りながら、タカシはぽつぽつと口を開いた。


「僕、タカシ。南小学校の4年生」


「私は特撃班の金城と申します。よろしければ、取られた物について聞かせて貰えませんか」


「……お母さんへの誕生日プレゼント。内緒にしたかったから、お小遣い貯めて買ったんだ」


「君は孝行息子ですね。きっとお母様も喜びますよ」


 金城は世間話をしながら、少しずつタカシの心を開いていく。

 頃合いと判断した所で、本命の質問を繰り出した。


「ところで、先ほど彼らの言っていた『ボロ屋敷』とは?」


「町外れにある古い屋敷だよ。夜になるとお化けが出るんだ」


 おどろおどろしい屋敷に、怖いもの知らずの子供たちはこぞって肝試しを挑んだ。

 そしていつしか、ボロ屋敷を探検することは子供たちの中で一人前の証になっていた。


「でも僕は弱虫だから、いつまで経ってもボロ屋敷に行けなくて……」


「それで虐めの標的にされたんですね」


 如何にも子供らしい話だ、と金城は呆れながらタカシを見る。

 タカシは深々と頭を下げて、金城に頼み込んだ。


「お願い! 僕の代わりにボロ屋敷に行って!」


 突然の依頼に、金城は戸惑う。

 逡巡の末、彼はタカシの目を見て言った。


「それはできません。こういうのは、自分の力でやらないと意味がないんです」


「でもお兄さん特撃班なんでしょ? 強いんでしょ!? だったら」


「他人の強さに縋ろうとする内は、いつまで経っても弱いままですよ」


「お兄さんは強いからそんなことが言えるんだ! もういい、お兄さんなんて嫌いだ!」


 タカシは失望の言葉を吐き捨て、公園から走り去る。

 その背を見送りながら、金城は訝しげに呟いた。


「ボロ屋敷のお化け、ですか……」


 取るに足らない子供の噂と片付けるのは簡単だが、特危獣が潜んでいる可能性は0ではない。

 何より、タカシ少年のことを放っておけなかった。


「調べる必要がありそうですね」


 金城は立ち上がり、ボロ屋敷の一件を本部に持ち帰る。

 そして波乱を胸に抱いたまま、金城たちはハロウィンの朝を迎えた。

——————

バイオレンス赤ずきん




 ハロウィンの朝、本部に出勤した金城を出迎えたのは、仮装した昇と木原だった。

 昇は血糊を塗りたくった上着とネジの上半分が突き刺さった帽子を装着し、木原は悪魔の耳と尻尾がついた黒い服から大胆に臍と脚を露出させている。

 金城は二人の姿に面食らいつつも、恐る恐る尋ねた。


「……その格好は?」


「仮装だよ。じゃーん、あたしヴァンパイア!」


「おれはフランケンシュタインです!」


「そうですか……。それで、例のものについては調べてくれましたか?」


「当然、バッチリだよ」


 木原はコンピュータを起動し、町外れに佇む古い屋敷の写真を表示する。

 昨晩撮ったばかりの写真には、屋敷の居間で刃物を研ぐ老婆の姿が朧げながらも映し出されていた。


「このお婆ちゃんが子供たちの噂していたお化けの正体にして、特危獣017・ウルフの人間体だよ」


「特危獣!?」


 思わぬ形での特危獣出現に、昇は素っ頓狂な声を上げる。

 金城が冷静に疑問をぶつけた。


「証拠はあるんですか?」


「動かぬ証拠があるよ。動画だけどね」


 木原はコンピュータを操作し、一本の動画を再生する。

 ボロ屋敷の老婆が遠吠えと共に狼の特危獣に変貌する瞬間を、カメラは確かに捉えていた。


「……しかし妙ですね。これほど近くに特危獣がいたのに、何故我々は気づけなかったのでしょうか」


「潜伏してたんだよ。出現当時から、奴は賢い個体だったからね」


 木原は一旦言葉を切り、『あくまで仮説だけどね』と前置きしてから自身の推測を告げる。


「ウルフは人間体を手に入れた後、ボロ屋敷に潜んで子供たちにお化けの噂が流れるよう仕向けた。子供たちを屋敷に誘き寄せるために」


「そしてハロウィンの今、騒ぎに乗じて子供たちを捕食しようというわけですね」


