第39話 Belle Equipe(ベルエキップ)
『
「初めて実家に来た時、寄りたかったっていってたよね」
『芳幸さんが最初に来た時、お土産に持ってきておいしかったんです』
「じゃあ、行きましょう。カーナビなんか使わなくても大丈夫よ」
「颯君は甘いものが好きなの?」
『とっても大好きです』
糖尿病にならないように注意しなきゃ。
Belle Equipeなら……そうだ!
「ねえ、颯君と私で1種類ずつ選ばない?」
『いいですね。そうしましょう』
…………
『みんな美味しそうで迷うよ。慈枝さん、どれがおすすめ?』
「うーん、オリジナルシューシフォン“ふわり”かな?」
『おお、これ……おいしそうだ』
「それと、この丸干しパウンドも美味しいよ」
『中に入っているのはなんですか?』
「干し芋……サツマイモを蒸して、干したもの。普通の干し芋は蒸してからスライスするけど、これは丸のまま干してるから、甘みが強いよ」
『う~ん、迷う』
「私は、ロイヤルラカンカチーズケーキにするよ」
『よし、決めた。丸干しパウンドにしよう』
『すいませ~ん。えーと、ロイヤルラカンカチーズケーキでしたっけ、それと丸干しパウンドをください』
『かしこまりました』
…………
『じゃあ、慈枝さんの実家に向かいます』
「住所は――」
『諒解です』
『いい匂いだー』
「つまみ食いはだめよ」
『あの、この先に、慈枝さんの実家があるんですよね?』
「そうだけど?」
『もともとセンターラインがなかったけど、電線がなくなりました』
「電線のありなしってどこかの旅番組みたいなことを言わない。電線は右手の林の向こう側を通ってて、もうすぐ復活するよ」
『他にも、なんか周囲の森が鬱蒼としてきてトンネルみたいで……抜けたら異世界ってことはないですよね』
「抜けたら普通に町場にでるよ」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ほら、ちゃんと遠くに普通の日本の地方都市が見えるでしょ。ナーロッパとかじゃなくて」
『よかった。魔法も剣も苦手だし、異世界の風呂場で働くのは勘弁です』
…………
『あ、あれがおとうさんが言ってた湖畔のホ……ていうやつですか』
「う、うん」
『ありがちな外装ですね』
「やっぱり興味ある?」
『……それは、まあ』
なんでそんな気のない返事を?
『興味はありますが、月並みですが同意がないと利用できないと思います』
ふ~ん、それはもっともらしいんだけど、虚解だよ。
なぜなら、確実に同意を得られるという確信がなければ、同意を求めないつもりなんだろうけど、“確実に同意を得られる”確証が得られることなんてまずないんだからね。
『だから、とりあえず景色の一部、かな?』
うん……
♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪
お母さんから電話だ。
「ちょっとごめん、母から電話だから出るね」
『どうぞどうぞ』
「はい、もしもし」
『慈枝、こっちに向かってる?』
「うん、もうすぐ市街地に入るよ」
『ちょうどよかった。どこでもいいから適当にスーパーに寄って、買い物してきて』
「うん、買い物リストはメッセで送って」
『よろしくね』
「ごめん、颯君買い物に付き合ってくれる」
『お使いですね。もちろん、いいですよ』
ヨシ!
『あれ、
「最近できたのよ」
『勝手知ったる木花!』
「フフフ、じゃあ寄っていきましょ」
「なんか、スーパーでカートを押してる人は無駄に買い物をする、とか聞いたことあるけど」
家族で買い物にくる人も。
『ああ、あの雑誌。あれは、あれに書いてあることの逆を実行するのがいいですよ』
「いいの、そんなこと言って? ある意味同業でしょ」
『いいんですよ』
「野菜はカブとトウガン、シメジ」
『シメジはこのあたりですかね。ブナシメジだけど』
「うん、いいシメジね」
『あとは、カブとトウガン……慈枝さん、このチンゲンサイよさそう』
「うん、チンゲンサイって鍋物にも使えるから買っていきましょ」
「お肉は豚バラとベーコンと――」
『この豚バラお徳用だそうです』
お母さん、せめて牛肉……
『Yoshie!』
「あ、
「こっちは
『初めまして涼原 颯です。こーちゃんの動画を見つけてくれたんですよね』
「初めまして、Mr.Suzuhara。動画の妹さんかっこよかったですよ」
『ありがとございます』
『フフ、なんか絵になってるよ、二人』
「え?」
『二人での買い物。夫婦みたい』
「な、なに言ってんのよ!」
『そ、そうですよ。まだまだですよ』
『そ~お? よく似合ってると思うよ』
『「それは、おいおい」』
『フフフ、
「ところでKamalこっちに引っ越したの?」
『ううん、モミジを見に来たの』
「あーあそこ。どうだった?」
『それはもう、ちはやぶる 神代も聞かず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは』
『そんなに良かったですか』
「えっと、それって
『慈枝さん、それ落語』
「ええっ!」
『フフフ、YoshieもMr.Suzuharaも面白い。やっぱりお似合いだと思うよ』
「だからー」
「あー、今度3人で飲む?」
『慈枝さん。Ms.Ramanujanは戒律とかあるんじゃないですか?』
『Mr.Suzuhara心配無用。私、生まれはインドだけどクリスチャンだから』
「クリスチャンの前に“あまり敬虔でない”って付くんだっけ?」
『Yoshie何てこと言うの!』
「冗談よ、日にちは決めて連絡するよ」
『うん、よろしく。Yoshie、Mr.Suzuhara、じゃあね』
『「またね」』
『Ms.Ramanujanって面白い人ですね』
「うん……あのね、さっきの和歌のことを教えてくれる」
『いいですけど、俺も大したことは知らなくて、ネット情報の受け売りみたいなものですよ?』
「それでも……さっき恥ずかしかった」
『はい、じゃあまずは買い物を済ませて、それからにしましょう』
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
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