未完の英雄譚(サーガ)はうたわれる〜戻ってきた元英雄は世界の歴史を変えに行く〜

寺音

第1話 文句の一つも言いたくなるわ!

「突然お呼び立てして申し訳ございません」

 竪琴の音のような流麗な声が響き渡る。目の前には、眩い真っ白な空間の中で佇む一人の女。黄金色の波打つ長髪に、伏せられた長い睫毛まつげ。真っ白な服装は著名な画家が書いた宗教画に出てくる女神様そのもの、というか、マジでコイツは女神なんだよな。

 瞳を閉じたまま、女神は俺に向かって厳かな雰囲気で話を続ける。


「貴方を呼んだのは、貴方の住む世界とは別の世界、つまり異世界を滅びから救っていただくため。貴方にはその力があります」

 睫毛まつげが震え、目蓋がゆっくりと持ち上がる。アクアマリンのような瞳が、俺たちに向けられた。

「どうかお願いです。世界を、そしてそこに生きる数多の命を救って――うへぴゃあい!?」


 突然、女が表現しがたい奇声を発して飛び上がった。唇を戦慄かせ、怯えたような眼差しで見つめているのは、そうだな、間違いなく俺の顔だ。


「どどどどど、どうして貴方が」

「どうもこうもねぇぞ、このポンコツ女神が!? てめぇのせいで、俺がどれだけ遠回りしたと思ってんだ、アァ!?」

 せっかく女神っぽい雰囲気作りを頑張っていたところで、悪りぃな。


 俺の横に立っている、いかにも真面目そうな好青年くんは、ポカンと口を開いて固まっている。

 そりゃそうだろうよ。突然訳のわからないところに呼び出されて、訳の分からないヤツに訳の分からないことを言われたんだしな。

 しかも、自分に勝手にくっついてきた人相の悪い男が、女神っぽいやつとなんだかんだ言い争い始めたら、余計に混乱するよな。

 だが、悪い。こちとらそれどころじゃねぇんだわ。


「言いたいことは山ほどあるが……今度こそ間違いなく、俺の目的を果たさせてもらうからな!」

 俺は剃るのをサボっていた顎ひげを撫でながら、唇の端をニタリと釣り上げた。

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