第91話 銀河系外縁の戦い② 小鳥遊高雄

 突き抜け行動の実施中、小鳥遊たかなし高雄は100機持っている航宙機にナハトドンナーを6個ずつ積み込み行動していた。そこに直掩迎撃インターセプトミッションの為に機銃だけめいいっぱい積み込んだ150機にも及ぶ航宙機が現れ、小鳥遊の機体を追い回し始めた。

 正直なところ無重力下で艦船以外は障害も無い空間だ。小鳥遊はナハトドンナーを捨てる事も無く対航宙機戦に突入した。敵の航宙機の個別イラストは角が生えた兎。カルロス中将というエースパイロット級の人物だ。

 お互い機銃を掃射しながらすれ違った時にそのパイロットが中に搭乗している事も確認している。

「良いじゃないですか。国家連邦政府1級エースパイロット小鳥遊高雄、討ち取らせて貰います」

「面白い事言うじゃないか准将君。返り討ち!」

 お互い無線でやり取りまで始まり、お互いやる気は充分だ。そのすれ違いの間に小鳥遊は16個のナハトドンナーを放ち、21隻の艦艇を航行不能にしている。


 身軽なのはカルロスの方だ。小鳥遊の機体がターンをするより先にターンして、ケツに取付き始めている。2,3機墜とされたが所詮はリモート機だ。そこは気にしていない。左にきりもみをしながら損害を防止し、そこからバレルロールをしながらやり過ごす。急なその行動はカルロスの意表はつけたようで、ターンを突き抜けて行ったので前後が逆になった。小鳥遊のターンである。機銃の射撃精度は若干小鳥遊の方が下手であったがそこはへこたれる理由にはならない。

「もっと近付けば必ず当たるんだよ!」

 結局酷い所では30メートルまで近づいて放つのだから小鳥遊もやんちゃである。カルロスは振り払おうと右に左に旋回するが、そこはかつて喧嘩上等がモットーだった小鳥遊の喧嘩の勘が航宙機のドッグファイトにも発揮され、小鳥遊は器用についていく。その間に更に26個のナハトドンナーを放ち、13機の艦船にとどめを指している。


 しかしそれもいつまでもは続かない。小鳥遊の間合いと呼吸を嗅ぎとったカルロス中将がインメルマンターンを繰り出し小鳥遊の後方につけ、遂にカルロスの機体だけ搭載していた対航宙機用ロケット誘導弾を放つ。小鳥遊がループでそれを回避しようとすれば誘導弾と共にカルロスの機体もついてくる。

「有線誘導か。笑わせてくれる!」

 小鳥遊は必死にあちこちをターンしたりきりもみしながら逃げ惑うが、何故か振り切ってはいない。カルロスの方が腕前が上だからではあるが、それだけではない。

「勝敗は腕前だけじゃ決まらないよ」

 小鳥遊を追いかけたカルロス中将の航宙機の残存118機は、気が付けば側面や後背から来た国家連邦政府の航宙機に次々包囲され攻撃されているではないか。

「おい准将君、まさかここまで俺を引っ張って来た訳か」

「そうですよ中将閣下。ようこそ僕の罠へ。そしておやすみなさい」

 周囲を囲まれ最後に1機になったカルロスが小鳥遊の機銃掃射に成す術もなく討ち取られた。

「多分シミュレーターで戦っていれば僕は負けていましたよ。ですがこれは実戦なんです。この場合航宙機の数だけでも1万対3千。その差は歴然です。いや、本気で中将さん。あなたはタイマン勝負するなら超えるべき壁です。でもこれこそが笹本参謀長さんが何度も見せた『大人の喧嘩』のやり方です。閣下とは本気で宇宙そらでやり合うよりも、仲良くシミュレーターでやり合いたいな。過たず名パイロットだと思うし、敬愛に値する人物です」

 死亡判定が出てどこかに飛ばされたカルロス中将に小鳥遊は手向けの声をかける。

「そうだね。見事でした。勝利おめでとう!」

 事も有ろうにそのカルロスから祝いの言葉が送られた。

「なんと。割と近くに脱出テレポーターの行き先があるようですね」

「ああ。脱出短艇なんだ。そして興味深いね『大人の喧嘩』だっけ?どんなのなんだい」

「うちの参謀長さんは自分が相手より有利な条件の土俵で戦うんですよ。そして必ず勝利します。今回は圧倒的な数の差が勝因でしたが」

「なるほどね。その参謀長は彼のサークルリーフ殿か。准将殿はそこから皆学ぶのか。なるほど負けるわけだ」

 独り言を言うように通信が切れた。通信が切れる間に全てのナハトドンナーを使い切り、合計162隻の艦船を航行不能にし、82機の航宙機を撃墜した。小鳥遊自身は68機の航宙機を失ってはいるが戦果は上々だ。小鳥遊は意気揚々と帰還する。小鳥遊は無事に帰還できたが、航宙機隊の内15名が撃墜され、緊急脱出テレポーターのお世話になっているのだそうだ。普段なら次回の出撃は残存した32機で行くところを、パイロットを失ったリモート機が自動制御で結構帰ってきている為、88機での再出撃になる。


 小鳥遊がパーラ子飼いのエースパイロットを討ち果たした頃、笹本は突き抜けを終えて向きを変え始めた。後方を向いたままでは攻撃が散発的になりやすいからだ。同じころパーラの艦隊も向きを変更する。

 航宙母艦はそのまま自艦隊を通り抜け、後方に陣取る。直掩が功を奏したのか航宙母艦は一隻も撃沈されていない。高価で足が遅い。それでいて戦場で有効な航宙機を運ぶための艦船は今回の笹本にとっては若干重荷だ。心配をかけすぎてしまう。

「向こうもこっちと同じタイミングで回頭かよ。全く隙が無え」

「そりゃあ相手もさしものパーラ提督だもの。仕方ないでしょうね。でもケンジサン……」

 思わずエチエンヌが笹本の独り言に応える。

「でも?」

「貴方とパーラ、まるでダンスをしているかのように揃っているわ。言っては失礼かも知れないけど『美しい戦い』だわ」

「なるほど世界で一番物騒なダンスパーティーだな」

 笹本は相変わらず笑みも零さず答えた。


 その中現在では大場雄哉の補佐として第2駆逐艦船団長になっている大場みぞれが、敵の航宙母艦2隻を撃沈する大快挙を引っ提げていた。

「まあ私ったら。薙刀の他にも特技が有ったみたいなようね。驚いちゃいましたわ」

 その驚きの声は斬り込み時の凛とした感じでは無く、おっとりとした口調で、とろんとした目をしたままポニーテールの黒髪を揺らしながらの発言だった。

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