第92話 連携の力(新たな騒動の元)

「こんにちわー」


 ダンジョンの入り口にやって来た私は、知った顔の冒険者達に挨拶する。


「おー、嬢ちゃんか。今日は俺達と組むかー?」


 すると彼等も厳つい笑顔で私に声を掛けてくれる。


「ありがとうございます! でも今日は新人の人達と組む約束をしてるんです」


「そりゃ残念だ。また俺達と組んでくれよ」


「よろこんでー」


 あれから私はルドラアースとエーフェアースのそれぞれの世界で野良パーティを組んでダンジョン探索を続けていた。

 そして色々な人達と組むことで、私も多くの学びを得る事が出来ていた。

 世界の違いによる探索者と冒険者が重視する部分の違いも肌で感じる事が出来た。

 そして年齢、生まれ、扱う技術の違いによる立ち回りの違いなども。


 そうして様々な学びを得た事で、私は多くのスキルを取得する事に成功していた。

仲間との連携を容易にする『中級連携』スキル。

仲間との連携攻撃の威力を増す『中級連携攻撃』スキル。

同じく仲間との魔法の連携威力を増す『中級連携魔法』スキルといった具合に。


 他にも新人冒険者達と組んで冒険を繰り返した事で『初級指揮』スキルも取得する事が出来た。

 このスキルは戦場を見て的確な指揮を出しやすくなり、部下を統率しやすくなるスキルとの事だった。

 リドターンさんの話だと『初級指揮』は1パーティから数パーティの指揮ができ、『中級指揮』は騎士団といった数百人単位の指揮を繰り返すと取得できるとの事。


 ちなみに『上級指揮』は歴史の本に乗るような伝説の大軍師クラスの人でようやく取得できたらしい。

 らしいというのは昔の話なので、実際にはいろいろと話を盛っていたんじゃないかってね。

 んで数を盛ると当然対応する指揮スキルも盛られる訳で、案外昔話に語られるような伝説のスキルはそうして出来上がったデタラメの可能性もあるのだとか。


 おっと話が逸れた。

 こんな感じで私は便利なチームスキルを取得したけど、その中でも一番便利だったのは『初級部隊強化』というパーティを強化するスキルだった。

 これは文字通りパーティ全体を強化するスキルで、ルドラアースで覚えた補助魔法を妖精の魔力にあかして連発していたら覚えたんだよね。


 このスキルは野良パーティを組んだパーティの人達皆に好評で、ぜひ本格的にパーティに入ってほしいって勧誘されちゃったよ。

 まぁ先約があるからって断ったけど。


 ともあれ、そんな感じで私も大分他人と組んで戦うことが上手くなってきたのです。


「ふふん、これは一流冒険者になる日も近いかな?」


「とか言ってると足元掬われるよー」


「むむっ」


 良い感じに実力がついてきたと思ったら、リューリから冷や水ぶっ掛けられるようなツッコミが入る。


「調子に乗ってる時ほど危ないってあのお爺ちゃん達も言ってたでしょー」


「……まぁね」


 はい、思いっきり言われました。常に油断するべからずと。


「まぁ私が居るからなーんにも心配いらないんだけどね!」


 それは思いっきり油断してる人間のセリフでは? と思わないでもないんだけど、なんだかんだでリューリも強くなっていたりする。

 ルドラアースでの戦いではリューリのレベルも上がっており、更に呪文を唱えるだけで魔法が発動する事を面白がって図書館でいくつか興味を持った魔法を覚えたらしいんだよね。

