第26話 舞い降りる、ぱんぴ~
「いけ、ぱんぴ~!」
腕に「金剛力」を付与し、ぱんぴ~を思いっきりぶん投げる。
ぶん投げてからしまった、と思った。
あまりの勢いに恐怖してぱんぴ~が泣き出すかも知れない……いや。
「きゃっきゃっきゃ、早いのだ~♪」
杞憂だった。大喜びだ。
しかし、ビーちゃんと魔王の間を狙ったぼくの狙いは、大外れ。
ぱんぴ~はぶん投げた勢いのままに魔王にぶつかり、ゴムボールにぶつかったかのようにひとつ跳ねてから、奇跡的に魔王の手前に落ちる。……チャンス!
「――【
説明しよう。【
魔法発動、と同時、ぱんぴ~はその特性を生かし、見る間にその数を増やす。
従来の【
数を増やしたぱんぴ~が歌劇団もかくやという動きで組み体操で壁を作る。
と、次の瞬間。
ぱんぴ~の壁は、ビーちゃんと魔王を隔てる本物の土壁となって立ち塞がった。
魔王は太陽となって輝いたのは、その直後。
圧倒的な閃光、圧倒的な熱量が、範囲内のすべてを焼き尽くす。
だが、ぱんぴ~の壁はそのすべてを遮った。
濃厚な影の中にクラスメイトを抱き、一陣の熱波のさえ別世界のものとした。
(なかなかいいじゃないか……)
悠々とビーちゃんの前に躍り出る。
「あ、……あなたは?」
びくぅん、と肩が震えた。……びっくり。
(……まだ気を失ってなかったのか)
しかし困ったな、さてなんと名乗ろうか。
誰かに見つかったらさっさと逃げるつもりだったから何も考えてないぞ。
「――春空?」
いきなりバレてる件について!!
ああ、でも目や口の間から見えるか?
「じゅん、び、ばん、たん! ――で、す!」
どうしようかと考えていたら、残りの水を平らげて相撲取りのようにお腹をパンパンに膨らませたにぶるが、のっしのっしとやってきた。
――よし! ……聞かなかったことにしよう。
「いくぞ、にぶる!」
にぶるの頭に手を置き、ありったけの魔力を込める。
相手は、魔王だ。やり過ぎなくらいがちょうどいいはず。
「――【
にぶるが嫌々するように、ぷぃっと首を左から右に回す。
刹那、魔王とその取り巻きを真一文字の空白が横切った。それは、魔王と取り巻きを題材にした絵に、消しゴムを真一文字に走らせたかのようだった。
(や、やばい……)
魔王の遙か後方にある山の頂が、ずずずっ、と音を鳴らすように横滑りする。
いや、山だけではない。
魔王の背景全部……ダンジョンそのものだ。
真一文字に断たれたダンジョンの上部と下部が、ずずずっ、と横にズレたのだ。
(や、やりすぎた?!)
しかし、取り巻きは火の粉なって散るものの、魔王は――流石、魔王だけあってしぶとく耐え、炎の触手を伸ばして、真っ二つになった体を結び合わせようとした。
(復活する!?)
トドメを! しかし、これ以上やるとダンジョンが……、いや、魔王を倒せばどっちみちダンジョンは消滅するのだ。水平なら地上に被害が及ぶこともないはず。……多分。
「ええい、ままよ!」
魔力控えめで魔法を発動。
にぶるは、今度は右から左に首をぷいっとして、また左から右に首をぷいっとした。
超高圧圧縮された水流が、右に左に、左に右に、魔王を行き交う。
同時に、一文字の空白が二度三度と魔王のその巨体をかき消し、6等分に分かつ。
魔王は、断絶した傷口から炎の触手が伸ばし、なおも再生を試みようとした。
魔王の中心に近いほどその試みは成功したが、中心から遠のくほどその試みは失敗に終わり、火の粉を散らして消えていく。
そして、体の半分ほど失った瞬間、魔王の体に決定的な破滅が訪れた。
再生に成功した部位ですら火の粉となって散っていったのだ。
「勝、た、――で、す!」
にぶるが小さくガッツポースをする。
小太りだった体型はいつもの痩せっぽちに戻っていた。
どうやらギリギリ水が足りたらしい。
威力を控えて継戦能力を上げるべきだな、と反省して、
(さて、ダンジョンが消滅する前に逃げるかな)
魔王討伐から数日で住処としていたダンジョンは消滅するので、今すぐどうこうなるわけではないが、陽キャ共が救援を連れて戻ってくる可能性もある。それに、
「――春空! いえ、春空様」
きたこれ。面倒はごめんなので無視、無視。……ん? 春空、様?
(――んん?!)
……たまげた。
何気に振り返ると、ビーちゃんが王様に謁見する騎士みたいに跪いているではないか。
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