第82話 オーストラリア有限会社国後退戦 準備段階

 インフルエンザから快復し、やっと艦橋ブリッジに帰ってきた笹本は次の戦いの準備を急がされた。

 普段行う参謀府会議では30分で作戦概要を伝え、何故か各国に連絡を取り始める。

 エチエンヌ・ユボー、ウルシュラ・キタ、グェン司令長官。更に小鳥遊高尾はそのままテレポーターの向こうに消えた。笹本はこの乗組員に巨大なプロジェクトを丸投げしているのだ。

 

「んー」

 叢雲はいつになく不満げな声をあげている。

「不服かい?」

 笹本が聞いてやる。

「本来なら不服です。しかし未だ何度シミュレーションしても戦ったところで勝機は見えません。これでは不服の申し立てようも有りません。それよりカウンセラーさんが目障りですね」

 カウンセラーがあちこちの乗組員のカウンセリングを始めていて、叢雲はそれが邪魔なようだ。 

「気持ちはやり合いたいわけだ」

「はい。勝てるならば」


 しばらく間を置いて笹本が返した。

「勝機が見えたら聞かせてください」

 そこにサントスも加わった。

「12艦隊かぁ。無理じゃないかな。条件が合えば防衛戦を提案するかも知れないけどな」

「合わないだろ?」

 サントスも防衛を前提にシミュレーションを繰り返してはいるが、勝ち目を見出だせていないようだ。

「全く合わないね。ケンジの言う通り逃げるが勝ちって気がするよ」

 

「ではサントス、一旦クールダウンがてら聞き手になってくれないか?」

 笹本の呼びかけにサントスは意外と素直だ。早速笹本のデスクに集まる。これに叢雲と各務原、そして意味も無くナオミも集まってくる。

「ハハ。何でも聞いてやるぞ。私はお姉さんなのだからな!ハハハ」

 ナオミは容赦なく夫のDJフレデリックまで3Dホログラムで呼び出し聞き手を増やしてきた。尚、ナオミの夫の名前はフレデリック・ケイジであるが誰もそうは呼んでいない。「今日のお経のDJフレデリック」が彼の通り名で、自分自身『DJと呼んでくれ』と胸を張っている。


 騒がしいのが二人ばかりいるが仕方がない。笹本は作戦概要を伝えた。

「作戦の初っ端はここ。ケンタウルス座αリギル・ケンタウリから始めよう」

「小耳に挟んでしまって恐縮ですが、そこは航行も大変な位に恒星風が吹いていますよ」

 解説をくれたのは航海長のフセイン・ゼルコウトだ。このような意見は本当に助かる。

 

「はい。その恒星風が吹く中、虎の子の高速戦艦に補給の真似事をして貰います」

「高速戦艦の船団長達は『やれ』と言われたらやってはくれますね。下手したら今日からドザえもんとプリティキャッスル見るの禁止って言えば砂を嚙みながらもそうしてくれるでしょう」

 よく高速戦艦に移乗している叢雲が答えた。しかし高速戦艦から筆頭になりそうな人物は居ないようだ。これは高速戦艦が戦艦より攻撃力と防御力が低い為、戦艦の船団長に比べ従順で内向的な人物が向いているからだというデータがあるのも原因だろう。その内向的な者達にえらく無理と負担を強いてはいるのだが。


「アニメでそうなるかなぁ?まあいいや。僕らは風上で隠れていなくてはいけないんだけど」

「それでしたら1-2.5、小惑星帯が有ります。ここなら恒星風も受けにくいかもしれませんね」

「おお、助かります」

「ハハ、プリティキャッスル見れないなんて生きているのが辛いな。ハハハ」

「妻の曇った顔なんか見たくないから俺も辛いぜ」

「おお。同志達よ」

 

 話が勝手に別の方向にも盛り上がっているが笹本はあまり気にしてはいない。締まる所は締まる人達だと知っているからだ。

 

「高速戦艦を敵に襲って貰って、高速戦艦が逃げたら出てきて一撃浴びせなくてはいけないんだ」

「隕石ぶつけましょう」

 叢雲が答える。ほらね。次に進むと叢雲は最低でも帰って来るのだ。と、笹本はご満悦だ。

「やっぱりそうなるよね」

「隕石にナハトドンナー大量に仕込んで吹き飛ばせば更に斬新ですね。従来比20%程」

「ハハ。悪くは無いな。で?何の従来比?」

「幾つ用意できるかな?」


 笹本は各務原に向き直って聞いた。

 隕石に装着するエンジンもナハトドンナーもただではない。

「イトカワ級小天体なら60個。これ以上はちょっと」

 各務原がすんなり答える。スターク氏のお陰で資金が潤沢な様子だ。

「そんなに要らないよ。何その隕石突撃?その半分で構いません」

「おや?そうですか」

「ええ。代わりに燃料補給の真似事に使う燃料ポットに遠隔操作式爆弾設置したいので」


 「うわ。悪辣だな!そりゃ敵からペテン師呼ばわりもされるな」

 3Dホログラム越しのDJフレデリックが笑い飛ばす。


「罠と疑わないで接近するなんて、本当に有ったら笑うな。ハハハ」

 ナオミが緩やかに笑う。

 「近寄るか寄らないか。これはシュレディンガーの補給ポットですね」

「近寄ると思うな」

 叢雲のボケみたいな物に構わずサントスが答える。

「色々配給制みたいだもの。物資なら何でも欲しい筈だよ」

「僕もそう思っています。一人くらい狩れそうかな」


「ハハ。狩っても捕虜に出来なくては何度でも出てくるじゃないか」

「そうです。それが12艦隊の相手側の強みです。どんなに大場一家が強いからと言って、寡兵敵するものではありません。それに、大場一家が虜囚にでもなったら士気は大幅低下するでしょう。そんな所に大場一家を送り出せません」

「そりゃあそうだな。オレだってそのフロンティアには飛び込めねえ」

 DJフレデリックの言い様も尤もだ。笹本はニッコリして返した。

「そうでしょうそうでしょう。だから逃げまくってターンポイントを探します」

 

「それを外交組が探している訳ですか」

 叢雲の質問に笹本が気さくに答える。

「そうなんだ。まあ手の内だと思うよ。今交戦中の石炭袋まで136光年逃げ惑うのも」

 

 石炭袋というのはオーストラリア領の暗黒星雲の事だ。現在ここで南アフリカ共和国の呼びかけに応じた各国『多国籍軍』が公国軍と交戦している。

 しかしここに持ってくるなんてなすり付け感が尋常なさすぎるし、遠すぎる。笹本としては何としても外交チームに成功して欲しいのだ。

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