 そんな訳でリューリも着実に強くなっていたのだ。


「よーし、それじゃあ今日の冒険に合流だー!」


「おー!」


 ◆とある冒険者達◆


「今日も嬢ちゃんは元気だねぇ」


 アユミ、そう名乗った嬢ちゃんがダンジョンの野良パーティに加わるようになって、町の冒険者達の空気は変わった。

 最初は背伸びした貴族のお嬢様の遊びかと苦笑した俺達だったが、嬢ちゃんの強さは本物だった。

 確かに貴族なら戦闘の教育も受けられるから、若くとも強い奴はいる。


 だがあの嬢ちゃんの強さは別格だった。

 まず動きが違う。

 単純に早く、単純に力が強い。

 戦い方を学んだからじゃない。技術じゃなくシンプルに大人顔負けの強さ。


 そしてスキルの多さは異常だ。あの幼さでどれだけスキルを持っているのか。

 更に覚えも良い。

 野良パーティに参加し、よくない部分を指摘されたらすぐに直す。

 自分でも不足を感じたら、次のパーティに参加する時には更に強くなっていた。

 単純な個人の強さだけじゃない。俺達との連携もという意味でだ。


 普通の子供じゃない。

 いやまぁ、背中に生えた羽の時点で普通じゃないんだが、最初はマジックアイテムかと思ってたんだよなぁ。

 でも一緒に居る妖精が姫様って呼んでたし、つまりそういう事なんだろうな。

 だから俺達はその事には気づかないふりをした。

 ただの冒険者仲間だと、納得する事にした。


 何故か? それは単純だ。

 あの嬢ちゃんと一緒に居るとダンジョン探索が滅茶苦茶楽になるからだ。

 最初は何故か分からなかった。だが気付いた。それはスキルだ。

 あの嬢ちゃんは一流の指揮官が持つような指揮スキルを取得していて、しかも俺達パーティメンバーの力を強めるというとんでもないスキルまで持っていたんだ。

 そりゃあ魔物との戦いが楽になる訳だ。


 なもんで俺達は嬢ちゃんと今後もパーティを組みたいと勧誘したが、嬢ちゃんは頑として固定のパーティを組むのは拒否した。

 どうも一緒に冒険する予定の仲間がいるらしい。

 残念だが諦めるしかない。

 俺達冒険者は切り替えが早くないと生き残れないからだ。


 あとは、あれだな。嬢ちゃんに嫌われたくねぇ。

 俺達ゃはぐれ者で流れ者の冒険者だ。

 だから女子供には怖がられる。

 けどなぁ、あの嬢ちゃんは俺達を見ても全然怖がらねぇんだよな。

 だもんで、いい年して子供のいねぇおっさんや爺さん達には孫みたいに可愛がられてるんだ。

 こないだも菓子貰ってたしな。

 まぁつまりなんだ、皆あの嬢ちゃんが可愛いんだわ。


「……」


 だからこそ、嬢ちゃんの力を悪用しようなんて連中が居たら、俺達は見過ごすことが出来ねぇんだわ。


「……」


 嬢ちゃんから離れた位置にいる冒険者パーティが、しかし明らかにその後を追うようにダンジョンに入っていった。


あいつ等は最近この町に来た連中だな。


「……コクリ」


「……コクリ」


 俺達はなじみの冒険者達と無言で頷き合うと、ダンジョンに潜ってゆく。

 また他の冒険者達が俺達を追い抜いていくときに、そっと合図を送ってくる。


『素行悪し、排除されたし』


 そのまま合図を送って来た連中は何ごともなかったかのように別のルートへと消えていった。


「成程、アイツ等は始末していいって事か」


 冒険者にもルールがある。

 それは非常にシンプルな内容で、カタギに手を出すな。冒険者の名を汚すな、の二つだ。

 俺達冒険者は危険な力を持った流れ者だ。

 だからこそ、何かあった時には自分達でケジメを付けないといけない。


 そして排除まで許可されたって事は、アイツ等は他の町でもやらかして流れてきた本当の意味での流れ者って事だ。

 おそらく嬢ちゃんを捕まえてそのスキルを自分達の為だけに使わせようって輩だろうさ。


「おっし、それじゃあゴミ掃除といきますか」


「「「「おう!」」」」


 俺達は静かに、しかし迅速にゴミ掃除をする為に動き出した。


「ところで知ってるか? ギルドの支部長もあの嬢ちゃんにこっそり菓子をやる為に現役の振りしてダンジョン広場に行ってるらしいぜ」


「マジかよ!?」


 思いっきり権力者に気に入られてんじゃん!

 この仕事私情入ってねぇよなギルド長!?

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