第52話 ある就寝前の夫婦の会話

それは夕飯を終え太郎が風呂から上がってきた時の事である。


華恋チョイスの(ラブリーな)パジャマに着替えてリビングにやってきた太郎…

毎度このパジャマ姿は知り合いには見せれないな〜と内心思いつつ、ある小冊子を食器の後片付けを終えソファーでくつろぐ華恋に手渡した。

「華恋さん、これ良かったら参考にしてみない?」

どうやら何かのリスト表の様に見える。

彼女は《なんだろう?》と思いつつ、それを受け取ると中身を確認した。


すると…

「え!これって◯☓県にある染物屋さんのリストじゃん!どうしたのこれ?」

「別の部署なんだけど…ネット通販で取引のある問屋さんが数件あってね、相談したら◯☓県にあるお勧めの染物屋さんとか他にも良さそうな所をリストアップしてくれてさ、それとこれはそこに行く為の交通手段や経路をまとめたやつ♪」


そう…

そのリストは染め物で有名な◯☓県やその周辺地域、それと他にも全国の老舗や新気鋭と称される染物屋のリスト等だった。

「ありがとう〜♡助かるし♪」 

目を輝かせながらそのリストに食い入る華恋。

余程嬉しかったのだろう…

途端に無口になって読み漁っている。

おそらく彼女が知らない染物屋もある様だ。


それと…

「ほら、自分華恋さんと休みの日が違うでしょ?一緒に行ける時は勿論サポートするけど、ソレじゃ間に合わない時もあるだろうし、何より相手方の都合もあるだろうからさ、イザって時の為の保険みたいなものかな」

そう言う事らしい。

流石に用意周到である。

これならいざと言う時、華恋一人でもアポイントさえ取れば出向いて話が出来るだろう。

行動力がある華恋の性格を熟知している。

「あ…でも…そのイザって時って交通費とか結構掛かるし…それに何度も通うかも…」

華恋はそんな太郎の気遣いを喜びつつ、ふとその事に気付き表情を曇らせた。

確かに一人分とはいえ往復の旅費や下手すれば宿泊費も掛かるかもしれない。

それにそうやって行動するのは一回や二回では済まない筈だ。

そうなれば共稼ぎとはいえ家計に負担をかけるのは目に見えている。


でもそんな華恋の懸念を払拭する様に太郎は笑うと…

「それは必要経費ですから(笑)華恋さん、本気でやりたいんならそこは気にしないで、何より後悔だけはしないで下さいね」

今どきのギャルの割にその辺はしっかりしていると感心しつつ、そう諭す太郎。

「でもさ…」

それでもその事を気にする華恋…


そんな彼女に…

「それと華恋さん…実は自分、四月から少し給与が上がりますから♪」

「うっそ〜〜マジ!」

流石ホワイト企業の猫丸産業だ。

それに今回の昇給は、去年のモーターショーの大成功を加味した昇給でもある。

それともう一つ…

これはまだウワサレベルの話なのだが、四月の人事で太郎は新しくできた《営業本部長補佐》という役職につくかもしれないらしい。

つまり鬼無里の直属の補佐役になるかもなのだ。


「ハイ、だから散財しないなら食べてイケますって」

「…ウン…じゃ〜その時はお世話になるし」

「ハイ、どうぞ♪」

何とか太郎の説得に応じた華恋は、素直に彼の提案を受け取る事にした。

内心太郎かそこまで親身にサポートしてくれる事に嬉しくてしょうがない華恋。 


だから…

「と、言う事で〜早速このリストチェックするし〜」

早々にリスト片手に自室へ引っ込む彼女は、おそらくSNS等を利用して色々と調べるのだろう。

その後ろ姿を見ながら微笑む太郎は…

「あ、華恋さん!お風呂は?」

「あ〜と〜で〜」

彼女がまだ入浴してないのをおもい出し、声を掛けるのだが…

どうも振られた様である(笑)

只、それを聞いて何故か安心する様に一人寝室へ向かう太郎。


ちなみに次の日、何故か目の下にクマを作って朝を迎えた太郎とは対象的に、艶々テカテカな肌をしながら出勤する華恋。

確か一人で先に眠りに付いた筈だが…

そうは問屋がおろさなかった様だ(汗)

しかも結構激しかったらしい事を彼の目の下のクマが物語っていた(笑)


最近新たな世界の扉を開いたからだろうな〜

華恋さんが…



…続く…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る