第56話 Operation BABEL 2

「サントス、テプラーにはどんどん突撃させてください。主砲斉射のタイミングもサントスに任せます」

「分かったよケンジ」

「ナオミさん。この艦だけ前照灯の色変えてください。カラフルなのが良いです」

「ハハ。目立つけど良いのか?」

「目立たせるんですよ」

「ハハ。任せろ」

 前照灯はピンクに。周囲の警告灯を虹の七色にさせ始める旗艦。すり鉢陣形の真ん中奥寄りに居る。思った以上の派手さだ。

 

「間もなく視認可能です」

 各務原かがみはらから報告が上がり、敵艦隊が視認される。堂々たる紡垂陣形は突撃にはうってつけの陣形だ。


「また突撃か」

「私には脅威に見えるわ」

 笹本の呟きに答えたのはエチエンヌ・ユボーだった。普段隣に居る叢雲は先ほど高速戦艦と軽巡洋艦で構成された左翼分隊の指揮に向かった。

「そうかなぁ?テプラーさんには悪いけど、第6に来たら参謀の役職も与えられないよ。エチエンヌさんの方がまだ理屈が通る指揮をしています」

 エチエンヌは笹本をチラリと睨み、素に戻って続けた。

「ケンジサン、相手は6万隻、こちらはやっと5万隻なのよ。やりたい事は読めているけど巧くやれて?」

「テプラーが相手なら。やれますよ」


「敵艦、斉射来ます!」

 各務原の声に応えるのはサントスだ。

「小天体の裏に待避!」

 ビームによる斉射が全てかわせる訳ではない。特に今回の作戦ではこのすり鉢陣形は被害者担当だ。

「損壊105沈没22、死亡判定は有りません」

「皆避けるの上手くなったね、ご機嫌だね」

 サントスはまあまあの戦果に気を良くした。

「うん、よろしい。斉射をお返ししてやろう」

 サントスの柔らかい号令に応えて、すり鉢陣形から斉射が始まる。小天体も待避場所も用意していない敵艦が次々吹き飛ぶが、これらの艦船に人は搭乗していない。どうせ旗艦にしか人は乗っていないのだ。


 一方すり鉢陣地の中心にいる旗艦チェリーブロッサム号は目立つように前照灯などを細工していたが、ウルシュラが何か更に小細工を追加したようで、艦の上に堂々と笹本のエンブレムが3Dホログラムで浮かび上がっている。バカ目立ちな上に悪目立ちである。

 テプラー艦隊がそれに面白いように集まってひしめき合っては破壊されていく。サントスもこれが集まるのに呼応し、中央部のすり鉢を深くし直していく。

「では叢雲さん、みぞれさん。円筒状に囲って敵の側方を抑え込んで。航宙隊は今こそ出撃。背後に回ってください。良いか?テプラーの旗艦に攻撃はするなよ」

 各艦船や航宙機が笹本やサントスの指揮のもと動き出す。叢雲の動きは素早いが、霙は今回が初めての指揮官だ。ぎこちない所もあるが叢雲がやるようにやれば良いと気付いたようで、ワンテンポ遅れて実行してくれている。なにぶん戦う事には天性の勘が働くようだ。

 更に航宙機隊があっという間に後方に回り込む。何もない宇宙空間でテプラーの艦隊はいつの間にか少数の敵にすっぽり包囲されたのだ。

 テプラー自身あまりやった事のないだろう宇宙円陣に艦隊の編成を改め、防戦に勤しむ。しかしどこかに弱い箇所が無いものかと盛んに飛び出して一点突破を図る。

「おやまあ。テプラーさんはパウルスよりは優秀でしたか」

 パウルスというのはこの戦いのモチーフになっている『カンネーの戦い』においてハンニバルが敷いた両翼機動陣に嵌まり、命を落とした共和制ローマの執政官にして将軍の名前だ。パウルスはなす術無く全滅したが、テプラーは反撃に転じる気は有るようだ。

