第30話 颯君と話したくなっちゃった

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪


 あ、はやて君。


『こんばんは。実家はどう?』

「颯君がいないとヒマね」

『忙しかったんだから、少しのんびりするのもいいと思うよ』

「うん、ありがとう……それで、次は、この前のリベンジで、私が颯くんちにいくから」

『リベンジってのはちょっと違うかもと思うけど、まあありがとう。スポットはリクエストして』

「うん」



「颯君はホテルに泊まってるのよね」

『うん、友達がとってくれたホテルで、まあ普通のビジホですね』

「お友達に会った?」

『うん、そいつと、奥さんになる予定の女性と、その女性の友達の4人で市内観光した」


 奥さんになる予定の女性の友達ってことは、女がいたのね。


「どんなところに行ったの?」

『市内の小高い丘にあるお城で、結構石垣がすごかった』


「……」


『どうしました?』


「ひょっとして、手を引いてあげたりした?」


 他の女の手を握ったりしたら許さないんだから!


『してないですよ』

「本当に?」


『それどころじゃなかった、ということなんです』

『奥さんになる女性とその友達、学生時代に陸上部で長距離走をやってたそうで、お友達は今自衛官をやってるそうで、急な石段を普通にしゃべりながら普通に歩いて、しかし全く息が上がらないんです。俺たちのために少しはゆっくり目に歩いてくれてたのかもしれませんが、俺達かなり息が上がって、手を引くどころではなかったです』

「それは……いやいや大変だったね……まさか、手を引かれたりしてないよね。逆に」


『それもないです……あの、ひょっとして俺が浮気したとか思ってません? 俺は慈枝さん以外には関心持たないです』


「本当?」


『俺は慈枝さんのことが好きです』


『だから、よそ見しません。これは自分が決めたことですから、厳守します』

「……ありがとう。疑ってごめん」

『いえいえ』


「私は重い女だと思う?」

『そんなことはないです。それだけ俺のことを好きになってくれたからですよね」

「うん、私も颯君のことが好きよ。だから、他の女にとられたくないよ」


 とられたくないし……他の女のほうを向いてほしくない。


『おみやげ持って帰りますよ』

「気を付けて帰って来てね」


 颯君、ごめん。


『おやすみなさい』

「おやすみなさい」



 さて、明日は……お兄ちゃん達は水族館へ行くのね。さすがというべきか、ツボを押さえてるね。


 一人で行ってもしょうがないし、鉢合わせするのはイヤだから……

 そうだ、この前Juliaジュリアでシミュレータプログラム作ってるとき、Μαργαρίτηςマルガリテス Ηλιάδηςイリアディスが見たことがないようなコードを書いてた。


 Juliaの最新リリースは……1.10.5か。どうやら私のJuliaに対する知識はらしい。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


『私。水族館って久しぶり』

『受験勉強の息抜きになればと思ってね』

『ありがとう。よーくんと一緒できてうれしい』


 この二人は……


 …………


芳幸よしゆきたちは出かけたけど、慈枝はどうするの?』

「プログラミング言語の勉強をし直そうかなって思ってる。ノーパソ持ってきてるし」

『色気のない……って何その毛玉だらけのスエットは』

「この服は現役を引退した選手、実家だし、颯君もいないし」

『外出するときはせめて二軍選手にしなさい』

「はーい」


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 今日の晩ご飯は、琴菜ことなちゃんがカレーライスを作ってくれた。


 あれ、お兄ちゃん目が……?

 それに、いつものお兄ちゃんは好物のカレーライスであっても3杯も食べない……

 一方の琴菜ちゃん、お兄ちゃんから何となく厳しい目? を離さない?


 何があった?


 …………


 今日お兄ちゃんは、琴菜ちゃんと一緒に客間で寝るんだって。

 本当に何があった?


「ねえ、お母さん。お兄ちゃん達どうしちゃったの?」


『今日、あの二人は水族館にデートに行ったことは知ってるでしょ』

「うん」

『琴菜ちゃんによると、水族館であの女に出くわしたんだって』

「あの女って?」

『偽ラブレター』


 あっ!


「それで、どうなったの」

『その女は芳幸に旧知の仲的に話しかけたらしいんだけど、芳幸はショックのあまり口がきけなくなったんだって』


 それほどまでダメージが残ってたんだ。

 だけど、なんでそんなことするかな、あいつは!

 偽ラブレターとかウソ告って、された方は傷つくことがわかってないのか!


『偽ラブレターの件は琴菜ちゃんに話してあったので、琴菜ちゃんはそれと気が付いてその女を撃退したんだって』

「ケンカしたわけじゃないよね」

『うん。で、芳幸はグニャグニャでお会計もできないし、車まで琴菜ちゃんに手を引いてもらったんだって』

「それでよく帰ってこれたね」


『……琴菜ちゃんの胸元の染みについては、知らんぷりするようにね』


 染みがあるのはわかってたけど……お兄ちゃん琴菜ちゃんの胸で……琴菜ちゃん、そこまでするんだ。

 私はできるかな……


「私……あの女は中学校1年生のときの同級生だったの。あまり親しくなかったけど……あの女はお兄ちゃんのことが好きになってラブレターを書いたけど揶揄われて偽ラブレターだと言っちゃったって……私が介入すればお兄ちゃんを守れたのに」


『その女は芳幸のことが好きだったわけでしょ。だから、介入してその女を遠ざけてしまうのは100%正しいとは言えないような気がするわね』

『一方、その2年後に芳幸の前に琴菜ちゃんが現れるわけだから、ますます何が正解だったかわからない……このことを琴菜ちゃんは知ってる?』

「昨日の夜全部話した……琴菜ちゃんは、任せてくださいって言ってたけど……」


『今は私達より琴菜ちゃんの方が芳幸の心のずっと奥まで入れると思う。母親としては少し寂しいけど、まあこれが本当の意味での子離れかもね。だから、二人を見守っていくつもりよ。もちろん相談には乗らなきゃいけないけど』


「まったく、打たれ弱い兄貴で世話が焼ける」

『同感。でもそれは私たちの教育が原因だったかも。そうそう、隼人さんは芳幸に癒してもらった先はどうするか考えろって言ってた』


 もう二人はそんなことを……まあ、お兄ちゃんは真っ直ぐだし、琴菜ちゃんは全力疾走だから……



 颯君と話したくなっちゃった。


『部屋に引っ込むんなら、お風呂に入ってから引っ込みなさい』


 なぜわかった?


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ご訪問ありがとうございます。


 前作「ねえ、これちょうだい」で書けなかった部分を慈枝ちゃん視点、美都莉みどりさん(芳幸君と慈枝ちゃんの母)視点で見てみました。








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