第85話 少女のうっかりとスキルの取得法(まぁ派手にやりますか)

「あっっ、ぶなかったぁぁぁぁ」


 私は、人影のないダンジョンの中で安堵の声を上げる。


「あ、あれ? 他の人達は!?」


 対してアートさんは困惑の声を上げた。

 それもその筈、今まさに私達を押しつぶさんとしていた探索者達の姿が無くなっていたのだから。


「これは……」


「もしやアユミ様の?」


 はい正解、新たに追加されたステータス機能『階層移動』の能力で別の階層に脱出しました。

 いやー、新しい力に目覚めてよかった!


 そして私の能力を知らないアートさん達は、突然人が居なくなったと困惑している訳です。


「流石に危なかったので、一旦別の階層に逃げました」


「逃げた!? どうやって!?」


「それは……」


「お待ちください。まずは彼女のお喋りな『はいしん』の精霊を止めるべきなのでは?」


っと、そうだった。


「アートさん、配信止めて」


「は、はい!」


エーネシウさんの咄嗟の機転に助けられた私は、アートさんに配信を止める様に頼むと、アートさんは慌てて懐から取り出したスマホのようなものを操作しだす。。

うん、あんな機械を操作しだしたって事は、もう疑いの余地はないね。

彼女は何らかの手段を使って私達との会話を『動画配信』していたらしい。


「えっと、これで配信は終わりました」


「それが配信機材? スマホじゃないの?」


「はい、これはダンジョン用のスマホ『Dホン』です。これで配信が出来るんです」


「「「でぃーほん」」」


「でも配信用のカメラは?」


 そう、彼女を移すカメラがないから、私も彼女が配信者だとは思わなかったんだよね。


「それはDホンの魔法撮影機能です。この首元に付けたアクセサリが位置設定用のマーカーになってて、カメラに内蔵された魔法が周囲の光景を光学映像として撮影しているんです」


 そう言って首に巻き付けたチョーカーのような物を指差すあーつぁん。


「ほえー、最近のスマホすっごいなー」


 成程、魔法で撮影してるのか。そりゃ撮影用のカメラが無い訳だ。

 この世界、魔法のお陰で私が生きていた時代よりも文明が進んでるんだなぁ。

未来のスマホってホント凄いな。


「あの……もしかしてアユミさんてDホンの事知りませんでした?」


「うん、知らなかった」


 いやマジで魔法でカメラ不要の撮影とか、思いもしなかったわ。

 お陰でリューリの精霊発言を真に受けちゃったよ。


「も、ももも申し訳ありませんでしたぁぁぁぁ!」


 で、前回の冒頭に戻る訳。


「まさかアユミさんがDホンの事を知らないなんて思ってなくて……」


 アートさん曰く、さっきみたいに虚空に向けて話しかけていれば、大抵の人はああ、配信中なんだなって思うのだとか。


「でもそれでも事前に言ってくれればこんな事にならなかったと思うんですけど」


「その、これもアユミさんは知らなかったんだと思いますけど、探索者の間でパーティを組むって、一緒に配信するって意味なんです」


 え、マジか。


「それもやっぱり……」


「知らなかったです」


「ですよねぇ」


 どうやらアートさんはパーティを組む=配信許可って意味で考えていたらしい。というかこの世界ではそれが当たり前の認識なのだとか。


「でも配信を嫌がる人もいるんじゃない?」


「そういう人はパーティを組む前に配信は嫌って言いますから。でも普通はダンジョン内で想定外の自体に陥る事が内容に、配信はほぼ必須なんです」


「配信が必須? 何でまた?」


 すると、アートさんは配信をする事は探索者がこれからダンジョンに潜る事を外の人に周知する事に繋がり、格上に襲われた時や緊急時に迅速に救助隊を組んで貰えるメリットがあると教えてくれた。


