蘭乱と舞う

山田葦久

第一章:魔界に登場

プロローグ

少女の過去

 この物語を語る前にまず、ある”人間”のことを軽く話そう。


 その人間は、元々ある日『風洞院フウドウイン家』の家の近くに倒れていた。身元のわかるものはなかった。

 病院での検査、性別も男性・女性ホルモンがはっきりと分かるわけでなく、X・Y染色体などの検査でも同様で五十歩百歩な結果だったわけだ。よって、曖昧だが検査上男性の要素が高いことから、現状は男子と定めた。

 しかし、これも因果といえばそのようなものである。

 彼は”前世に愛してはいけない人を愛した”のだから。

 いや、”前世ではない”か。その頃の彼も、今の彼と同じ状態、つまり性別はあっても中性的だったのだ。曖昧な状態での恋。その愛は、純か不純かは…彼がまたいつか決めることだろう。



 というわけで。

 このような、訳有な子供への周りの対応もまた少し”異常”だったのだ。

 例として、

『幼少期から着せる衣は、どの性別でも似合うようなもの。

 髪の長さは少し長めで、どちらの性別でも適した長さ』

 また、この家柄は名門のため、そして事実上は性別が未確定故に、習い事(生花、音楽。そして、経営学にその他諸々)は半分強制で行わせた。身についたことは0に等しいが。

 しかし、彼の保護者たる人物の、対応が以上だったとしても”育て親”としての愛情は芽生えたため、まともな子供にはなった。


 ある年。

 それはちょうど小学校に入学してから三年ほどっ立った頃。これが彼にとって最初で最後と”思われた”人生の分け目と言えるルート、つまり大きな影響を与える波が訪れた。


 入学したばかりの頃は皆同じというような雰囲気で性別が曖昧な彼でも誰も変には思わなかった。

 しかし、それが三年生ほどとなると、皆が人の性別に敏感な年頃になり始める、『第二発育急進期』いわば『思春期』に近しいモノとなるため、体育の授業などでは、男所で別れて着替えるのに対し、着替えるときだけ個別な彼を、皆怪しみ、避け、気持ち悪がり、やはりまともな対応とは言えなくなっていた。

 ある時、同じクラスの少年Aが言う。それは、みんなでサッカーの練習をしているときだった。A君とペアを組んだ彼は、ボールを持ってきて、A君に『パス練習しようよ!』と声をかけた。

 すると、


「お前さ、なんかきしょいんだよね。」

「え…?」

「『え?』じゃなくて。自覚してねぇの? みんな言ってんぜ。お前が『性別わかんないってふりして、先生によく扱ってもらおう』としてんの。」

「…」

「何も言えねぇんじゃん。ダサ、俺、お前なんかと組みたくねぇから。そんなにぶ

ぶりっ子したいんなら、もうちょ可愛くしたら? あ、そっか。お前男だっけ? 

いや、女か? ハハハハッ!」


 そう言って、彼は他の誰かとサッカーを楽しんでいた。

 このときの彼の感情は、冷めきっていた。


―僕が何をしたんだろう、いや、そんなのどうでも良いな。

 もう…嫌だな。僕だってね、本当は気づいてたんだよ、そんなこと。

 でも、信じたかったんだ。信じたかったのに…。

 人間は嫌いだ。すぐ…裏切るから。―


 それでも、何故か彼の瞳には、熱く、熱く熱を帯び、金剛石ダイヤモンドのような輝きのあるシズクが、静かに、頬を伝っていた。そこから彼は、どんどん人間ヒトが嫌いになった。それは、養父達に対しても少しだけ思ってしまう。


 中学に上がり、あまり皆彼の性別事に触れなくなるが、それは”表面”だけだった。彼らは人をどんどん見るようになるため、それと同時に陰口を言い始めるのだ。そうやって、まるで人の穴を探して突く虫けらのように、皆彼をケナした。

 それに伴い、彼もまた、そうやって人間をゴミのように扱い、自分達を棚に上げる者を”クズ”だとか”外道”だとかと、人間として見放した。


 そして、三年の頃。暦は春から夏の中間点である、梅雨時だった。

 ときに、彼に”思春期”が訪れた。それはというと、まぁ普通の人間に起きる心身の成長、つまり、彼のカラダに何らかの”変化”が訪れたわけだ。

 その成長具合からおそらく、彼の性別は女性であった。彼の最ものコンプレックスと言えるものが、消え去ったのだ。しかし、彼は養父たちには伝えなかった。なぜなら、信用していないから。怖かったのだ。たとえ、自分の親代わりだとしても。

 故に、卒業まで、彼は”ソレ”を身内に隠し続けた。


 そして、受験者にとって、桜咲いたか、花びら落ちた頃。とうとう彼は高校に行くということで、卒業式の当日に上京を決めた。しかし、本当はそんな意味で上京したいと決断したわけではない。

 自分を少しでも偽らずに、全てサラけ出せる仲の人間を、彼は求めていたのだ。


 こうして上京した春休みに、二度目の彼の人生の分け目が来るのだが…

 それは別の話。

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