第2話 絵里奈ちゃんは天使系DQNでした?
俺の想い人である佐倉絵里奈———絵里奈ちゃんを支えると誓ったものの、何から始めればいいか分からない。
そもそもの話、俺はまだ全く絵里奈ちゃんのことを知らないのだから。
———と言う事で、一先ず親に直談判して借金をした30万円を持って探偵に依頼した。
内容は勿論絵里奈ちゃんが元々どう言った扱いを受け、どう言った性格なのか、此処数ヶ月の行動などを調べてもらうためだ。
いや~~高いね、探偵に依頼するの。
高校生だったからか最低額で雇われてくれたけど、もう二度と頼まねぇ。
後、絵里奈ちゃんに許可もなしに依頼したせいで物凄い罪悪感を感じてもいた。
ただ、彼女を支えるためには仕方のないことだと何度も自分に言い聞かせた。
それが一週間前———つまり恋した次の日の話である。
そして昨日の夜、電話で探偵から報告が来た。
結果———俺の見る目の勝ちぃ!!
めちゃくちゃいい子でしたぁぁぁぁ!(低音ボイス)
何ならそこらの女子とかより断然いい子でしたぁぁぁぁ!
探偵が言うには、聞き込み調査をしてみた所……絵里奈ちゃんが他の奴らの尻拭いをしていたらしく、口調とかは悪いものの、軒並み評判良かった。
寧ろ何であいつらと一緒にいるのか分からないとか言われていたらしい。
更にバイトも問題を起こさず真面目にこなしているのだと、探偵が言っていた。
うん、絵里奈ちゃんは天使。
この世の舞い降りた女神だったよ。
ただ探偵にばかり任せていてもそわそわするので……。
「———おはよう、佐倉さん!」
「……っ」
取り敢えず絵里奈ちゃんに頻りに話し掛けることにした。
こうすることによって俺が皆んなから空気の読めない変人認定を受けるはずなので、自ずとヘイトが絵里奈ちゃんから俺に少しは移るだろう。
それに多少は絵里奈ちゃんの交友関係とかその関係の詳細が知れるかもしれない。
まぁ一番は絵里奈ちゃんと仲良くなることだけどね。
いや、下心ないわけないじゃん。
こちとら美少女とはお近付きになりたい男子高校生だからさ。
「佐倉さんは毎日早いよね。俺も結構早いと思うんだけどさ、毎回先に来てるし」
「……」
突然俺に話し掛けられた絵里奈ちゃんは、もう一週間も続けているせいで『またか』と言わんばかりに此方を一瞥した後直ぐに前を向いた。
どうやた今日も挨拶を返してもらう計画は失敗の様だ。
既に一週間毎日挨拶しているが、残念ながら一度も返事を返されたこと無い。
微塵も俺に興味がないように見える。
ま、まぁ絵里奈ちゃんは優しいから俺が虐められない様に敢えて無視してるんだよ。
そう、敢えてだから!!
決して俺が嫌われているとかでは……まぁもし嫌われてたら、絵里奈ちゃんを虐める奴らに喧嘩ふっかけてから死ぬとするかね。
そしたら絵里奈ちゃんも少しは学校に来やすくなるでしょ。
俺がそんな事を考えていると、周りの視線が何時もより多いことに気付く。
それと同時に、普段なら変人を見るような目をしている我がクラスメイト達が、何処か今日は憐れむ様な視線を向けている。
何だ何だ?
ずっと無視されてる俺が遂に可哀想になったのか?
そんなことより絵里奈ちゃんをハブるな馬鹿野郎———。
「———おい、退け」
「え、何て?」
俺が訝しげな視線をクラスメイトに向けていると、突然誰かに話し掛けられたので反射的に聞き返す。
すると、何故が俺の頭を誰かが掴む。
誰だよ……と思ってふと見上げると、そこには元々絵里奈ちゃんとつるんでいた素行の良くない男子達が勢揃いしているではないか。
え……ダル過ぎて草。
てか怖すぎなんですけど。
俺が内心草を生やしていると、俺の頭を掴む金髪ピアスの男(イケメンは◯ね)———
「おい……退けろって言ってんだよ。分かったらさっさと退けろ!」
「え、あ、もしかして皆んなでお金でも集りに来ました? すいませんね、丁度先週カラオケ行って財布の中身スカスカなんですよね、ほら」
「うるせぇ! そんなことは訊いてねぇし見せてくんな!! 俺等は絵里奈に用があって来たんだ。邪魔だから退け!!」
もう既にヒートアップ状態の浅村は、憤怒の表情で俺の頭から手を離して胸ぐらを掴む。
何故頭を掴んだのか謎すぎて草。
てかあんたら絶対絵里奈ちゃん虐めに来たんでしょ。
渡しませんよ、絵里奈ちゃんは。
俺は胸ぐらを掴まれながらチラッと後ろを見る。
始めは俺を心配そうに見ていた絵里奈ちゃんだったが……震える身体を押さえて覚悟を決めた様に席を立って言い放った。
「ねぇ玖月、アタシに用があるならそんな奴放っておきなさいよ」
はい、天使。
やっぱりこの子が人を自ら虐めるなんて有り得ないね。
俺が絵里奈ちゃんにときめいていると……浅村があろうことか絵里奈ちゃんに暴言を吐いた。
「は? お前が俺に指図すんな。調子に乗んなよ屑女」
はい、ギルティ―。
お前は必ず社会的に殺します。
あ、いいこと思い付いた。
我ながら素晴らしい名案を思い付いたと、内心自分を褒める。
そして俺は嬉々としてポケットからスマホを取り出すと……。
「はい、此方向いて~~」
「あ?」
———パシャリ。
俺が胸ぐらを掴まれている所を自撮りした。
その写真は俺のスマホからパソコンにバックアップもされているので、スマホを壊されようと逆に器物損害でもっと相手が社会的に死ぬだけである。
一応ボイスレコーダーも常時付けてるからそれだけで相手が悪くなるだろうけど、念には念をって言うしな。
それに今回は、目的を達成するための単なる布石だし。
「お、おまっ———今すぐ消せ!!」
俺は怒り狂ってスマホを奪おうとする浅村を見ながら———。
「———た、助けて下さいっ! 浅村玖月に殴られるーーっ!!」
恥を捨てて全力で何処かに居るであろう先生に大声で助けを求めた———。
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