「私とアユミ様が初めて出会った時も、私がブルーリトルゴブリンに襲われた際に視聴者の皆がダンジョン協会に通報してくれたんですよ」


「成る程ねぇ。配信がいざと言う時のセーフティネットになってる訳だ」


「切羽詰まった戦闘中だと連絡する余裕もないですからね」


 確かに安全圏から見てる人が通報してくれるのが一番確実だもんね。


「本当に、すみませんでした……相手から配信について言われなくても確認を取るのは大事だって初心者講習で言われてたのに……」


 ちなこれは後から聞いた事だけど、この確認に関しては怠っても罰則がない為、なかば形骸化してて守ってる人は殆ど居ないとの事だった。

 まぁだからと言って怠ったのはよくないんだけどね。


「本当にごめんなさい」


「まぁ知られちゃったのは仕方ないですね」


「こうなると今日はもう探索どころじゃないですね。一旦地上に戻って解散……は無理か」


「間違いなく入り口で待ち構えているでしょうね」


 うん、フレイさんの言う通りだ。


「私達は良いけど、アートさんは……」


 流石に家に帰れないと困るよなぁ。


「……いまメールを確認したら、学校のクラスメートや部活の先輩後輩からすっごい量のメールが来てました」


 プルプルと震えながら、アートさんが顔を青くしている。

 うん、これは家に帰るのは無理だね。

となると、ほとぼりが冷めるまで隠れていた方が良いか。


「ふむ」


 私は心の中で考えを纏める。

 探索者達はじきにここにやってくるだろう。

 下層に逃げるにしても、私達の実力だとどこまで潜れるか分からない。


それに先ほど階段で待ち構えていた探索者に追いつかれるだろう。

彼等の実力は私達よりも上だった。少なくとも私にはそう感じられた。

 妖精合体で全力を出せばやり合えたかもしれないけど、敵でもない相手と全力で戦う訳にはいかないもんね。


 そうなると残る手段は転移スキルでエーフェアースに転移する事だ。

 でも、それをすると今度はスキルどころか異世界の存在までアートさんにバレてしまう。

 果たしてそれがどんな問題を引き起こすか……


「うーん……」


 アートさんに向こうの世界を教えた場合のデメリット……


「まぁいいや」


 私は考える事を辞める。

 どのみち今は逃げるしかないんだ。ここでいつまでも悩んでいたらホントに追手がやって来ちゃう。

 この状況でアートさんを置いて私達だけ逃げたら、アートさんが他変な目に遭うのは間違いない。

 それこそ漫画や映画でよくある本当に何も知らない主人公が「知っている事を吐けー」とか言われながら拷問とかされかねない。


 あとはまぁ、仮にアートさんが言いふらしたとしても、現時点では私が居ないと向こうの世界に転移出来ない訳だし、それこそ転移で逃げればいいか。

んで、暫くは向こうの世界のダンジョンメインで巡って、こっちの世界はほとぼりが冷めた頃に戻ってくればいい。


「よし、方針決まった! とりあえずアートさんは親御さんを心配させない為に友達の家に泊まるって連絡しておいてください!」

「わ、分かりました!」


 ◆


「何これぇ……」


 ダンジョンを脱出して町にやって来たアートさんは茫然としていた。

 それもその筈、いま彼女が見ている町の光景は、彼女が生まれた頃から慣れ親しんだ現代の町並みではなく、いかにもファンタジーな街並みなのだから。


「とりあえずリドターンさん達に事情を説明して何かいいアイデアが無いか力を貸してもらおう」


「ですね」


「それが宜しいかと。わたくし達も修行の途中で転移してしまいましたし」


「ほぇ~」


「じゃあ行きましょうか」


 私は茫然としているアートさんの手を引っ張ると、彼女が我に返る。


「はっ!? アユミさん! これっていったいどういう事なんですか!? ここは一体どこなんですか!? まるでファンタ……」


「はいはい、それも全部後で説明しますからね」


矢継ぎ早に質問してくるアートさんを強引に黙らせると、私達はリドターンさん達が拠点にしている宿へと向かうのだった。

 ……さて、私も覚悟を決めないとなぁ。


 ◆


「という訳で皆さんと共に戦ったあの町は異世界の町だったんです」


「「「「「「「「……」」」」」」」


 リドターンさん達の元に戻って来た私は今回の説明をする前に大事な話をする事にした。

 それはズバリ、転移で移動していたのは同じ世界の町ではなく、異世界の町だったという事をだ。


 話を聞き終わった皆は、じっと黙っている。

 何故私がこんな話をしたかと言うと、それはアートさんが問題だったからだ。

 ファンタジーの住人であるリドターンさん達だったら遠い土地にあんな町があるんだろうなって納得してくれただろうけど、アートさんの世界は私が過去に暮らしていた世界……より多分科学技術は上だ。


 となると向こうの世界にエーフェアースのようなファンタジーな町はないと知っていておかしくない。

 何しろネットがあるんだ、世界の裏側の国の情報だって簡単にパソコンやスマホで調べる事が出来るもんね。

 なお唯一事情を知ってるリューリだけは、驚いた様子もなくマイペースにお菓子を食べていた。


「アユミ殿が異世界人……」


「まさかそんな事が……」


「やっぱりここは異世界!? ですよね! こんな光景世界のどこにもないですもん! ドッキリだとしたらどれだけお金かけてんだよって感じですもんね!」


 困惑するフレイさん達に対し、アートさんは割とあっさり受け入れてくれた。

 この辺り、私の生きていた時代と同じでファンタジーな創作物に溢れていた現代人ならではの順応性だなぁ。


「……」


 しかし、フレイさん達が驚いているのに対し、リドターンさん達は全く反応が無かった。


「あ、あの……驚かないんですか?」


「うむ、知っていたからな」


「え?」


 知っていた? 一体何を?