「そゆこと」


 木原が頷くと、仮眠室から月岡が姿を現した。

 但し、三角帽子を被った魔女の姿で。


「……起きたらこうなってたんだ」


 月岡は誰にともなく弁解し、ニヤニヤと笑う木原を睨みつける。

 ミイラ男に扮した火崎も出勤し、特撃班の五人が集結した。


「金城さんだけですね、仮装してないの」


「放っといて下さい! そんなことより、対ウルフの作戦を考えましょう」


 揶揄う昇に顔を背けて、金城はテキパキと全員分の椅子を丸テーブルに並べる。

 昇たちを強引に座らせると、彼は数枚の書類を取り出して机上に広げた。


「過去の資料から見るに、ウルフは夜に活発化します。また、月の満ち欠けも影響するようです」


「今日はちょうど満月。陽が沈むのは18時頃だね」


 補足説明を入れた木原が、脳内で素早く計算を開始する。

 そして昇たちを見渡して、彼女はきっぱりと告げた。


「パーティーは15時。それまでに倒すよ」


「ああ。作戦はどうする」


 テーブルの上に拳を乗せ、火崎が質問をぶつける。

 木原は待ってましたとばかりに頷くと、勢いよく立ち上がって叫んだ。


「それならいいのがありますよ!」


 そのまま奥の倉庫に駆け込み、段ボール箱を抱えて戻ってくる。

 箱から取り出した赤ずきんの衣装を天高く掲げて、彼女は自信満々に叫んだ。


「その名も『バイオレンス赤ずきん』作戦っ!!」


 昇たちはポカンと口を開けたまま、赤ずきんの衣装を見上げる。

 寒々しい空気の中、木原は懲りずにもう一度作戦名を告げようとした。


「その名も! バイオレ」


「二度も言わんでいい! で、何だそのバイトでスーダラ節っていうのは」


「バイオレンス赤ずきん。赤ずきんの格好でウルフを油断させるの。いいアイデアでしょ?」


 ツッコむ月岡をあしらいつつ、木原は彼の眼前で赤ずきんの衣装をひらひら揺らす。

 彼女の思惑を大方察した月岡が、極めて投げやりに質問した。


「……誰が着るんだ」


「いるじゃん。一人だけノーハロウィンな子が」


 木原の言葉で、全員の視線が金城に集まる。

 数分後、金城は赤ずきんの格好で研究室に立っていた。


「金ちゃんいいねー!」


「かわいいですよ!」


「似合うじゃねえか!」


 放心状態の金城を、木原、昇、火崎が好き勝手に褒め倒す。

 金城はスカートの裾を押さえながら、顔を耳まで赤らめて呟いた。


「私ともあろう者が、こんな恥辱……ッ」


「よし、後は準備するだけだな」


「恥辱ーッ!!」


 金城の絶叫をよそに、昇たちは火崎の指揮で作戦の準備を開始する。

 ようやく金城が仮装に適応した頃、火崎と月岡が作戦用の道具を差し出した。


「血の匂いの香水だ。興奮剤も入ってるから、ウルフの奴は必ず食いつくぜ」


「俺のライフルも持っていけ。性能は保証する」


「ありがとうございます」


 金城は深々と頭を下げ、香水とライフルを受け取る。

 そして正午過ぎ、昇たちは作戦を開始した。


「こうしていると、何だか普通にハロウィンしてるみたいですね」


 賑やかな街並みを歩きながら、昇は隣の金城に話しかける。

 彼の素っ気ない相槌を受けて、彼は話題を切り替えた。


「……タカシくん、でしたっけ。金城さんが会った子」


「それがどうかしましたか」


「どうしてそこまで気にかけるのかなって」


「意外ですか?」


「意外というか……金城さんって、おれの中でドライな印象ありましたから」


 言葉を選びながらはにかむ昇に、金城は小さな溜め息を吐く。

 晴れた空を見上げながら、彼は徐ろに口を開いた。


「タカシくんは似ているんですよ。幼い頃の自分に」


「似ている、ですか」


「ええ。だから放っておけないんです。弱かった私を変えたもの……恐怖に負けない勇気を彼にも知って貰いたい。だからこそ、この作戦は絶対に成功させなければならないんです」


