第36話 討伐開始

あれから三日経って、大討伐依頼実施の日になった。

早朝、町の入口に俺を含めた参加者が集まった。


リーダーみたいになってるゲーアルトが大きい声で叫ぶ。


「ようし、お前ら!!今日は天気も良いし、絶好の銀色狼狩り日和だ!!

みんなでガンガン狩りまくろうぜ!!戦力は十分だし、後方部隊も厚いしで何も心配は要らねえ!!行くぞ!!」


ゲーアルトに応じて、おおおおお!!と狩人たちが気勢を上げる。

みんな結構気合入ってるな。


さて進むかと思ったら、プラカードを持った連中が町の中央方向からやってくる。


「銀色狼討伐はんたーい!!」


「本当に討伐する必要があるのか!?」


「銀色狼の子供まで殺すのか?良心は傷まないのか!?」


三日前に総合ギルドの受付で見かけた、害獣の保護団体か何かっぽい頭の弱い連中だ。前に脅されたゲーアルトにビビっているのか、結構距離を取ってシュプレヒコールをあげている。


「では、出発!!」


連中を無視してゲーアルトの声で、討伐部隊が行進を始めた。

保護団体は町で声を上げるだけなのかと思ったら、かなり後ろからついてきている、どうやら行軍についてくる意思があるようだ。


めちゃくちゃ弱そうな連中だったがついてきて大丈夫なのか?と思ってよく見ると、

武器や防具を装備した連中が護衛についているようだ。

自分たちが襲われたら、進んで害獣の餌食になるのが道理な気がするが…。

前に見たカメラらしき物を携えた記者のような男も、ついてきている。


これってもしかすると、害獣保護活動を皇国でアピールする目的でやっているんだろうか?

そういえば、地球でも鯨を保護しろと言って過激な活動している連中もこの手のアピールをして、企業から金を引き出していたんだったか。

やっぱり、文化が成熟してくるとこういうゴミカスみたいな手合いが増えるのは世の常なのかもしれない。



鉱山に向かう道をしばらく進むと、道沿いの草原に数十匹の銀色狼の集団がいるのが見える。


「野郎ども!!いくぞぉ!!」


「野郎だけじゃなくて、女の狩人もいるんだよ!!」


かみ合ってるのか、かみ合ってないのかよく分からないやり取りをしながら、討伐隊の先頭を進んでいたゲーアルトとグレータが銀色狼に真っ先に突っ込んでいく。


「ゲーアルト、まずは火で散らすよ!!」


走りながらグレータが右手を上に掲げると、手のひらの上に小さな火のような物が浮かび上がる。

浮かび上がったと思ったら渦を巻いてどんどん大きくなり、直径で50cmぐらいにまでなった。

これが実戦レベルで使える、『火の加護』ってやつか。


グレータが投げるような仕草をすると、火球がかなりの速度で銀色狼の集団に飛んでいく。

ドガァアンという派手な破裂音とともに、集団の狼たちが爆発に巻き込まれ、十体ぐらいは完全な黒焦げでピクリとも動かない状態になっていた。

近くにいた狼たちも怪我を負ったり、毛皮に火が付いたりしている。

火の加護で作った火球が接触すると爆発するんだろうか?とにかく凄い威力だ。


『ウォォォォォオオン』


狼が遠吠えをするや否や残った狼の集団が散会しつつこちらに走ってくる。どうやら脅威と認定して襲い掛かってきたようだ。吠えた狼がこの群れのリーダーなのかもしれない。


「うおらぁっ!!!」


ゲーアルトが背中の大きな剣を抜き、一振りで飛びかかってきた狼を一気にふっとばす。

あの剣は重量もありそうなのでどうやら切れ味というよりは、ぶっとばす系の武器なのかもしれない。


連携して襲ってくる狼を、剣を力任せにぶん回して次々に吹っ飛ばしていく。

ユリーとタイプは違うが、同じぐらいの強さがあるように見える。


「でやっ!!」


グレータはグレータで、両手で持ったメイスのような槌を使って飛びかかってくる狼を叩きのめしている。

流石に四級だけあって、戦闘力は加護によるものだけじゃないらしい。

二人はそれぞれの死角をそれぞれが上手くカバーして戦っていて、明らかに戦い慣れた感じで良いコンビネーションだ。


ゲーアルトとグレータ以外の害獣狩人へも銀色狼は数体ぐらいずつのグループになって連携を取りながら、鋭い爪や牙で引き裂こうと襲いかかってきた。


一方の害獣狩人たちも剣、槍、弓など急ごしらえの討伐隊にしてはまあまあうまく連携しながら応戦できている。

大きな怪我をしている人もこちらから見る限りではいなさそうだ。

特に問題なく、これぐらいなら狩れそうな雰囲気だな。


「銀色狼を無暗に殺すなー!!」


「殺す必要があるのか!!」


後ろの方から、例の連中の叫び声が聞こえる。戦闘中にもやってくるとは迷惑極まりないな。



体感で15分ぐらいだろうか、戦闘は割とあっさり終わった。

先に言われた通り、俺や荷物運びの人などがいるところまでは銀色狼は来なかったので戦闘を見守っているだけで良かったのは幸いだ。


戦闘後に軽い傷を負った害獣狩人が数人いたが、生命はもちろん戦闘への影響がないレベルの怪我で、軟膏を塗って包帯を巻く程度で俺の仕事は終わった。


後方部隊にいる男性の総合ギルド職員と、ゲーアルトとグレータが状況や今後の進路ななどを相談している。


今のところは良い感じだな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る