「アユミと一緒に行った世界がこの世の場所ではないと俺達はとっくに知ってたよ」


「え、ええーっ!? マジで!? 一体いつから!?」


 お爺ちゃん達からのまさかのカミングアウト。

 うっそ、何で分かったの!?


「魔物の大発生から戻って来た時からですね。あの時から私達はアユミさんが普通の人間でないと気づいていましたよ」


「まぁこの話を聞くまでは、妖精の世界に連れていかれたと思っていたがな」


「まぁ異世界も妖精の世界もそう大差なかったがな! わっはっはっ」


 と、リドターンさん達はとっくに自分達が異世界に転移していた事は知っていたと、何でもない様に語る。マジかよ。


「どうやって分かったんですか?」


「レベルが上がったからじゃな。アレで儂等は自分達が見知らぬ未知の世界に連れてこられたと気付いた」


 な、なるほどぉ~、レベルアップのメッセージが原因かぁ。

 言われてみればあっちの世界で戦ったんだもん。そりゃレベルも上がるよね。


「あっ、そうなるとアートさんもスキルを取得する事が出来るかもしれないんだ」


「「「「ほう!」」」」


 と、突然リドターンさん達が楽しそうな顔になる。


「アユミはそちらの異世界の少女も鍛えるつもりなのか?」


「え、あ、はい。一応仲間になったので」


「一応じゃなくてガッツリ仲間ですー!」


 という事らしいです。


「ふむ、異世界人を修行ですか。面白そうですね。どこまで厳しい修行に耐えらえるのか非常に楽しみです」


「異世界人を弟子にすれば、異世界人の知識も入手しやすくなるな」


「異世界人社会の道具も仕入れも頼めそうだな」


「お前達、何を言っている。まずは異世界人のスキルからだろう」


 ……いかん、アカン人達に会わせてしまったかもしれない。


「あ、あの、なんか凄く不穏な事言われてる気がするんですけど……」


 強く生きてくださいアートさん。合唱……


「ああそうだ。スキルの件に関してだがな、我々に良い考えがある……」


「「「「え?」」」」


◆アート◆


「皆こんにちわー! アートだよー!」


 渡したが元気よく声をあげると、コメント欄があっという間に埋まる。


『配信キタ!』

『待ってた!情報はよ!』

『スキルの事教えて!』

『アートさん我々のギルドと契約しませんか!』

『↑抜け駆け止めろ』


 コメント欄は予想通りスキルについての質問一色。

 何割かは自分達のパーティと秘密裏に交渉してスキルについての情報を独占しようという人達だ。

けどこのあたりは予想通り、というか皆で話し合って多分こうなるだろうなって予測された内容。


「うん、スキルに関して色々聞きたいよね。でもそれを私に聞かれても答えようがないんだよね。だってそれについて知ってるのは……」


「私達だからね」


 そう言って会話に入って来たのは、我等がリーダーアユミ様と、妖精のリューリちゃん。


『アユミ様キタ!』


『これでかつる!』


『妖精騎士姫様キター!』


『妖精姫騎士じゃないの何で?』


『そりゃ妖精の常識と人間の常識は違うからだろ』


『そんな事どうでもいいからスキルについての情報プリーズ!』


『止めろ! それがどれだけ重要なアドバンテージになるのかわからないのか! しかるべきギルドと契約して有効利用できる者達で試験運用するべきだ!』


『トップランカーにもなれない二流ギルド乙』


 コメント欄から、契約を連呼する人達はトップランカーに慣れない半端なランキングの人達がスキルを独占して上位に上がりたがってるんじゃないかと推測している。

確かに個別んコンタクトを取ろうとしているギルドやパーティは幾つかいるみたいだけど、人によってスキルの取り扱いに関するスタンスが違うのが感じ取れる。


 まぁ私には詳しい事はよくわからないんだけど、アユミ様や彼女のお師匠であるイケお爺さん達との話じゃ、スキルを独占したがる人達が騒ぐのは間違いないって言ってたから、この人達がそうなんだろうね。