 次第に熱を帯びる金城の語り口に、昇は少し微笑む。

 眉根を寄せる金城の目を見て、彼は穏やかな口調で言った。


「おれ、何だか金城さんの話がもっと聞きたくなりました」


「……後日に幾らでも。さあ、着きましたよ」


 かくして、昇と金城は特危獣017・ウルフの潜むボロ屋敷に辿り着く。

 二人は戦いに意識を集中させると、先んじて屋敷を見張っていた月岡と火崎に連絡を取った。


「金城と日向、現着。これより屋敷に突入します」


「了解」


 通信を終えた金城は昇と頷き合い、香水を振りかけてボロ屋敷に足を踏み入れる。

 濃厚な血の匂いを嗅ぎ取ったウルフ人間体が、黴臭いベッドの上でほくそ笑んだ。


「フェフェフェ……獲物じゃ」


「お邪魔します、お婆さん」


「あーらかわいい赤ずきんだこと。よく来たねえ」


 ウルフはわざとらしい笑顔を浮かべ、童話の赤ずきんさながらに金城を出迎える。

 酒や果物の入った籠を枕元に置き、金城がウルフに言った。


「お婆さんのお耳は、どうしてそんなに大きいの?」


「お前の声がよく聞こえるようにだよ」


「お婆さんのお目めは、どうしてそんなに大きいの?」


「お前がよく見えるようにだよ」


「お婆さんのお口は、どうしてそんなに大きいの?」


 質問を繰り返しながら、両者の神経は少しずつ張り詰めていく。

 そして現代版赤ずきんが、とうとう終演の時を迎えた。


「……お前を食べるためさッ!!」


 ウルフが本性を現し、老婆らしからぬ身のこなしで金城に飛びかかる。

 金城は瞬時に身を翻すと、月岡から借り受けたライフルを構えた。


「ぐうっ!」


 放たれた弾丸はウルフの胴体を貫くが、金城自身も反動で吹き飛ばされてしまう。

 勢いで襖を壊した金城目掛けて、ウルフが鋭い爪を伸ばした。


「待て!」


 銃声を合図に、昇と月岡、火崎が屋敷に殴り込む。

 四方を囲まれたウルフが、特危獣としての姿を曝け出した。


「フェフェフェ……大人の肉は筋張っていて嫌いじゃが、この際好き嫌いはしておれん。全員纏めて食ってやる!」


「そんなことはさせない! 超動!!」


 昇はショックブレスを起動し、ウルフの攻撃を掻い潜りながら心臓を殴りつける。

 アライブとなった昇の腕が、ウルフの爪を受け止めた。


「うおおおおおッ!!」


 二人は力強く組み合い、ボロ屋敷の内装を破壊しながら突き進む。

 雑草茂る裏庭に出た時、木原から通信が入った。


「その屋敷は壊していいって許可が出てる! 存分に暴れちゃって!」


「了解!」


 アライブはゴートフェーズに形態変化し、二刀流で雑草を払ってウルフに斬りかかる。

 ウルフも両手の爪で応戦し、二人は何度となく火花を散らした。


「はッ!!」


 アライブの強烈な一撃が決まり、ウルフの体が地面を転がる。

 ウルフは素早く立ち上がると、爪と牙を光らせて再び構えを取った。

 両者は藪の中で睨み合い、互いの隙を虎視眈々と窺う。

 息もつかせぬ緊張の中、金城もまたじっと彼らの戦いを観察していた。

 ウルフが動くその一瞬を狙うべく、ライフルを構える。

 汗ばみ震える手を、火崎が掴んだ。


「火崎さん……」


「俺がついてる。思いっきり撃て」


 火崎に励まされ、金城の心から焦りが消える。

 そしてウルフが飛び出した瞬間、金城はライフルの引き金を引いた。

 真っ直ぐな弾道がウルフのアキレス腱を撃ち抜き、ウルフは激痛と共に倒れ込む。

 驚くアライブに、金城が叫んだ。


「今です、日向さん!」


「はい!!」


 アライブは助走をつけて跳躍し、二本のゴートブレードをウルフの体に突き立てる。

 ウルフは小さい呻き声を上げると、赤い血を流して生体活動を停止した。


「金城さん、皆さん! ありがとうございます!」


 アライブは昇の姿に戻り、金城たちに礼を言う。

 頷く金城の眼鏡に、秋の太陽が煌めいた。


「……ここにありましたか」


 戦いの後、金城は散乱した屋敷の中からタカシ少年のプレゼントを拾い上げた。

 上品な白い小箱を玄関先に置き、物陰に隠れてタカシの来訪を待つ。

 先に戻った月岡と火崎を見送り、昇が金城に耳打ちした。


「金城さん。警官隊もいるし、流石に来ないんじゃ」


「きっと来ますよ。彼に勇気があるのなら」


 しかし数時間経っても、タカシが姿を現すことはなかった。

 ハロウィンパーティーの開始時間はとうに過ぎ、空も次第に暗くなっていく。

 警官隊すら引き上げ始めたその時、彼はついに現れた。


「タカシくん……!」


 懐中電灯を持って屋敷に入るタカシの姿を見て、金城の胸に熱いものが込み上げる。

 彼に促されて飛び出した昇が、両腕を広げて大袈裟な芝居をした。


「わーっはっはっは、お化けだぞー!」


 何も知らないタカシにとって、目の前の昇は恐るべきフランケンシュタインだ。

 だが覚悟を決めたタカシは怯むことなく、真っ直ぐに昇を見据える。

 そして素早くプレゼントを取り戻し、彼は屋敷から走り去った。


「……よかったですね」


「ええ。今日は本当にありがとうございます」


「こっちこそ。最後の射撃、助かりました」


 昇と金城は微笑みを交わし、ボロ屋敷を後にする。

 絆を深めた二人が麻婆堂に戻った時、パーティーはとっくに終わりを告げていた。


「間に合いませんでしたね」


「でも、おれたちはおれたちで素敵なハロウィンしましたから!」


「……お前らそんなに仲良かったか?」


 気安く会話を交わす昇と金城に、火崎が訝しげな目を向ける。

 木原が軽快に手を叩き、皆の注目を集めて言った。


「折角だし、最後に写真撮ろうよ!」


「いいなそれ。よければ撮影係やるよ」


 店を閉めた店長が名乗り出て、木原からデジタルカメラを受け取る。

 特撃班の五人を画角に収め、店長が合図を出した。


「せーの、トリックオアー?」


「トリートーっ!!」


 思い思いのポーズを取った昇たちの姿を、カメラがしっかりと写真に収める。

 平和なハロウィンを守り抜いた彼らの顔は、どこまでも楽しげなものだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る