「船には誰も乗って無いから恐怖心は少ないさ」

 サントスが答える。意外と評価辛めだ。

 笹本にとって、陣の中で多少暴れたからと言ってどうという事は無い。次なる刺客は放たれているのだ。


「カミカゼガール、まかり通ーる!」

 相変わらず10隻の揚陸艦を突っ込ませた小島鼎が、全艦放送で叫ぶ。ハウリングまで起こして耳が痛むが、気合いは伝わった。

「ならばあれね。スナイパーマム、推して参ります」

「はは。サムライダディ、出る!」

「なんだそりゃとーちゃんかーちゃん。でも付き合うよ。サムライキッズ、行きまーす!」

 テレポーターゲートを超えて大場家が向かう先はテプラー艦隊の旗艦以外には無い。

 テプラー以下敵の生け捕りをけしかけたのだ。


 前回やり過ぎでドン引きされた霰さんは武装にウルシュラが作ったテーザーマシンガンを装備している。当たると敵が昏倒する電撃が走る弾丸を次々放つ武器だ。そのような武装の変更とは関係無くマーダーとして恐れられているのだが。霰は背を向けて逃げる敵を背後から片付け、AI歩兵が粛々と連行し続けた。

 

 今回脚光を浴びたのはサムライダディこと忠道さんだ。

 次々と峰打ちで敵を狩る見事な剣捌きと抵抗する敵が放つ銃撃を、ライトアーマーではなく刀で弾く見事さはハイライトの一番人気だ。そこに3人の剣士が現れる。剣士は問答無用で斬りかかる。

 「ほう、やる気かね?」

 3人の攻撃をいなした忠道が中段かすみの構えで迎える。忠道は決して振りかぶった姿勢を取らない。その理由が一人目の敵の剣士で明らかになる。

 振りかぶってきた剣士が剣を機密ハッチの鴨居にぶつけ一瞬隙が生じた。その刹那せつなを見逃さず胴を取って一人目が突っ伏す。既に意識はない。

 二人目の袈裟斬りを紙一重で躱し、三人目のサイドスイングに刀を当てた瞬間に懐に飛び込み頭突きを食らわせ怯んだ隙に刀のつかで顔面を殴打。3人目が倒れた。


 2人目はどうやらかなりの剛の者なようだ。忠道と何合かやり合っている。

「やいジャップ、突きには弱いだろ」

 剣士の言い様に忠道は答えない。会話は禁止されているからだ。ウイルスバベルが効果が有るように見せる為だ。答える代わりに刺突をいなし、肘鉄を鼻先に叩きつけて相手を堕とした。

「死中に活を見出したいなら前に出るのもまた一興なのだよ。さてと勝ち名乗りでもしておこうか」

 忠道は大きく息を吸って刀を構え直して宣言した。

「うむ。大場重工業元社長、大場忠道、剣士3名、討ち取った」


 勝ち名乗りに艦内が大騒ぎしているさ中、艦橋ブリッジには別の激震が走っていた。

「今まで見た事無いんだよね。これなんだか分かるかい笹本君」

 提督テプラーのエンブレムが消えているのではなく赤い斜線がついて、色が白黒になっている。

 これが何を意味しているのか分からない。

 

 一方銃剣の雄哉と母霰はほぼ同時に敵艦隊の艦橋ブリッジに辿り着いた。そこで霰が見た物は衝撃映像だった。意気消沈したブリッジ乗員と自らの口に銃弾を撃ち込んだテプラーだった。

「わざわざ緊急脱出テレポーター切りやがったわね。雄哉は見るの禁止よ」

「こりゃ18禁以上の話だわ」

 敗北が悔しかったのだろう。帰還してももはや行き場が無かったのだろう。テプラーは簡単に自決を選んだ。降伏した敵方を連行し、追い付いたAI歩兵が遺体を運び出した。

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