「えっと、これで皆に見えてるの?」


「はい、ちゃんと皆に伝わってますよ」


 でもそんな会話もDホンを持っていないアユミ様には全く無意味な要請な訳で、それがちょっと面白い。


『あれ? アユミ様コメント見れないの?』


「えっと、アユミ様はDホンを持ってないので、配信の事は知らなかったんです」


『ま!? そんな純粋培養な生き物が実在したの!?』


『野生の妖精だよ、文明の利器なんて知ってるわけないだろ』


 皆キレッキレのレスバしてるなぁ。

 私も皆みたいなリアクション芸出来る様にならないとね。


「ではアユミ様、よろしくお願いします!」


「はいはい。じゃあスキルについてだけど」


『ドキドキ』


『土器土器』


「スキルというのは私達妖精が認めた人間だけが使えるようになる力です」


『おおおおおおおおっ!』


『不思議な妖精パゥワー来たぁぁぁぁ!』


『それでどうやったら使えるようになるんだよ!』


『あれ? 確か前回の配信の時の子が何度も使うって言ってた筈だけど、それだとあれはどういう事?』


『そうだよ! 俺めっちゃ同じ魔法使いまくってフラフラになったんだぞ!』


 興奮しすぎて、一部のコメント欄の言葉が荒くなる。

 まぁアユミ様には見えてないんだけどね。


「具体的には、私達が気にいった人間を妖精の国に連れて行って、スキルが使えるよう訓練させてあげるって感じかな。ただし、連れていくには条件があるけどね」


『条件? 妖精に気に入られるって時点で結構難易度高くない?』


『少なくともさっきから契約契約言ったり恫喝まがいの発言してる奴らはアウトだな』


 この時点で、アユミ様達へ恫喝まがいの事をしたり、追いかけまわしたらスキルを覚える事が出来なくなると分かり、コメント欄が大人しくなってゆく。


「アユミ様、その条件と言うのは?」


 私はアユミ様に続きを促す。


「うん、次の条件は、妖精一人につき、スキルを教えて貰えるのは1パーティまで」


『え? どういう事?』


『一匹の妖精で1パーティだけ? んじゃパーティの共同体であるギルド全体じゃスキルを覚えられないって事? 妖精と遭遇したパーティに独占されるって事かよ!』


『いや待て、パーティの人数について言及してない。妖精を探すときにギルド総出で探索すれば行ける筈!』


「って言ってますけど」


「あっ、そういうのはナシね。ズルした子達は全員失格ね」


 私がコメント欄の内容を説明すると、リューリちゃんが両腕をクロスしてバツを作る。


『ぎゃー! 何で言っちゃうのアートちゃん!』

『いや、アートちゃんはアユミ様の側だからやって当然だろ。寧ろ何も知らずにやったら妖精を怒らせて本来スキルを取得できるはずだったパーティまでスキルを取得できなかったところだぞ』

『アートちゃんの慈悲と言う事か』


 いや、そんなつもりはなかったんだけどね。

 単に質問を伝えただけだったんだけど。


「という事だから、もしスキルを取得したかったら、私達以外の妖精を見つけてねー」


「はい、妖精の皆さんからの説明でした。今後はスキルや妖精に関して私達に聞いても一切答えませんから注意してくださいね」


「あんまりうっとうしいと、スキルを覚えさせてあげないんだからね!」


 当の妖精であるリューリさんからしつこくしたらスキルを覚えさせないぞという直接的な脅しを受けて、さっきから煩かった口の悪い人達が一斉に静かになった。


「では今日はこれで。皆さんお疲れ様でしたー!」


 これ以上質問が飛んでくる前にさっさと配信を終えた私は、念のためちゃんと配信が終わっているか確認する。


「よし、ちゃんと切れてる。アユミ様、配信終わりました!」


「お疲れさまー」


 一仕事終えた事で、アユミ様から労いの言葉を頂く。

 はぁ~、超嬉しい!


「これで厄介な追っかけの心配は要らなくなったね」


「ですねー」


 アユミ様の師匠であるイケお爺さん達が授けてくれた追っかけ対策。

 それはスキルを妖精が授けてくれる特別な力だと誤魔化す事だった。


 曰く、どうせ異世界の人間にスキルの詳細は分からないんだから、妖精から授かる力だとでっちあげてしまえばよいと。

 その際、エーネシウさんがスキルの取得方法を語ってしまったので、それを妖精の世界で行う手順だという事にした訳んだよね。


「まさかこんな強引な方法で解決できるなんてねー」


「流石リドターン様達ですわね。彼等の弱みを握るルールを作り出して従わせてしまいましたわ」


 事実、この日以降スキルについて強引に聞き出そうと近づいてくる人達は激減し、それでも近づいてくる人達は、どこから現れた人達によって連行されてしまうのだった。


「あの助けてくれる人達、いつも何処からやってくるんだろう?」


 代わりに新しい謎が出来ました。

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