001

 呆然と佇んだ。俺の店が無くなっているのだから。


 いや、正確には無くなった跡があったからだ。


 火事だこれ。なんで火事?留守中放火にでも遭ったのか?


 思考がぐるぐる回る。回りに回って天界に連れて行かれた時まで遡った。


 あの時はセレスがいきなり現れて……分解と構築を得た代わりに天界に連れて行かれて……


 待て待て、その前に、俺は日常を過ごしていた筈だ。当たり前にラーメンの仕込みだ。


 あの時スープを作るから鍋に火をかけて……


 そのままじゃねーか!!え?あの女、火を消していかなかったの?かけっぱなし?


 じゃあ火事の原因は火を放置して留守にした為か?つまりこう言う事だよな?


「ふざけんなよセレスううううううううううううううううううううううああああああああああああ!!!」


 力の限り叫んだ。深夜なのにも関わらず。


 カラっと近所の窓が開いた音がした。今の絶叫で不審者と思われたか?まあ、咄嗟に隠れる。


「……気のせいか」


 ぴしゃりと窓が絞められた。安堵して息を吐く。


 と、取り敢えずここから離れよう……あ、その前にお金……は燃えて無くなったか……


 試しに構築してみる。燃えカスからお金を再構築。出来ないんだったら他から材料を調達して……


 原子が手の周りに集まる。この世界でも俺の能力は使えるのか。当たり前か。マーキングして来いって言われたんだし。


 ともあれ、再構築して得たお金は56327円也。あんま持っていなかったな。繁盛店なら1万円の束だろうが、俺は夜のみの営業だし。日中は学校に行っているから。


 そのお金で明日の仕込みの材料……深夜だから店開いてねーや。


 仕方ないので味噌、しょうゆ、塩だれを再構築。現実逃避とも言える所業だ。


 まあ、おかげでたれは確保できたが。容器も再構築したからバッチシだ。持ち歩くのに大変不便だが。


「って、こんな事している場合じゃねー。店燃えて無くなったってセレスに折檻しなきゃ気が済まん」


 あの馬鹿女が無理やり引っ張ってきたのでこうなった。学校や商売を休んだのはまあ、百歩譲って我慢するが、店燃やしたのは許せん。


 兎に角一回天界に帰って……マーキングしなきゃって、どこに?


 そもそも、マーキングしたからって言っても帰れないんだよ。地脈からのエネルギーが溜まるまで二日必要なんだよ。それまではどうにもなんないんだよ。


 あーちくしょう、マジでどうしようか……取り敢えず人気のない公園にでも行って夜が明けるのを待つか?それとも逆に遠くに向かうか?


「か、凱斗!?」


 あん?と振り向く。そこには隣の蕎麦屋の娘、鳴沢なるさわ 亜美あみが突っ立っていた。

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