写真撮らせてもらっていいですか
獅子2の16乗
第1話 宿す夢に寿命はない
♪♪
来た。友達申請。
良かった。私、忘れられてなかった。
“友達”はいいんだけど、本当に
ううん、お兄ちゃんなら彼女がいたら私の連絡先を教えないはず。だから私は期待していい。
承認っと。
【颯】
【慈枝】いいよ
♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪
『慈枝さん、ご無沙汰してます』
この声、待ってた。
「もう、どうして早く見つけてくれなかったの」
『ゴメン。すっと探してたんだけど、やっぱり点と点がぶつかり合うって難しいです』
「でも、こうして繋がれたんだから、電話ありがとうね」
『いえいえ、明日の土曜日空いてますか? もしよかったら会いませんか?』
「いきなりね、でも、いいわよ」
『待ち合わせは、慈枝さんちのほうで――』
最初、お兄ちゃんと颯君の妹の
当時琴菜ちゃんは5歳。
まったくお兄ちゃんらしいと思う。
お兄ちゃんは“お兄ちゃんモード”とか言ってるけど、お兄ちゃんの幼児モテは、私とかお父さんの幼馴染さんの子どものヒマ(
颯君のことはお兄ちゃんから聞いていた。
いい人だとのことだったけど、“〇〇っす”とか言うとのことで、ちょっとポイント低いかな、とそのときは思ってた。
初めて会ったのはお兄ちゃんの発案で、茨城県の国営ひたち海浜公園に両方の家族で行ったとき。颯君はシンプルで爽やかにまとめてた。
自分でも矛盾してると思うけど、生来の人見知りが出て会話が弾んだとはいいがたい状態だったにもかかわらず、颯君に興味が湧いていた。
でも、お兄ちゃん達が相互あーんしてた琴菜ちゃんお手製クッキーをくれるといったときにからかい半分にそれを断ったあたりから、少しずつ自然に話ができるようになった。
私が言ったことに対してちゃんと考えて応える人。
真っ直ぐな人。
はにかんだような笑顔をする人。
私がアタリメを分けてあげたら、喜んでるんだけど必死で我慢している顔をしてた。
後で聞いたら、“勘違いしちゃいけない”って自分に言い聞かせてたんだって。
勘違い?
何を根拠にそんなことを。
“写真撮らせてもらっていいですか。その、俺スマホだし、写真部じゃないんで上手ではありません。ご迷惑なら断ってもらっていいんですが”
緊張してるんだね。でも、それを跳ね返して、望んでくれた。
ちょっとうれしかった。
でも、照れくさくって中学の時に所属していた写真部の
“写真はカメラの種類とか技術は大事です。でも、撮る人の被写体に対する思い入れがないと始まりません。ですから自信を持ってください”
を言ってしまった。
“被写体”じゃなくて“モデル”っていう言葉を使えば、向けられた好意に応えたことになったんだと思うけど、私ったら……
でも、二人だけでみはらしの丘に登って、いっぱい話せて、そのあとみんなと合流したあとも自分でも驚くほど自然に話せた。
これも後で聞いたけど、もうこの時にはお母さんや颯君のお母さん、琴菜ちゃんまでも私たちのことをわかってて、だからペアになってみはらしの丘に登る競争を企画したんだって。
もう、お母さんったら……
颯君が私が通ってる高校を志望するっていってくれた時はちょっとうれしかった。
たけど、成績がちょっと足りなかったから、勉強会……最初は図書館で勉強を教えた。
“慈枝さんのおかげで勉強の面白さが分かった”
本当にうれしかった。だから、次の勉強会は颯君の部屋にした。
もう引き下がる気はなかったから、呼び方を“颯さん”から“颯君”に変えて、ご両親の呼び方を“おとうさん”、“おかあさん”と変えて、勉強してるときちょっときわどい表現を使ってみたけど、効果があったのかなかったのかわからなかった。
家庭教師としてしか見られてないのかなと不安になった矢先、あの台風の夜。
“ここ川が近いから、もしかのために避難準備をしてます”
“うん、危ないと感じたときは迷わずに避難してね”
“うん”
これが、最後の会話。
この後ずーっと電話は圏外、メールは返信なし。
私はあきらめて……あきらめたつもりになって、別の人と付き合った。
“俺は、誰かの替りにはなれないよ”
そりゃそうよね。その人には悪いことをしちゃった。
お兄ちゃんはあきらめなかった。
明日、颯君と会うことを約束した。
今度こそちゃんと交際をスタートさせたい。
だけど、颯君のことをあきらめたつもりになって他の男の人と付き合ったこと、その人に颯君を求めてしまったことをどう思われるんだろう……
ううん、隠してはいけない。ちゃんと話そう……
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
目が覚めた。
「おはよう」
いつものとおり、机に飾ってある颯君とのツーショット写真に挨拶。
叶うかな……ドキドキしてきた。
♪
あ、メッセージ。
【芳幸】宿す夢に寿命はない From
ヨシ!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
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